人工臓器 人工臓器の概要

人工臓器

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/03/12 14:13 UTC 版)

固定された電源、フィルター、化学的な処理装置などと接続されていないことが人工臓器の特徴であるとの考え方もあり、定期的な充電や、消耗品の交換を必要とする機器も人工臓器に分類すべきでないとの意見もある。この立場によれば、例えば人工透析装置は腎臓の機能的代替物であり人体に接続される医療機器であるが、人工臓器ではないということになる。

日本人工臓器学会では「病んだ臓器の代行を目的として開発されたもの」[1]としており、透析装置は人工臓器に含まれるとの立場をとっている。

概要

心臓肝臓腎臓などの機能が損なわれると種々の病気になり、重い場合には生命の危機に晒される。人工臓器は、このように病んだ臓器の代行を目的として開発されたもので、様々な治療を通じて機能補助に用いられている。

人工臓器には材料工学電子工学等の機械技術を用いたものや、組織工学(英Tissue Engineering)を用いたものがある。前者の例として人工心臓、後者の例として培養皮膚が挙げられる。

歴史

損傷した器官を補綴する器具のうち四肢に関する物の歴史は極めて古く、最古の義肢についての記録は紀元前12世紀に成立したリグ・ヴェーダである[2]。 古代エジプト人は義肢についての先駆者であり、紀元前10世紀ごろの新王国時代の遺体から木製のつま先が見つかっている[3]。 もう一つの古い記録はヘロドトスの書き残した、紀元前5世紀ころの予言者ヘゲシストラトスである。スパルタの捕虜であった彼は、逃げ出すため自ら脚を切断したのち、木製の義足を用いたとされている[4]。 一方、現在のような体内埋込み型の医療機器が比較的新しく、第二次大戦後のことである。埋込み型の器具は異物反応のため実現困難であると考えられていたが、イギリスの医師ハロルド・リドリーが飛行士の治療からスピットファイアの風防が異物反応を起こさないことを見出し、1949年眼内レンズを開発した。これが埋込み型医療機器の端緒である。

1950年代に血管人工関節などの埋込み型器具が、合成樹脂金属を用いて作り出された。しかし、異物反応によって人工臓器の機能が損なわれたり、凝固反応によって血栓が出来たりするなど、長期にわたる使用には問題があった。その後、材料工学の進展に伴い生体適合性に優れた材料が生まれた。例えば、人工骨であるが、初期の埋め込み型人工骨ステンレスアルミナといった金属材料を使ったものであった。これらの材料は骨と機械的強度が大きく異なる為、数年から10年に一度、外科的検査またはレントゲン検査によって、体内に埋め込まれた人工骨を検査し、場合によっては取り替える等、患者に負担をかける治療方法となっていた。しかし、1980年代にリン酸カルシウムという骨の組成に近い素材を用いる事によって人工骨の周りに生体組織が定着しやすくなった。この事によって、人工骨を用いた医療を患者が安心して受けられるようになった。

機械技術に基づく人工臓器

セラミックス製の人工骨インプラント治療で用いられる歯科材料、更には機械式の補助人工心臓等がこれにあたる。他の例としては、心臓疾患の患者に直接埋め込んでしまうペースメーカ白内障の悪化によって水晶体を除去された患者の眼球に直接埋め込む人工水晶体等もこれにあたる。

更に、近年臨床試験が完了し実用化されている人工臓器としては、電子工学技術と聴神経との接続によっての聞こえない人に聴覚を与える人工内耳もあげられる。また、多点電極を用いて視覚中枢へ電気刺激を行う事によっての見えない人に視力を与える人工視覚システム(人工網膜、人工眼)の実用化に向けて研究開発が進んでいる。

近年では、体力の衰えや不慮の事故等によって生じた、機能障害を補助する事を目的として、機械コンピュータ技術を組み合わせた、人工肢や人工腕、更には補助装置等も実用化に向けた開発が進んでいる。これまでは、自分の意思で義手義足を動かす事が出来なかったが、運動神経系から生じる微量な電気信号をキャッチする事ができるセンサーの開発等によって、自分の意思で義手や義足を動かす事が可能になった。無論の事ではあるが、今後は感覚神経系とのフィードバック等も考慮に入れた人工肢や人工腕等の開発も進むものと思われる。これによって、失われた感覚等を取り戻せる可能性もある。

更にこれらから一歩進んで、脳神経機能そのものを制御する試みも開始されている。例えば、東北大では、ペルチェ素子と経皮エネルギー伝送システムの組み合わせによる脳神経機能後期機能制御装置の開発を進めている[5] [6]。このシステムは、てんかんなどの脳神経系における病的発作に対し、完全に無侵襲的に対応できる点で特徴をなす。


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  1. ^ 日本人工臓器学会 人工臓器とは?
  2. ^ A Brief Review of the History of Amputations and Prostheses Earl E. Vanderwerker, Jr., M.D. JACPOC 1976 Vol 15, Num 5”. 2011年5月6日閲覧。
  3. ^ No. 1705: A 3000-Year-Old Toe”. Uh.edu (2004年8月1日). 2013年3月13日閲覧。
  4. ^ Herodotus, The Histories. 9.37
  5. ^ Biomed Pharmacother. 2005 Oct;59:236-8
  6. ^ 東北大学加齢医学研究所 病態計測制御分野 脳神経機能制御装置の発明。
  7. ^ Michael Olausson, Pradeep B Patil, Vijay Kumar Kuna, Priti Chougule, Nidia Hernandez, Ketaki Methe, Carola Kullberg-Lindh, Helena Borg, Hasse Ejnell, Suchitra Sumitran-Holgersson (2012), “Transplantation of an allogeneic vein bioengineered with autologous stem cells: a proof-of-concept study”, the Lancet 380: 230--237, doi:10.1016/S0140-6736(12)60633-3 
  8. ^ Paolo Macchiarini, Philipp Jungebulth, Tetsuhiko Go, M Adelaide Asnaghi, Louisa E. Rees, Tristan A. Cogan, Amanda Dodson, Jaume Martorell, Silvia Bellini, Pier Paolo Parnigotto, Sally C. Dickinson, Anthony P. Hollander, Sara Mantero, Maria Teresa Conconi, Martin A. Birchall (2008), “Clinical transplantation of a tissue-engineered airway”, the Lancet 372: 2023--2030, doi:10.1016/S0140-6736(08)61598-6 
  9. ^ Gonfiotti, Alessandro; Jaus, Massimo O.; Barale, Daniel; Baigura, Silvia; Fontana, Giovanni; Sibila, Oriol; Rombola, Giovanni; Jungebluth, Philipp et al. (2014), “The first tissue-engineered airway transplantation: 5-year follow-up results”, the Lancet 383: 238--244, doi:10.1016/S0140-6736(13)62033-4 
  10. ^ Raya-Rivera,Atlantida M.; Esquiliano, Diego; Fierro-Pastrana, Reyna; Lopez-Bayghen, Esther; Valencia, Pedro; Ordorica-Flores, Ricardo; Soker, Shay; Yoo, James J. et al. (2014), “Tissue-engineered autologous vaginal organs in patients: a pilot cohort study”, the Lancet, doi:10.1016/S0140-6736(14)60542-0 
  11. ^ Ilario Fulco, Sylvie Miot, Martin D. Havg, Andrea Barbero, Anke Wixmerten, Sandra Feliciano, Francine Wolf, Gernot Jundt, Anna Marsano, Jian Farhadi, Michael Heberer, Marcel Jakob, Dirk J. Schaefer, Ivan Martin (2014), “Engineered autologous cartilage tissue for nasal reconstruction after tumour resection: an observational first-in-human trial”, the Lancet, doi:10.1016/S0140-6736(14)60544-4 
  12. ^ Thomas H. Petersen, Elizabeth A. Calle, Liping Zhao, Eun Jung Lee, Liqiong Gui, MichaSam B. Raredon, Kseniya Gavrilov, Tai Yi, Zhen W. Zhuang, Christopher Breuer, Erica Herzog, Laura E. Niklason, “Tissue-Engineered Lungs for in Vivo Implantation”, Science 329: 538--541, doi:10.1126/science.1189345 
  13. ^ Song, Jeremy J.; Guyette, Jacques P.; Gilpin, Sarah E., Nature Medicine, 2013, pp. 646--651, doi:10.1038/nm.3154 
  14. ^ Basak E Uygun, Alejandro Soto-Gutierrez, Hiroshi Yagi, Maria-Louisa Izamis, Maria A Guzzardi, Carley Shulman, Jack Milwid, Naoya Kobayashi, Arno Tilles, Francois Berthiaume, Martin Hertl, Yaakov Nahmias, Martin L Yarmush, Korkut Uygun (2010), “Organ reengineering through development of a transplantable recellularized liver graft using decellularized liver matrix”, Nature Medicine 16: 814--820, doi:10.1038/nm.2170 


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