ミサイル万能論と「バルカン」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 02:46 UTC 版)
「ガトリング砲」の記事における「ミサイル万能論と「バルカン」」の解説
M61 バルカンの開発から10年ほど経過していたベトナム戦争当時には、アメリカ空軍の戦闘機にガトリング形式の自動火器が搭載された機は少なかった。また、当時製造されたF-4をはじめ一部の戦闘機は初期設計では機関砲の類が搭載されていなかった。 これは当時流行した「航空機は高速化して機銃を撃つ機会はなくなり、高精度化したミサイルによりその必要もなくなる」という戦術思想に基づくミサイル万能論の影響によるもので、航空機に積まれる機関銃・機関砲は対地攻撃用兵器として捉えられるようになっていた。 だが、実戦が始まると、ミサイル万能論が楽観的であったことが以下のような事例で確認された。 ミサイルの命中率・信頼性の低さ 技術的な過大評価とベトナムの高温多湿による品質の低下。 実際に携行されるミサイルの少なさに加え、運用コストの高さ 最大8発のミサイルを搭載できる機でも、戦術上の都合と未使用ミサイルがコスト増を招くなどの理由もあって最大積載量まで満載されることはまずなく、精々4〜6発しか搭載されていなかった。戦闘で使用しなくても、出撃に用いられたミサイルは帰還後の整備を要するためである。またミサイルは重量があるため多く積載すればそれだけ航空機の運動性能が低下したほか、より多くの燃料を消費した。更に空母航空団では、航空母艦の場合狭い飛行甲板上での事故防止のため未使用のミサイルを着艦前に投棄せねばならなかった。 アメリカ軍の当初の交戦規定では「視程外攻撃」を禁止 目視前のレーダー捕捉のみによる攻撃が許されなかったため、結果、敵機による目視・回避される機会を増やした。 任務上の問題 制空戦闘・爆撃機の護衛が任務である以上、その場に留まることが要求された。北ベトナム側はミサイルを全弾発射した後、逃げ帰ることができたが、アメリカ側にはそのような作戦行動は許されなかった。 機関砲の有効性 実際には機関砲用の照準装置も飛躍的に進歩しており、高速化した戦闘機同士の戦闘でも、十分、能力を発揮できた。攻撃機が搭載する機関砲ですら、対戦闘機の自衛戦闘で予想外に大きな効果を上げたことが確認された。 戦術想定の誤り 想定と異なり実際のドッグファイト時は、超音速飛行はあまり行われず、亜音速やそれ以下の速度で行われている。 こうして高い連射性能を持つガトリング形式の自動火器は空対空兵器としての地位を取り戻した。アメリカ空軍最新鋭のF-22Aステルス戦闘機にも、砲身の延長と機関の改良が行われたM61A2が搭載されている。航空機搭載に際する携行弾数は、全力で撃てば1分も経たずに撃ち尽くす程度の弾数、約600〜700発程度(F-4、F-14、F-15E、F-16、F/A-18、F-22等)だが、ごく一部の機体は約1,000発を搭載できた(F-105、F-15C)。 旧ソ連でも1960年代以降はGSh-6-30 30mmガトリング式航空機関砲が用いられたが、対地ロケット弾や対地ミサイルを補う対地掃射用であり、これは現在でもある程度継続使用されているが、搭載している機種は減少している。空対空機関砲としては1970年代半ばまでは23〜37ミリの大口径ガスト式機関砲2〜3門(装弾数は各100発程度)を搭載、それ以降の機関砲は一貫して30ミリ単砲身のGSh-30-1(搭載数一門。携行弾数は100〜150発)が用いられており、MiG-31を除いては空対空用としてガトリング砲を用いることは無かった。 今日のガトリング式機関砲は、前述の空対空機関砲としての用途に加え、その速射性から、海上対空兵器としてのCIWSや、空対地兵器として攻撃機や攻撃ヘリコプターなどにも搭載され、活用域は再び拡大している。
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