事実誤認について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/11 15:33 UTC 版)
「阿闍世コンプレックス」の記事における「事実誤認について」の解説
ただし、仙人の予言に恐怖心を抱いて仙人を殺害し、また阿闍世を殺そうとしたのは父王頻婆娑羅(びんばしゃら、ビンビサーラ)である。母親である韋提希は直接関与したわけではない。韋提希は、幽閉されてまともな食事も与えられなかったビンビサーラ王に、その身に蜜を塗って会いに行っていた。阿闍世はそれを知ったので母親を殺そうとしたが大臣から止められ、後になって母親も幽閉した、というのが仏教の各経典から見られる記述である。これは手塚治虫の『ブッダ』でもこの見解によって描かれている。つまり母親に怨みを持っていたなら父親より先に母親にその怨みを晴らそうとするはずだが、まず父親を幽閉した後に母親を幽閉せしめている。したがって、本来、阿闍世の怨みは母親にではなく、あくまでも父王に向けられたものとするのが正しく、これらの経典内容に基づけば上記の説は事実誤認であり、阿闍世コンプレックスはエデイプスコンプレックスとするのが妥当であるといえよう。また松岡正剛もこの点を指摘し、古沢と小此木によって、阿闍世の怨みが父王ではなく母へと意図的な「改竄」がなされたと(ただし悪意ではなく、あくまでも肯定的に)指摘している。 なお『涅槃経』には、仙人が3年後に死ぬ前に殺害したというくだりはないが、父王(頻婆娑羅)がビプラ山に鹿狩りに出た際に一頭も狩ができずにそこにいた仙人が追い払ったと思い込み臣下に殺させようとした。その仙人は死ぬ直前に怒りの心を起し頻婆娑羅に「来世において心と言葉であなたを殺害するだろう」と言った。釈迦は阿闍世に「父王は自らその罪による報いを受けただけで、そなたに罪はない」と言った、という記述がある。おそらくこの『涅槃経』の記述と、韋提希を主な登場人物とする『仏説観無量寿経』など他の多くの経典の記述が善導によって混同され、それが誤解を生んだ原因となっていると推察される。
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