メキシコ湾での分布
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/12 01:02 UTC 版)
埋蔵石油や天然ガスと、化学合成生物群集や炭化水素湧出、鉱物沈着などの間に関係があるのは明らかである。しかし石油や天然ガスの貯留層は、メキシコ湾の広い範囲に渡り地下数千メートルの深さにあるのに対し、化学合成生物群集は孤立したエリアで、数メートルの厚さの炭酸岩層の上にあるだけである。 メキシコ湾北部斜面の厚さ10キロメートルになる地層には岩塩層が含まれており、岩塩の動きによって影響を受ける。岩塩ドームも参照のこと。メキシコ湾での石油産出の主力は中生代、主にジュラ紀後期から白亜紀後期の層である。輸送管は水面から垂直に約6 - 8キロメートルほどの長さに作られており、これで地中の石油や天然ガスを吸い上げる。一方、天然の海底表面への炭化水素の出現は「湧出」と言われる。地学的な証拠によれば、炭化水素と塩水湧出は数千年も継続することがある。 浮力や圧力などの原因による、石油やガスの地質中での移動は、100万年単位のタイムスケールで行われる。炭化水素が岩盤の裂目を通って湧出する間に地層中で拡散することがあり、その場合湧出帯生物群は広い地域に分布して数百メートルほどになることもある。これは熱水噴出口が局所的であるのとは対照的である。 Rovertは、湧出速度が非常に遅い場合から速い場合までの状況を調査した。非常に遅い湧出は、複雑な化学合成生態系を構成することは無い。多くの場合は単にバクテリアや微生物のマットを形成するだけである。大陸斜面上部の、硬い炭酸塩岩の基層は、サンゴやイソギンチャクなど、化学合成では無い様々な生物群による可能性がある。もう一方の極である流量が多い場合では、炭化水素の湧出に流動化した堆積物が伴い、海底から流出する。結果として泥火山や泥流となる。この2つのタイプの中間に、密度の高く発展した化学合成生態系を存在可能にするものがある。これにはバクテリアマット、チューブワーム、シンカイヒバリガイ、ツキガイ、オトヒメハマグリ、関連生物などが含まれる。これらのエリアはしばしば、ガスハイドレート層の表面かその近くに存在する。それらはまた、堆積岩化した海底にも存在する。その岩石はほとんどは自生の炭酸塩岩だが、時々、重晶石などの珍しい鉱物が含まれる。 メキシコ湾の石油開発のための調査中に、広い範囲の水深で多数の生物群集が発見された。その中にはメキシコ湾で発見されたうちで最も深い水深2,750メートルの場所も含まれる。炭化水素湧出に依存する化学合成生物が報告されたのは、水深290メートルから、2,744メートルの範囲であった。これは、水深305メートル(1,000ft)以下と定義された、メキシコ湾深海と言われる部分にほぼ相当する。 化学合成生物群集は大陸棚からは見つかっていないが、化石記録では200メートル以内の浅い海にいたものが見つかっている。この現象の説明としては、捕食圧の変化によるものではないかと考えられている。50以上の生物群集が外縁大陸棚(英語版)石油開発に関して定義された水域)にあることがわかっている。実際にはさらに存在することと思われる。発見された深度が限られるのは、潜水の限界による所が大きい。1,000メートル以上潜れる潜水艇は不足している。 宇宙からの画像リモートセンシングの技法によって、メキシコ湾北部中央に油膜の存在が示された。これはメキシコ湾に天然の石油湧出があることを示す。該当箇所の深度は1,000メートルより深い。この研究は、さらに多くの炭化水素に依存する化学合成生物群集があることを期待させる。 最も密度の高い化学合成生物群集は、水深約500メートルの地点で発見された。これには発見者によって「ブッシュヒル」という名前がつけられている。岩塩ドーム上に、石油とガスの湧出があり、チューブワームやイガイ類が広く濃密に群生している。この湧出帯は、水深約580メートルの海底から40メートルほど隆起している小山の上にある。
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