エジプト文字とその断絶
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/17 05:15 UTC 版)
「古代エジプト文字の解読」の記事における「エジプト文字とその断絶」の解説
古代エジプトの歴史の大部分で、2つの主要な書記体系が存在していた。ヒエログリフは主に正式な文書に使われる絵で表した記号の体系であり、紀元前3200年頃に生じた。ヒエラティックは、ヒエログリフに由来する筆記体系で主にパピルスに書くために使われ、生まれたのはヒエログリフとほぼ同時期である。紀元前7世紀初めに、ヒエラティックから派生した今日デモティックとして知られる3番目の文字が登場し、エジプト語を書くための最も一般的な体系になった。デモティックはそのもととなったヒエログリフとは大きく異なるため、記号の間の関係を認識するのは難しい。デモティックはエジプト語を書くための最も一般的な体系となり、ヒエログリフとヒエラティックは主に宗教的用途に限られた。紀元前4世紀、エジプトはギリシアのプトレマイオス朝に支配されるようになり、プトレマイオス朝およびその後のローマ帝国支配下のエジプトではギリシア語とデモティックが並行して使用された。ヒエログリフはますます知られない存在となり、主にエジプトの司祭により使用された。 3つの文字はすべて、口語の音を表す表音文字と意味を表す表意文字が混在していた。表音文字にはそれぞれ1,2,3の音を表す1,2,3文字からなる文字があり、表意文字には単語全体を表す表語文字と表音文字で書かれた単語の意味を指定するために使われる限定符があった。 多くのギリシア人とローマ人の著述家がこれらの文字について書き、多くの人々がエジプト人は2,3の書記体系を持っていることを知っていたが、それがどのような体系であるかを完全に理解している人はいなかった。紀元前1世紀、シケリアのディオドロスは、はっきりとヒエログリフを表意文字であると記述しほとんどの古典文学の著者はこの仮定を共有した。紀元後1世紀、プルタルコスは25個のエジプト文字に言及し、ヒエログリフやデモティックの表音文字としての側面に気づいていた可能性を示唆しているが、その真意ははっきりしない。西暦200年ごろ、アレクサンドリアのクレメンスは、いくつかの文字が表音文字であることを暗示しているが、文字の隠喩的意味に注目していた。紀元後3世紀にプロティノスは、ヒエログリフは言葉を表しているのではなく、描かれたものの本質に対して神から感じた基本的な洞察を表していると主張した。紀元後4世紀、アンミアヌス・マルケリヌスは、あるオベリスクにあるヒエログリフの文を他の著者が翻訳したものを写したが、その翻訳は非常に不正確であったため書記体系の原理を理解するのには役立たなかった。現代まで残る唯一のヒエログリフに関する広範な議論は、ホラポロという人物により4世紀ごろに書かれたとされる『ヒエログリュピカ』である。ここでは個々のヒエログリフの意味について議論されているが、句や文を作るためにそれらの文字がどのように使われたかは議論されていない。書かれている意味のいくつかは正しいが、多くが間違っており、全てが寓話として誤解を招くような説明がなされている。例えば、ガチョウの絵は、ガチョウが他の動物よりも子どもを愛しているといわれているため「息子」を意味すると説明している。実際には、エジプト語において「ガチョウ」と「息子」に対する単語には同じ子音が入っていたため、ガチョウのヒエログリフが使われていた。 ヒエログリフ、デモティックの両方が紀元後3世紀に消え始めた。神殿の聖職者は消滅し、エジプトは徐々にキリスト教に改宗され、エジプトのキリスト教徒はギリシア語から派生したコプト文字で筆記を行ったため、これがデモティックに取って代わるようになった。最後のヒエログリフの文は西暦394年にフィラエのイシスの神殿の聖職者によるものであり、最後のデモティックの文は西暦452年に同地に刻まれたものである。紀元前1000年より前のほとんどの歴史はエジプト文字かメソポタミアの書記体系である楔形文字で記録されていた。2つの文字の知識が喪失したため、遠い過去の記録は限定的で歪んだ情報源を基にしたものしかなくなってしまった。エジプトのこのような情報源の主要な例は、紀元前3世紀にマネトにより書かれたエジプト史である。原文は失われ、ローマ人の著者による要約と引用でのみ残った。 エジプト語の最後の形であるコプト語は、642年にアラブ人がエジプトを征服した後もほとんどのエジプト人により話され続けていたが、徐々にその地位をアラビア語へ譲っていった。コプト語は12世紀に消滅し始め、その後、コプト正教会の典礼言語として主に生き残った。
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