つくられた抜け道
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/14 07:37 UTC 版)
西ドイツ競争制限禁止法の原則規定は1条で、2条から8条が例外規定であった。そのうち4条で定める適用除外対象が不況カルテルであり、5条の対象は合理化カルテルであった。1965年と1973年の法改正により新たに専門化カルテルが適用除外となった。5条2項から分離して各年に5a条と5b条が新設されたのである。西ドイツ競争制限禁止法は日本の独占禁止法に影響を与えた。まず西ドイツ競争制限禁止法4条の下地となった草案2条が独禁法旧24条の3へ伝播し不況カルテルを容認した。そして西ドイツ競争制限禁止法5条が独禁法旧24条の4となり合理化カルテルを許容した。 不況カルテルとは、字のごとく不況を耐え抜くためのカルテルである。不況カルテルの「不況」とは、景気循環で訪れる不況をいうのか、それとも構造的不況をいうのか問題になる。この点西ドイツ競争制限禁止法草案2条が削除されたのは、両方の不況、特に循環不況においてカルテルを認めていたことが批判されたからである。この意味で日本独禁法の不況カルテル規制は緩く、ニクソン・ショックによる円高不況とオイルショックによるコスト高不況の1970年代に造船業やステンレス業界などから多くの申請があり、認可された。西ドイツでは、欧州石炭鉄鋼共同体の緩さを除けば1957年以降、申請数がわずか、認可は皆無であった。1978年3月31日に連邦カルテル庁が判断原則を公表してからは認可されやすくなっていた。 西ドイツで不況カルテルが認可される前提要件は4点あった。まず、カルテルの主体が生産・製造・加工または組立部門(限定列挙)であること。製品の有体物であることまで必要とするかどうかについては、電気その他エネルギーもふくむと解釈された。次に、構造不況のため需要回復の見通しが立たないこと。不況を判断する地域については従来からの販売態様を基準とした。そして、カルテルによる競争制限が、生産能力を需要に計画的に適合させていくのに必要な限度であること。最後に、比較衡量に適っていること。4条で義務となっている設備廃棄計画が、当事者間で合意に達するためにカルテルを必要とする場合などは許される。以上4点に加え、特に産業部門不況カルテルについては8条2項でLRA 並みの厳格な基準を設けていた。 合理化カルテルとは、字のごとく事業を合理化するためのカルテルである。合理化内容いかんは独禁法で4種類を限定列挙していたので専ら西ドイツの問題であった。第一には経営合理化、つまり費用対効果の改善である。しかし量産化であえて品質を下げるなどというのは駄目で、一応イノベーションが志向された。国民経済は二義的要素であった。そして、合理化カルテルは独禁法で生産業に限定していたが、西ドイツではサービス業に適用できた。かかる合理化カルテルは西ドイツ競争制限禁止法準備段階当初からの基本構想であって、ルール地方のゲオルクなどの取扱いと関係して立法に向けて草案が修正された。そして5条1項の規格統一カルテルは届出さえすれば認可されたから、欧州石炭鉄鋼共同体と同様に輸出先には遠慮がなかった。 規格統一カルテルの最初は19世紀にさかのぼる。メートル条約がその後の発展を基礎づけた。1896年に欧州で国際材料試験協会が発足して国際標準化時代が到来した。2年後設立のアメリカ支部はASTMインターナショナルである。このブームに乗って1926年に万国規格統一協会ができた。やがてこれを国際標準化機構が承継した。20世紀初頭には国際電気標準会議と国際無線電信連合が並行して発展をとげた。2001年からは世界標準協力(英語版)が、国際標準化機構、国際電気標準会議、そして国際電気通信連合のITU-Tから、会長・副会長・事務局長等を集めて一層緊密に連携している。最近で国際標準化の俎上に上がっている構想はスマートグリッドとブロックチェーンである。欧州石炭鉄鋼共同体から不況・合理化カルテルまでは系譜としての関係ができている。そして、鉄鋼カルテルの前にリンクを列挙した国際カルテルの中には鉄鋼カルテルと出身地の近いものが幾つか存在している。
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