NHK大河ドラマの場合
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21世紀初頭(2000年代-2010年代)のNHK大河ドラマ制作においては、時代考証はおおむね以下のように行われる。 台本の初稿ができあがると、脚本家・演出家、外部の専門家(時代考証をはじめとする各種考証担当者)、およびNHK内(制作側)の考証担当者が定期的に集まる「考証会議」が設けられる。原稿の読み合わせが行われ、考証の見地からの意見が出されて議論が行われ、台本原稿が修正されていき、最終的な台本が仕上がる。「考証会議」でストーリーそのものが変更されることは基本的にはないという。また考証者の見解をどの程度反映するかは脚本家や演出家の判断となる。 シナリオチェックでは、セリフの言葉遣いや歴史的事実(「このような出来事はあり得ない」「この人物がここにいるのはおかしい」等)などの確認が行われる。戦国時代を舞台とする複数の大河ドラマで考証を務めた小和田哲男は、この段階で修正を行った実例として、「絶対家族を守る」というセリフ(「絶対」も「家族」も当時の日本語にはない表現)、4月の京都から軍勢が「桜吹雪の中」出発する描写(旧暦と新暦の取り違い)や、越後国を「米どころ・酒どころ」と述べるセリフ(現代の感覚を過去にさかのぼらせたことによる誤り)などを紹介している。小和田によれば人名の読み方(浅井長政の姓をどう読むかなど)も案外に多く問題になるという。 ドラマ撮影の現場から上がってくる様々な疑問や質問に答えるのも時代考証の職掌である。たとえば食事のシーンを撮影するに際しては、どのような食材や調理法が存在するか、描写された人物の状況において適切であるかなどという情報が必要であり、考証担当者はその場で、あるいは資料を調べたのちに折り返し回答をすることになる。小和田は「時代考証の仕事として結構時間がとられるのが、制作・演出の人たちとのやりとりである」と述べ、『真田丸』で時代考証を務めた丸島和洋も、撮影中は「何か疑問があれば四六時中プロデューサーから電話が入る」日々であったと言う。また、同じく『真田丸』で時代考証を務めた黒田基樹は、制作スタッフやキャストから(脚本や資料を読み込んだうえで)「この人はどういう人物なのか、どうしてこういう行動をとったのか」という質問をよく受けたという。 時代考証の担当者は、美術や小道具等についてもそれぞれの担当者とともに確認を行うが、直接小道具の制作に携わることもある。たとえばドラマ内で使われる書状について、制作・演出の狙いに沿い、当時のものとして不自然ではない文面や書式で作成するなどの作業である。文書に関しては「古文書考証」担当者を置くこともある。 また、テレビ放送後に番組に寄せられる問い合わせや「時代考証の誤り」ではないかとする指摘に対する、番組側からの回答にも関わることになる。 丸島和洋によれば、時代考証担当者の作品への関わり方は様々である。事前にシナリオをチェックしてセリフを直し、撮影後に映像をチェックするだけの場合もあれば、脚本段階から議論を重ね作品制作に参加することもある。小和田哲男は『秀吉』で原作者の堺屋太一と執筆段階からコンタクトを持っており、大河ドラマでは従来「ねね」と呼ばれていた秀吉の正室の名を「おね」とするよう説得したと記している。丸島は『真田丸』で脚本段階から関わり、資料提供を行ったという。
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