主電動機の設計
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 03:51 UTC 版)
101系が中央線など駅間距離が長い路線でないと使えない電車になってしまったのは、オール電動車で設計されていたものをモーターの付いていない車両を編成中に増やしたことによるモーターの過負荷が原因である。特に通勤線区は駅間距離が短い路線が多いため、101系電車で運転しようとすると、モーター車の比率を高めるか限流値を下げて運転速度を落とすしかなかった。これは、101系に用いられているMT46Aという主電動機の熱容量が小さかったからである。熱容量にはモーターの絶縁材が大きく関わっており、MT46Aの温度上昇限度は電機子が特別B種の120度まで、界磁がH種で150度までの制約があり、電流を流した時に発生する熱は電流の二乗に比例するため、大きな電流を流して加速度を高めると電動機の大きな過熱を招いて絶縁材の寿命が短くなる。温度が8度上がるだけで絶縁材の寿命が半減するという「8度半減則」という法則もあり、許容温度以上の負荷使用は、特別な場合を除き避けなければならなかった。 RMS電流は求める線区の運転曲線から列車の電流量を計算により求める手法である。その列車が実際に運転を行った後は、主電動機の温度が上昇するが、これを最初から一定の電流を流して同様な温度上昇になる数値を計算により求めることともいえる。よって、その列車が運転曲線通りに運転できるかどうかは、RMS電流を計算して主電動機の連続定格電流以下か、一時間定格電流の80 %以下の電流値であることが求められる。ちなみに、基準運転時分作成のための速度定数業務では速度定数査定基準規程(昭和39年12月10日)によって様々な条件が課せられるが、主電動機の温度制限に関する第33条の内容は下記の通り。 第33条 主電動機の温度は、次の各号に揚げる場合、その温度上昇の許容限度内にあるとみなす。運転線図における加速区間の平均加速電流及びその他区間の電流が1時間定格以内の場合 運転全区間のR.M.S電流(平均二乗平方根電流)が1時間定格の80 %以内の場合 運転線図に基づいて温度上昇を計算した結果が許容限度内にある場合 限流値を一時間定格電流以下に設定して運転する旧形国電と違い、MT46以降の電車用主電動機は電流の過負荷に対する耐性が一時間定格電流の160 %までで設計されており、起動電流を大きく取って加速度を高めると、モーターが過負荷運転になる場合もあった。そこで1959年(昭和34年)の秋頃から、主電動機の温度上昇限度をオーバーせずに運転線図を作成し運転計画を立てることが当然となり、RMS電流計算により推定することが基本となった。 前述のように、101系をモデルチェンジした新型車両では回生ブレーキの採用や出力の増強が見送られ、運転時隔や架線への影響、消費電力量などの経済性なども含めて通勤用途に適した主電動機を新たに設計することになった。消費電力量や起動電流の面からは定格速度を低く取る方が良いが、低く取りすぎると力行率が増して回復運転余力がなくなるほか、高速運転のために極端に界磁を弱める必要が出たり、電気ブレーキ使用時に過電圧になる問題があった。これらを勘案し、標準形通勤電車用としてMT55形主電動機を開発した。回生ブレーキの採用は定期的に発生する維持費用の低減をはるかに上回る試算になったため見送られた。 103系通勤電車用としては、端子電圧375 VのMT55が設計された。想定される速度域や消費電力量などを考慮し、全界磁定格回転数は1,250 rpmで103系に搭載した場合の定格速度は33.5 km/hという中速形の電動機となった。
※この「主電動機の設計」の解説は、「国鉄103系電車」の解説の一部です。
「主電動機の設計」を含む「国鉄103系電車」の記事については、「国鉄103系電車」の概要を参照ください。
- 主電動機の設計のページへのリンク