プランク‐ていすう【プランク定数】
プランク定数
プランク定数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/30 08:59 UTC 版)
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プランク定数 Planck constant | |
---|---|
記号 | h |
値 | 6.62607015×10−34 J⋅s(正確に) |
相対標準不確かさ | 定義値 |
語源 | マックス・プランク |
換算プランク定数 ディラック定数 reduced Planck constant Dirac's constant | |
---|---|
記号 | ħ |
値 | 1.054571817...×10−34 J⋅s |
相対標準不確かさ | 定義値 |
語源 | ポール・ディラック |
プランク定数(プランクていすう、プランクじょうすう、英語: Planck constant)は、光子のもつエネルギーと振動数の比例関係をあらわす比例定数のことで、量子論を特徴付ける物理定数である。
量子力学の創始者の一人であるマックス・プランクにちなんで命名された。
SIにおける単位はジュール秒(記号: J⋅s または J s)である。プランク定数は2019年5月に定義定数となり、正確に6.62607015×10−34 J⋅sと定義された。
概要
光子の持つエネルギー(エネルギー量子)ε は振動数 ν に比例し、その比例定数がプランク定数と定義される[1]。
1896年にヴィルヘルム・ヴィーンが黒体放射におけるエネルギー分布に関するヴィーンの放射法則を提案した。この式はそれ以前の実験で得られていた高振動数領域では測定値をよく説明したが、新たに得られた低振動数の領域では合わなかった。1900年にプランクが低振動数領域でも測定値と一致するようにヴィーンの理論式を修正する形でプランクの法則を提案した[7][8][9]。プランクの理論式は、高振動数の領域ではヴィーンの理論式に移行する。レイリー卿は古典的なエネルギー等分配則から低振動数極限における近似式の形を提案し、1905年にジェームズ・ジーンズがその係数を正しく与えた。レイリー・ジーンズの法則と呼ばれるこの式は、プランクの理論式から導かれる低振動数極限の形と係数を含めて一致した。
プランクは彼の公式の理論的な説明を与える過程で、振動数 ν の光のエネルギーの受け渡しは大きさ hν を単位としてのみ起こり得る、という仮定をした[注 1][注 2]。この h が後にプランク定数と呼ばれるようになった普遍定数である[10]。実験結果と彼の理論式を比較してプランクは、
- h = 6.55×10−34 J s
と定めた[7]。
光電効果
アルベルト・アインシュタインはプランクの理論の影響を受け、1905年、光が粒子のような性質を持つという光量子仮説を提唱し光電効果を説明した。光量子仮説では、プランクとは別の方法でエネルギー量子の存在を説明した[11]。アインシュタインの光電効果の考えはともかくとして彼が導いた式の正しさは、ロバート・ミリカンによって10年かけて行われた実験にて確かめられた。1916年にミリカンが報告したプランク定数の値は、
- h = 6.57×10−34 J s
であり、プランクが黒体放射から得た値とよく一致した[12]。
理論
プランク定数は量子論的な不確定性関係と関わる定数であり、h → 0 の極限で量子力学が古典力学に一致するなど、量子論を特徴付ける定数である。
軌道角運動量やスピンは常に換算プランク定数の整数倍か半整数倍になっている。例えば、電子のスピンは ±ħ/2 である。なお、量子力学の分野では ħ = 1 とするプランク単位系や原子単位系を用いる場合が多く、その場合の電子のスピンは ±1/2 となる。
プランク定数は位置と運動量の積の次元を持ち、不確定性関係から位相空間での面積の最小単位であるとも考えられているが、最近では Zurek らの研究で、量子カオス系においてはプランク定数以下のミクロ構造が現れる事がわかった[13]。
キログラムの定義
質量のSI単位であるキログラムは、従来の定義では国際キログラム原器(IPK)が用いられていたが、プランク定数を用いた新しい定義に改定され、2019年5月に発効した。 新しい定義においてプランク定数はSIを定義する定義定数として位置付けられ、SI単位による値は実験的に決定される測定値ではなく、固定された定義値となった。 プランク定数(h = 6.62607015×10−34 J s)とともに値が固定された定数である光速度 c、及びセシウム133の超微細遷移周波数 ΔνCs とを組み合わせることで、キログラムが導かれるという仕組みになっている。
経緯
国際度量衡委員会の下部組織である質量関連量諮問委員会による2013年の勧告では、新たな質量の定義を採用する条件として、
- 相対標準不確かさが 50×10−9 以下のプランク定数が少なくとも3つ、独立した実験(キブル天秤法とX線結晶密度法[14]を含む)により得られていること、
- その内の少なくとも1つは、相対標準不確かさが 20×10−9 以下であること、
等が要求されていたが、2017年5月の 16th CCM meeting 時点までにこの条件は達成された[15]。
NISTの D. Haddad らは、2015年から2017年にかけて NIST-4 キブル天秤による計測を繰り返した結果として 6.626069934(89)×10−34 J s の値を得ており、相対標準不確かさでは 13×10−9 を達成している[16][17]。その他の実験結果については「モルプランク定数#実験値から定義値へ」を参照のこと。
2018年11月の第26回国際度量衡総会 (CGPM) で決議され、2019年5月20日に施行された新しいSIの定義では、プランク定数は定義定数となった[18]。
脚注
注釈
出典
- ^ 1921年 ノーベル物理学賞(アインシュタイン)
- ^ CODATA Value
- ^ CODATA Value
- ^ The American Heritage® Science Dictionary
- ^ CODATA Value
- ^ CODATA Value
- ^ a b Planck (1900a).
- ^ Planck (1900b).
- ^ Planck (1900c).
- ^ C・ロヴェッリ 『すごい物理学講義』河出文庫、2019年、145頁。
- ^ Einstein (1969), §.輻射の本質と構造に関するわれわれの見解の発展について.
- ^ Millikan (1916), p. 388.
- ^ Zurek (2000).
- ^ 藤井賢一「質量標準の現状とキログラム(kg)の定義改定をめぐる最新動向 (PDF) 」 『計測と制御』第53巻第2号、計測自動制御学会、2013年11月5日、 doi:10.11499/sicejl.53.144、 ISSN 1883-8170、 OCLC 984806670。
- ^ “RECOMMENDATION OF THE CONSULTATIVE COMMITTEE FOR MASS AND RELATED QUANTITIES SUBMITTED TO THE INTERNATIONAL COMMITTEE FOR WEIGHTS AND MEASURES (PDF)”. RECOMMENDATION G 1 (2017) For a new definition of the kilogram in 2018. BIPM. 2018年5月10日閲覧。
- ^ “New Measurement Will Help Redefine International Unit Of Mass”. ScienceBlog.com (2017年7月2日). 2018年5月10日閲覧。
- ^ Haddad, Darine; Seifert, Frank; Chao, Leon; Possolo, Antonio; Newell, David B; Pratt, Jon R; Williams, Carl J; Schlamminger, Stephan (2017). “Measurement of the Planck constant at the National Institute of Standards and Technology from 2015 to 2017”. Metrologia (IOP Publishing) 54 (5). doi:10.1088/1681-7575/aa7bf2. ISSN 0026-1394. LCCN 65-9907. OCLC 48198209.
- ^ A concise summary of the International System of Units, SIBIPM,2019-05-20
参考文献
原論文
- Planck, Max (October 1900). “On the Law of Distribution of Energy in the Normal Spectrum” (English) (PDF). Annalen der Physik (Wiley-VCH Verlag) 4: 553 ff. オリジナルの2011年10月6日時点におけるアーカイブ。 .
- Planck, Max (October 19, 1900). “Ueber das Gesetz der Energieverteilung im Normalspectrum” (German) (PDF). Annalen der Physik (Wiley-VCH Verlag) 309 (3): 553–563 .
- Planck, M. (December 14, 1900). “Zur Theorie des Gesetzes der Energieverteilung im Normalspektrum” (German) (PDF). Deutsche Physikalische Gesellschaft 2: 237-245. オリジナルの2015年8月7日時点におけるアーカイブ。 .
- A. Einstein (March 17, 1905). “Über einen die Erzeugung und Verwandlung des Lichtes betreffenden heuristischen Gesichtspunkt [光の発生と変脱とに関するひとつの発見法的観点について]” (German) (PDF). Annalen der Physik. Ser. 4 (Weinheim: Wiley-VCH Verlag) 322 (6): 132–148. Bibcode: 1905AnP...322..132E. doi:10.1002/andp.19053220607. ISSN 0003-3804. LCCN 50-13519. OCLC 5854993 .
- A. Einstein (March 13, 1906). “Zur Theorie der Lichterzeugung und Lichtabsorption [光の発生と光の吸収の理論について]” (German) (PDF). Annalen der Physik. Ser. 4 (Weinheim: Wiley-VCH Verlag) 325 (6): 199–206. Bibcode: 1906AnP...325..199E. doi:10.1002/andp.19063250613. ISSN 0003-3804. LCCN 50-13519. OCLC 5854993 .
- Millikan, R. A. (1916). “A Direct Photoelectric Determination of Planck's h”. Physical Review 7 (3): 355–88. Bibcode: 1916PhRv....7..355M. doi:10.1103/PhysRev.7.355.
- Zurek, Wojciech Hubert (25 September 2000). “Sub-Planck structure in phase space and its relevance for quantum decoherence [位相空間におけるサブ・プランクスケールの構造と量子デコヒーレンスとの関係]” (PDF). Nature (London: Nature Publishing Group) 412: 712-717. ISSN 0028-0836. OCLC 01586310 .
書籍
- 洋書
- “dirac's constant”. The American Heritage® Science Dictionary (1st ed.). Boston: Houghton Mifflin Harcourt. (January 25, 2005). ASIN B001P5HDQI. ISBN 0618455043. NCID BA73925776. OCLC 56356196
- 和書
- 物理学史研究刊行会 編、前川太市・辻哲夫・江渕文昭 訳 『熱輻射と量子』東海大学出版会〈物理学古典論分叢書〉、1970年5月。ASIN 4486001117。ISBN 4486001117。 NCID BN0095811X。OCLC 674052206。全国書誌番号:69001601。
- Einstein, A. 著、高田誠二・広重徹・上川友好 訳、物理学史研究刊行会 編 『光量子論』東海大学出版会〈物理学古典論分叢書〉、1969年4月。ASIN 4486001125。ISBN 4486001125。 NCID BN00957809。OCLC 675079787。全国書誌番号:21579698。
外部リンク
- BIPM
- “Draft Resolution A - 26th meeting of the CGPM (13-16 November 2018) (PDF)”. BIPM (2018年2月6日). 2018年5月9日閲覧。
- “A concise summary of the International System of Units, SI (PDF)”. BIPM (2018年2月6日). 2018年5月9日閲覧。
- CODATA Value
- “Planck constant”. 2015年6月27日閲覧。
- “Planck constant in eV s”. 2015年6月27日閲覧。
- “Planck constant over 2 pi”. 2015年6月27日閲覧。
- “Planck constant over 2 pi in eV s”. 2015年6月27日閲覧。
- “The Nobel Prize in Physics 1921”. 2013年12月28日閲覧。
プランク定数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/30 09:28 UTC 版)
アボガドロ定数は、原子・分子のミクロな世界とダイヤモンド・水滴などのマクロな世界を結びつける物理定数である。それに対してプランク定数は、ミクロな世界をつかさどる量子論を特徴付ける物理定数である。量子論は、マックス・プランクが「物体が電磁波を放出・吸収するとき、物体に出入りするエネルギーは電磁波の波長に反比例する」という仮定を置いて、黒体の熱放射のスペクトルを説明する理論式を導いた1900年に始まった。反比例の比例係数を光速で割ったものが、プランク定数である。 当時、空洞放射の実験から、次の2つの法則が知られていた。 黒体から放出されるエネルギーは、絶対温度の4乗に比例する(シュテファン=ボルツマンの法則)。 スペクトルのピーク波長は、絶対温度に反比例する(ウィーンの変位則)。 プランクは、この2つの比例定数の実験値と光速から、彼の理論式に含まれるプランク定数(記号 h)とボルツマン定数(記号 k)を、それぞれ h = 6966655000000000000♠6.55×10−34 J·s および k = 6977134600000000000♠1.346×10−23 J/K と定めた。ボルツマン定数とは、気体定数(記号 R)をアボガドロ定数で割ったものである。つまり NA と k の積は R に等しい。プランクは当時知られていた気体定数の値 R = 7000831000000000000♠8.31 J K−1 mol−1 と彼が定めた k の値から、アボガドロ定数を NA = R/k = 7023617499999999999♠6.175×1023 mol−1 と求めた。 プランクが求めた NA, h の値と現在の値の違いは2%程度であり、その積 NA × h の正確さも同程度である。NA と h の掛け算からモルプランク定数(記号 NAh)を求めている限り、NAh の相対標準不確かさが NA や h のそれより小さくなることはない。
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