ネメシスの探索
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/12 08:59 UTC 版)
「ネメシス (仮説上の恒星)」の記事における「ネメシスの探索」の解説
低温の恒星は赤外線で比較的明るく輝いて見えるため、ネメシスを赤外線で探索することは非常に重要となる。カリフォルニア大学とサンフランシスコ州立大学が運営しているLeuschner天文台で行われた1986年までの観測ではネメシスは発見されなかった。また、1980年代に行われた赤外線天文衛星(IRAS)による観測でもネメシスは発見されていない。1997年から2001年にかけて行われた2MASSによる掃天観測でも太陽系内に別の恒星や褐色矮星は発見されることはなかった。もしネメシスが実在するとしたら、2008年より観測が開始されたPan-STARRSや、現在計画されているLSSTなどの大規模探査なら発見できる可能性がある。 特にネメシスが赤色矮星や褐色矮星である場合、2009年より始まったWISE計画によってネメシスを発見することができると期待されていた。WISEは10光年以内の領域にある表面温度150 K(-123 ℃)までの褐色矮星を検出することが可能で、褐色矮星が地球に近いほど検出が容易になる。WISEによる観測の予備結果は2011年4月14日にリリースされた。そして翌年3月14日には、WISE計画による観測結果の全体カタログがリリースされた。2014年時点のWISEのデータでは、オールトの雲より内側において土星またはそれより大きい質量を持つ未知の天体が10,000 au以内の領域に存在する可能性は除外された。アメリカ航空宇宙局(NASA)は、WISEによる全天観測の結果からネメシスの候補となるような赤色矮星または褐色矮星のいずれもが存在しないとの研究結果を明らかにした。 2012年時点では1,800個以上の褐色矮星が確認されているが、実際には太陽系の近傍に存在する褐色矮星は以前考えられていたよりも少ないとされており、恒星1個につき1個の褐色矮星が存在するのではなく、最低で恒星6個当たり1個の割合でしか存在しない場合もある。太陽のような恒星の大部分は単独星とされている。以前の考え方では、恒星の半分もしくはほとんどの恒星が元々は星団と関連していた二重連星や三重連星、もしくはそれ以上の多重連星であると考えられていた。2017年に発表された研究論文で、Sarah SadavoyとSteven Stahlerは、太陽は形成された時点では連星系の一部であった可能性と主張し、「かなり昔にはネメシスは存在していたかもしれない」ことを示唆した。このような恒星は40億年以上前に連星系から弾き飛ばされてしまったと考えられるため、最近の大量絶滅の周期性の原因にはならず、天文学者のDouglas Vakochは専門ニュースウェブサイトのビジネスインサイダーのインタビューで「太陽は初期の頃は本当に連星系の一部だったが、その初期の太陽と双子を成していた恒星は『脅威のネメシス』ではなく『伴星』のような和やかな名前をつけるに値する」と述べている。 1980年代の計算では銀河系や近くを通過する恒星から摂動の影響を受けることにより、ネメシスは不規則な軌道を持つことが示唆されている。しかし先述のように、MelottとBambachの研究で、そのような予想される不規則な軌道要素とは矛盾する非常に規則的な絶滅率の上昇の信号が示されている。したがってこのような大量絶滅の周期性が支持されている間は、あくまで他の種類の亜恒星天体が存在するという可能性については矛盾しないが、ネメシス仮説とは矛盾しているように見える。2011年のNASAのニュースリリースには「最近の科学的分析は地球上で絶滅が周期的に繰り返されるという考えをもはや支持しなくなり、ネメシス仮説はもう必要ない」と記述されている。 より最近の理論では、他の恒星の接近や、太陽の銀河系内における公転軌道の軌道面に対して作用する銀河面の角度効果などの他の力が、外部にある一部の太陽系天体の軌道摂動の原因である可能性が示唆されている。2011年、Coryn Bailer-Jonesは地球上に存在する衝突クレーターを分析し、初期の単純で周期的な大量絶滅の痕跡(ネメシスによって軌道を乱された彗星などによる天体衝突の痕跡を指す)の発見は統計上の人為的な効果(アーティファクト)であると結論付けられ、クレーターの記録はネメシスの存在を示す証拠にならないとされた。
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