ビーシュマの聖戒
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/19 14:31 UTC 版)
ビーシュマとは「恐るべき誓いをした者」という意味である。この誓いとは生涯独身を貫くことである。元々デーヴァヴラタという名前であったが、父の王位を他に譲るために独身の誓いを立てた後は、ビーシュマと呼ばれるようになった。この誓いは、父シャーンタヌが漁師の娘であるサティヤヴァティーと結婚できるように立てられたものである。サティヤヴァティーの父は「娘の子が王位を継げないのであれば、嫁にやることは出来ない」と言った。これを聞いたデーヴァヴラタはサティヤヴァティーの父親のところに行き、自身が王位を継承する意図がないことを告げた。サティヤヴァティーの父は、「デーヴァヴラタに継承する意志がなくても、その息子が継ぐのだろう」と反論した。デーヴァヴラタは独身の誓いを立て、王位と夫婦愛を捨てた。このことが神々の目にとまり、ビーシュマは祝福を受けることとなった。これにより、彼は自分の死に時を決めることができるようになった。(しかし、より強い呪いによって上塗りされることもありうるので、厳密には不死ではない) 「何故ビーシュマほどの者が王位を捨ててしまったのか?」シャーンタヌに批判が集中した。これから生まれ、王位を継承するシャーンタヌの息子が果たして才知を備えた人間なのかという懸念を人々は抱いていた。これを聞いたビーシュマは「王位を捨てたのは私の意思だ。シャーンタヌはサティヤヴァティーの父に何も誓っていないのだから、父が批判されるのはおかしい」と述べた。宰相が、「もし次代の王にその才能が無ければ、一体誰の責任になるのか?」と聞くと、ビーシュマは「次代の王は必ず先王のようになるだろうし、私はその王に忠誠を誓い、仕えるだろう」と答えた。 後年、異母弟のヴィチトラヴィーリヤの妃を探すため、ビーシュマはスヴァヤンヴァラの競技でアンバー、アンビカー、アンバーリカーの3人の姫を勝ち取った。サウラバの王サルヴァはアンバーと恋仲にあったため、ビーシュマを止めようとしたが、完敗した。ハスティナープルに着く直前、アンバーはビーシュマに、サルヴァと結婚したい意思を打ち明けた。ビーシュマは彼女をサルヴァのもとに送り返したが、ビーシュマに敗北した屈辱から、サルヴァは彼女を拒絶した。落胆したアンバーはビーシュマに婚約を要求したが、過去の誓約があったためビーシュマはこれを断った。アンバーは憤慨し、たとえ何度も生まれ変わることになろうともビーシュマに復讐を果たすことを誓った。 アンバーは聖仙パラシュラーマに懇願した。パラシュラーマは、アンバーと結婚すべきであるとビーシュマに述べたが、ビーシュマはこれを断った。「いくら師匠の言い分でも誓いを破ることは出来ない」と述べると、パラシュラーマはクルクシェートラでの決闘を申し込んだ。戦いの場では、ビーシュマは馬車に乗っていたが、パラシュラーマは生身であった。「公平を期すため、馬車に乗り、鎧を着けて欲しい」とビーシュマが言うと、パラシュラーマはビーシュマに神聖な目を与え、「私を見よ」と言った。ビーシュマが見ると、地球が彼の馬車となり、四ヴェーダが彼の馬となり、ウパニシャッドが手綱となり、 ヴァーユとサーヴィトリーが御者となり、サラスヴァティーが鎧となっていた。ビーシュマは馬車から降り、パラシュラーマの祝福を求め、戦いの許可を求めた。パラシュラーマはビーシュマを祝福し、誓約を守るために戦うことを促した。戦いは23日間続いたがついに決着は付かなかった。 異本によると、23日目にビーシュマはプラシュヴァアストラを使用した。ビーシュマがプラバーサとしての前世で学んだ武器であったため、パラシュラーマはこの武器を知らなかった。この武器は相手を眠らせることができ、ビーシュマはこれによって勝利した。しかし、武器を使う直前、天から「その武器を使うことは師匠に対する侮辱になるぞ」という忠告が聞こえた。祖霊はパラシュラーマの馬車を止め、これ以上戦うのは止めよと告げた。パラシュラーマの父と祖父の霊が現れ、次のように言った。「息子よ。ビーシュマや他の王族と二度と争わないでくれ。戦場における勇敢さはクシャトリヤの義務だ。そして、バラモンの義務は、ヴェーダの研究と厳格な修行に努めることである。お前は過去にバラモンを護るため戦ったが、今はその時ではないはずだ。この戦いを最後にせよ。ブリグ族の勇士よ、ビーシュマを倒す事は不可能だ」 最後に、神はビーシュマを称えた。ビーシュマはパラシュラーマの祝福を求めた。パラシュラーマはアンバーに自分の弟子が不屈であったことを述べた。「最高の武器を用いてもビーシュマを倒すことはできなかった。やつは最高の戦士だ。ビーシュマの庇護を求めよ。他に選択肢はない」と。アンバーはこれを固辞し、「苦行によって自らビーシュマを倒す」と宣言して去っていった。アンバーが、願いを果たすため苦行をしながらシヴァ神に祈祷をすると、シヴァ神が現れ、「お前は来世で男として生まれ変わり、望みは叶えられるだろう」と述べた。ビーシュマは王にふさわしい能力と人格を備えていた。真のクシャトリヤであると同時に卓越した苦行者でもあった。ビーシュマは無用に怒ったりすることは無く、真理と道徳の体現者であり、まさしく本当の人間であった。彼の人生は孤独と悲しみに満ちていた。それはヴァシシュタの呪いによるものだった。しかし、ビーシュマは義務から目を背けることはなかったし、大切な人たちを愛することも忘れなかった。
※この「ビーシュマの聖戒」の解説は、「ビーシュマ」の解説の一部です。
「ビーシュマの聖戒」を含む「ビーシュマ」の記事については、「ビーシュマ」の概要を参照ください。
- ビーシュマの聖戒のページへのリンク