マインドコントロール マインドコントロールの概要

マインドコントロール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/23 03:45 UTC 版)

主に、後述の「セルフコントロール」と対する意味で使われるが、セルフコントロールの上位概念として使われる場合もある。

概要

元々マインドコントロールという言葉は、「潜在能力を引き出すためのトレーニング法」という自己啓発的でポジティブな意味合いで使われていた[4]。マインドコントロールには、学校や教育、様々なトレーニングで使われる人の認知行動原理と同じ技術が用いられる[3]。自らの心を平静に保ったり、集中力を高めるなど、心理状態を制御・調整する意味で、この言葉が使われることもある[3][5]。そのため、良いマインドコントロールと悪いマインドコントロールがあるという考え方もあるが、一般的には、「破壊的カルト」等のように何らかの詐術的な意味、他者を騙す性格を持ったものをマインドコントロール、本人に役立つ心理学の応用をセルフコントロールと言う[3][2][6]。本項では前者について説明する。

マインドコントロール論では、支配された人の意識状態は、普段の正常な意識とはかけ離れたものになるとされる[7]。(1) 破壊的カルト教団による信者の利用、(2) 社会心理学的技術の応用、(3) 他律的行動支配 の3つが一般定義である[7]。人格の「解凍・変革・再凍結」の理論をベースに、認知不協和理論や影響力論、ジャック・ヴァーノンの感覚遮断実験、フィリップ・ジンバルドー監獄実験、プライミング効果論などの社会心理学的テクニックを活用して行われるとされる[4]。宗教的自我変容を最も世俗的理解に立って説明したモデルであり、世間に広く知られている[7]

社会心理学の「社会的影響力の行使、説得」という分野においては、不法行為責任を追及するために相当因果関係を説明する議論として、かなり議論が確立されており、若者の消費者被害を心理的要因から分析する等、近年も活用されている[8][9]。社会心理学者の西田公昭以外にマインドコントロール論を専攻する者がいないなど、専門の研究者は少ない[7]。近年目立った議論の発展がなく、理論面・実践面から様々な疑問や批判が向けられている[4]。宗教研究の分野では、国内外でも懐疑的な見方が少なくない[4][7][8]。心理学・精神医学では、マインドコントロールという分析概念は未だに公認されていない[7]

なお、マインドコントロール論への批判を、カルト側が自らの問題を擁護し正当化するために利用することがあり、注意を要する[8]。マインドコントロール論の議論と、マインドコントロールと社会で批判されるような宗教団体による社会問題の有無は、別の次元の話である[8]

発祥

近代のマインドコントロールは、1950年代中国共産党が反対者の転向に用いた「洗脳」が知られている[10]。40年代の中国で共産主義に賛同しない人間を収容施設で思想改造しようとした試みを研究したロバート・J・リフトン著作『思想改造の心理──中国における洗脳の研究』(1961年)がマインドコントロール論の出発点とされる[4]。調査した25人のうち、共産主義に転向した者は1人のみであり、リフトンは「彼らを説得して、共産主義の世界観へ彼らを変えさせるという観点からすると、そのプログラムはたしかに、失敗だと判断せねばならない」と述べている[4]。しかし、この研究はのちにマインドコントロール論者たちにより、失敗だった事を曖昧にしたまま「マインド・コントロールは洗脳よりも『もっと巧妙で洗練されている』」という形で触れられるようになった[4]

1970年代アメリカ合衆国において、当時史上最大の被害者を出したカルト教団の集団自殺人民寺院事件があり、カルト宗教の信者などが周囲から見てまったく別人のようになり、以前のような家庭生活を送ることや脱会させることが困難になるなどし、家族・友人らによってカルトの恐怖が広く語られるようになった[11]。1988年には、統一教会の元学生リーダーで脱会後心理学を学びカルト教団信者の脱会を助けるカウンセラーとして活動しているスティーヴン・ハッサンが『マインドコントロールの恐怖』を刊行し(93 年に邦訳)、1995年には社会心理学者の西田公昭が『マインド・コントロールとは何か』を出版、マインドコントロール論は「カルト」を恐れ嫌悪する感情の後押しを受けて急速に広がっていった[4]

日本

統一教会などの報道を通じ、カルト宗教の対策に取り組む弁護士らにより語られるになった[11]1992年の統一教会の合同結婚式に参加した山崎浩子が、翌1993年に婚約の解消と統一教会から脱会を表明した記者会見で、「マインドコントロールされていました」と発言したことによりこの語が広く認知されるようになった[12][13][7]。山崎浩子がこの言葉を知ったのは、統一教会脱会信者の支援を続けている弁護士・牧師グループを通じてであり、彼らはスティーブン・ハッサン著『マインド・コントロールの恐怖』に依拠していた[7]。日本にカルト、マインドコントロール論を紹介し、メディアに広め用語として定着させたのは、統一教会信者の奪回・脱会を目的とする反カルトの立場に立つ人々だった[11]。社会心理学者の西田公昭は、この記者会見の報道の際に、マインドコントロールの定義をきちんと説明する人がなく、「心の操作」「精神の操作」「自分自身の心の調整」など、様々な意味に使われるようになってしまったと述べている[8]

同年4月にハッサンの著作が統一教会信者の脱会カウンセリングを二十年来続けていた浅見定雄の訳で出版され、本書では統一教会の信者獲得のテクニックが「心理学的」に分析された[7]

実践家外でマインドコントロール論を展開しているのは、西田公昭で、彼の議論はハッサンの議論を心理学実験の傍証によって発展させたものである[7]。櫻井義秀によると、彼以外にマインドコントロール論を専攻している学者はみられない[7]

オウム真理教団は1994年まで、現代社会こそがマインドコントロールの場に他ならないという主張を、機関誌を通じて盛んに行っていた[11]。1995年にオウム真理教事件が起こると、教団は逆に信者をマインドコントロールしていたという批判を受けることになった[11]

オウム真理教事件に対して、マスコミや反カルト運動家は、マインドコントロールという言葉を犯罪を犯した信者の心理状態を示すものとして使用した[11]。さらに信者の裁判で、信者の心理鑑定の証人として一部の心理学者がマインドコントロール論を述べ、教団がマインドコントロールを行っていたと社会的に公認された[11]。被告の信者の中には、法的戦術としてマインドコントロールされていたことを主張し「尋常な精神状態ではなかったために責任能力を欠いている」ことを弁護するものも出た[11]。ただし、裁判所はオウム真理教による「マインドコントロール」が信者らに対してあったという事実認定は行わず、「マインドコントロール」行為を直接不法行為と認定していない[8]


  1. ^ 西田公昭 科学研究費助成事業 研究成果報告書「マインド・コントロール防衛スキルの構造とその心理特性の測定法の開発」 科研費による研究 平成27年6月19日
  2. ^ a b c 『実用日本語表現辞典』
  3. ^ a b c d 山根寛 2001.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y 大田俊寛 (2018年9月28日). “社会心理学の「精神操作」幻想 ~グループ・ダイナミックスからマインド・コントロールへ~”. 科研基盤研究A「身心変容技法の比較宗教学-心と体とモノをつなぐワザの総合的研究」(2011年度-2014年度)身心変容技法研究会. 2020年5月18日閲覧。
  5. ^ 三省堂『大辞林』
  6. ^ 西田公昭 講演『マインドコントロールとは何か』 1995年、カルト被害を考える会
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 櫻井義秀 1996.
  8. ^ a b c d e f g h i j k 櫻井義秀 2003.
  9. ^ a b 西田公昭 「マインド・コントロールとは?」 第5回「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」平成30年5月25日開催、消費者庁
  10. ^ ロバート・ジェイ・リフトン思想改造と全体主義の心理学英語版』、1981年ISBN 9780807842539ISBN 9780393002218ISBN 9781614276753
  11. ^ a b c d e f g h i j 櫻井義秀 1997, p. 115.
  12. ^ 紀藤正樹(著)『21世紀の宗教法人法』(朝日新聞社 1995年11月 ISBN 978-4-02-273068-8
  13. ^ 宗教社会学の会(編) 『新世紀の宗教―「聖なるもの」の現代的諸相』(創元社 2002年11月)ISBN 978-4-422-14022-3
  14. ^ a b スティーヴン・ハッサン浅見定雄 (訳) 『マインド・コントロールの恐怖』(恒友出版 1993年6月) ISBN 978-4-7652-3071-1
  15. ^ 西田公昭・黒田文月 2003.
  16. ^ 櫻井義秀 2012, p. 8.
  17. ^ 櫻井義秀 1997, p. 117.
  18. ^ 青春を返せ訴訟判決文
  19. ^ “オウム事件、井上被告の死刑確定 9人目”. 47NEWS. 共同通信 (全国新聞ネット). (2010年1月13日). オリジナルの2013年5月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130514222921/http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010011301000753.html 2010年1月14日閲覧。 
  20. ^ 小林惠智『マインド・コントロールのすすめ―そのメカニズムと積極的活用法』(1995年11月)ISBN 978-4-7698-0737-7
  21. ^ マデリン・ランドー トバイアス (著), ジャンジャ ラリック (著), Madeleine Landau Tobias (原著), Janja Lalich (原著), 南 暁子 (訳), 上牧 弥生 (訳) 『自由への脱出―カルトのすべてとマインドコントロールからの解放と回復』(中央アート出版社 1998年9月) ISBN 978-4-88639-870-3
  22. ^ 榛 2010, pp. 20–21.
  23. ^ 『統一教会の検証』
  24. ^ 『週刊金曜日』1994年5月13日号 p20~25
  25. ^ 『週刊金曜日』1994年5月20日号 p36~40
  26. ^ 『「マインド・コントロール理論」その虚構の正体ー知られざる宗教破壊運動の構図』
  27. ^ 赤旗社会部pp.30-35「ライフトレーニング」
  28. ^ a b c d e f g 赤旗社会部pp.25-30「合宿セミナー」
  29. ^ a b 赤旗社会部pp.78-86「献身生活」
  30. ^ a b c d コーワン・ブロムリー 2010, pp. 123–125.
  31. ^ コーワン・ブロムリー 2010, pp. 116–119.
  32. ^ a b c d e f g h i コーワン・ブロムリー 2010, pp. 120–125.
  33. ^ a b c 櫻井 2005.
  34. ^ a b c d e f 米本 2010, pp. 62–69.


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