事実経緯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/06 03:12 UTC 版)
「パロディ・モンタージュ写真事件」の記事における「事実経緯」の解説
原告の白川義員は1966年 (昭和41年) 4月27日、オーストリアのチロル州サンクト・クリストフ (Sankt Christoph) で雪山をカラー写真に収めた (以下、「原著作物」と表記)。これは、スキーヤーたちが雪山の斜面を滑走し、シュプール (スキー板の跡) が波状に描かれた光景写真である。この写真は翌1967年 (昭和42年) 1月1日、『SKI '67第四集』(実業之日本社) に掲載された。また、米系保険会社AIU (American International Underwriters、現: AIG) の1968年 (昭和43年) 用広告カレンダーにも当写真は複製採用されている。ただしカレンダー上では白川の氏名はクレジットされていない。白川は数々の雪山撮影を通じて地球の美しさを再発見し、人間の良識と人間性の回復を願って作品を発表してきた著名な写真家である。サンクト・クリストフの雪山撮影に際しては、現地の撮影許可交渉に約2か月を要しており、白川の創作意図を汲んで最終的に許可が下りた背景もあった。撮影にはヘリコプターを要するなど費用は総額1,000万円に達しており、こうして苦労の末に撮影された白川の写真を他者が使用する際には、1枚あたり20万円の使用料が支払われていた取引実績があった (企業物価指数で換算すると、1966年当時の金額は2019年時点の2.02倍に相当)。 一方、被告であるマッド・アマノは、白川に無断でこれを利用・改変した合成写真を創作した (以下、「モンタージュ写真」と表記)。アマノは、波状のスキーシュプールがタイヤの轍 (わだち) に似ていることに着想を得て、AIUの広告カレンダー写真を一部トリミング (カット) した上で、雪山の上部にブリヂストンタイヤ製の巨大タイヤを画像合成したのである。巨大タイヤを背にしたスキーヤーたちが雪山を滑走して逃げようとしている構図に仕立て、自動車公害に追われる人間の悲しさを表現した風刺パロディであるとアマノは主張した。AIU社は自動車保険も取り扱っていることから、AIUの広告カレンダーを元にモンタージュ写真を創作することで、自動車関連企業の姿勢に対して一石を投じるアマノの意図も感じられる作品であった。なお、アマノのモンタージュ写真では、カラーから白黒に改変されている。このモンタージュ写真は1970年5月5日、アマノ自身の写真集『SOS』に収録されて発行。さらに同年6月4日号の雑誌『週刊現代』(講談社) にも「グラフ特集 マッド・アマノの奇妙な世界」の記事コーナーに同一の合成写真を「軌跡」と題して掲載された。 アマノのモンタージュ写真は白川の創作意図を破壊し、茶化して侮辱するものであると白川に受け取られた。さらにモンタージュ写真上に原著作者である白川の氏名は表示せず、© (著作権マーク) を付してアマノの名前のみ写真集『SOS』に記載したことも問題となった。これらを踏まえ、白川は精神的苦痛と名誉毀損に基づく損害賠償、および訴訟費用負担を求めて提訴したのである。
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