若者の車離れ
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購入対象車種の変化と自動車メーカーの責任
2009年10月19日の毎日jpのコラムにて、トヨタ自動車幹部による、「リアルな自動車ゲームがあれば車は要らなくなる」という主旨のコメントが掲載された。
しかしその一方、悪いのはエコや機能性に腐心して魅力あるクルマを作ってこなかった自動車メーカーおよびその製品ラインナップであると指摘する向きもある。
- 「今の車には魅力がない」とする指摘
- ガリバー自動車研究所所長は「(確実に)売れるミニバンや軽自動車ばかり(さらに2010年代以降はハイブリッドカーや一部のアイドリングストップ機構を装備したエコカーも)作り、スポーツカーなどの魅力的な車を作らなくなったメーカー側に問題がある」と述べている[39]。
- 自動車評論家の島下泰久も「行き過ぎたエコ偏重の商品作りが、車本来の楽しさをドライバーから奪い、結果として車離れを加速させている」と指摘している[40]。
- また同じく自動車評論家の徳大寺有恒は、日本車の「機械としては優秀だが、愛着を持てるか?」という疑問に触れつつ、「セクシーじゃない(つまり魅力に乏しい)クルマから、若者が離れていくのは当然のことなんだ。」と述べている[41]。
- 「車が好きになるキッカケ作りが必要」とする指摘
- ソニー・コンピュータエンタテインメント広報は、前出のトヨタ幹部の意見に対し「車のゲームをきっかけに、実車に興味を持つ人がいると聞いている」と、否定的な態度を採った。
- 田中辰巳は(自動車メーカーほどの力があれば)「トレンディードラマのデートシーンに、車を登場させることなども難しくない」などとし、最近のメーカーが若者がクルマに乗りたくなるような仕掛けを行っていないという点を指摘した[36]。
- 「上述のどちらも原因だ」とする指摘
しかし、自動車メーカーは排出ガス規制が厳しい上に飽和状態になった日本市場よりも需要の堅調な海外市場を重視するようになっている。特に仏ルノー傘下となった日産自動車は、日本でも好調な販売実績を示したティーダを2012年度までで日本国内販売を中止し、主要国ほど自動車排出ガス規制が厳しくないアジアやアフリカ諸国など海外の新興国向けの専用車とする戦略を採った。
なお、20世紀末までは日本国内にもスポーツカーなどの魅力的な車が多数存在したが、平成12年排出ガス規制によって多くの車種が廃止された。この影響も含め、車種だけでなく車両仕様にも変化があり、その例の一つが前輪駆動車(FF車)への偏重化である。FF車のスポーツカーで一定の成功を収めた車種(ホンダ・シビックタイプR)も存在するが、かつて後輪駆動車(FR車)で設計されていた車がモデルチェンジを機にFF車に設計変更されたり(トヨタ・カローラレビン)、FR車で売り出されていた車種が後継に当たる車種が開発されずに絶版になる(日産・シルビア)など、FR車のスポーツカーといった車としての魅力を前面に打ち出した車種は減少傾向となった。実際、経営方針の変化という面もあるが、新規販売されているものの大半がFF車であり、FR車の新車が希少化しているのも事実である。
またそもそも2000年代以降、「スポーツカーといえばクーペ」の図式が崩壊しつつあった。これらの片鱗を挙げるとするならばランエボ・インプWRXのようなハイエンドスポーツカーと呼んで差し支えないスポーツセダン・ホットハッチの台頭、チューニングカーにおいてマークIIやローレルなどのDセグメントセダンがベース車として台頭するなどがある。このようにパフォーマンス面でセダンやハッチバックがスポーツカーたりうるようになる一方でクーペ(特にノッチバッククーペ)に関しては同一・近似車種にセダンが存在する車種だと差別化が難しいうえ実用性に劣るという弱点がある。日本国外の事例にはなるがヒョンデ・エラントラは5代目モデルでクーペを設定したが、アメリカでも本国である韓国でもセダンとの差別化に失敗し本代限りになってしまった。その後ヒョンデのCセグメントスポーツはエラントラと派生ハッチバックのi30に設定される「N」が受け持っており、韓国市場ではアヴァンテN(エラントラNの韓国名)の登場によりハッチバッククーペのヴェロスターが販売終了に追い込まれた。
また、魅力の一つとして語られるマニュアルトランスミッション(MT)だが、採用車種の極端な減少(ブランディングとして走りの楽しさを強調するマツダを除くとCセグメント以上のスポーツ車以外ではほとんど選べない)が起きているのも事実だが、マシンのハイパワー化によってMT操作のほうが危険であるという見方[42]が強くなっており、高価格帯のスポーツカーメーカーとして代表的なフェラーリ、マクラーレンなどは軒並みMTを廃止してセミオートマチックトランスミッション(セミAT)への切り替えが進んでいる。そのため、MT仕様のスポーツカーがないが故の車離れについては評価が分かれる。
一方2013年度の日本国内自動車販売は、トヨタ車の市場占有率が3割を下回った反面、輸入車が過去最高の国内販売シェアの5%を占めるなど「(上級車の)日本車離れ」も懸念される状況になっている[43]。
また、トヨタは日本市場では車の販売が大幅に増える見込みは少ないこと、また車の利便性を高めるには公共交通機関など他の交通モードとの連携を高める必要があること[44]から、2018年よりMobility as a Service(Maas)に力を入れ始めるなど車社会から一歩進んだ交通システムを構築しようとしている[45]。
もっとも、1990年代以降消費者が自動車に求めるものが居住性や燃費、実用性に変わりつつあるのは世界的な流れとなっている。2000年代以降のクロスオーバーSUVの流行では、ポルシェやランボルギーニといったそれまでクーペやスポーツカーをメインとした自動車メーカーも参入するようになり、特にポルシェでは売り上げの8割がクロスオーバーSUVを占めるようになっている。フォルクスワーゲンではグループ各社で製造するハッチバックから3ドア車を廃止しているほか[46]、クライスラーやフォードは2018年にそれぞれ北米においてセダンの販売から撤退するなどの動きが見られる[47]。このため、車離れをメーカーに責任転嫁する論調もおかしいという指摘もある。
注釈
- ^ 全て車両本体・消費税抜き価格。価格に関してはFX、ランクスはGoo-net掲載情報に基づく。オーリスに関しては2013年2月版新車カタログより。スポーツに関してはトヨタ公式サイトに税抜価格が掲載されていなかったため、同サイト掲載の税込価格より算出。全て2019年9月29日閲覧。
- ^ 規定では、「生産から25年以上経過している車」が該当する。注意点として「生産から25年以上」が基準となるため、同じ車種でもそれに該当しないケースも存在する。
- ^ 仮運転免許は道路交通法第87条第6項の規定により、仮運転免許の有効期間は、その運転免許試験(適性検査)を受けた日から6か月とされている。そのため、取得に専念する時間が一定期間発生することが避けられないため、仮に期限が切れてしまった場合、講習は一からの再スタートとなる(正確には技能実習が再スタートとなる)。
- ^ このような大都市部では、タクシー会社も非常に充実している。このため、このような地域ではタクシーを日常生活で頻繁に利用しても、自家用車を保有するより金銭的負担が少ない場合もある。
- ^ このような大都市部では、ビジネスホテルや、それより安価に利用できるインターネットカフェが多数存在しているため、自動車が無い場合でも、深夜帯の行動も可能である。
- ^ サイオン設立の背景にはトヨタ/レクサス両ブランドで付いてしまった「機械としては優秀だが退屈」というトヨタ車のネガティブイメージがあった。
参照元
- ^ a b 四元正弘 2012, p. 39.
- ^ a b 四元正弘 2012, p. 40.
- ^ 無署名 (2008), “「若者たちの○○離れ」”, 週刊ダイヤモンド 2008年12月27日・2009年1月3日合併号 (ダイヤモンド社): 174頁
- ^ 西村大志 2012, p. 22.
- ^ 西村大志 2012, p. 21.
- ^ “2015年度乗用車市場動向調査” (PDF) (日本語). 日本自動車工業会. p. 14 (2016年3月). 2016年6月17日閲覧。
- ^ a b c 廣田利幸(トヨタ自動車) (2010年7月26日). “「若者のクルマ離れについて」” (PDF). 国土交通省. 2014年8月11日閲覧。
- ^ 財団法人自動車検査登録情報協会[1] (PDF) [リンク切れ]
- ^ カローラ セダン1.5X 5M/T(2000年8月) 税抜127.3万円
ランサーセディア セダン1.5MX 5M/T(2001年5月) 税抜112.3万円
ファミリア セダン1.3ES 5M/T(1999年8月) 税抜99.1万円
すべてGoo-net.comより、2020年4月5日閲覧 - ^ 価格は各社公式サイトより(カローラ、ゴルフは税抜価格が掲載されていなかったため税込価格より算出)。2020年4月5日閲覧。シエンタに関しては2022年10月1日閲覧。
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- ^ ドイツのF1テレビ視聴者数が激減 「ほとんど誰も見ていない」とドイツ紙Yahoo!ニュース 2021年10月17日閲覧
- 1 若者の車離れとは
- 2 若者の車離れの概要
- 3 根拠
- 4 要因とされるもの
- 5 分析
- 6 影響
- 7 購入対象車種の変化と自動車メーカーの責任
- 8 日本以外の事例
- 9 脚注
- 若者の車離れのページへのリンク