量子力学的数式表現
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/13 05:08 UTC 版)
「フランク=コンドンの原理」の記事における「量子力学的数式表現」の解説
基底電子準位(ε)および初期振動準位 (ʋ)にある初期状態 | ϵ v ⟩ {\displaystyle |\epsilon v\rangle } から、励起電子準位(ε')およびいずれかの振動準位(ʋ' )にある状態 | ϵ ′ v ′ ⟩ {\displaystyle |\epsilon 'v'\rangle } (ブラ-ケット記法を参照)への電気双極子遷移を考える。分子の電気双極子演算子μは、電子の電荷(-e)と位置(ri)、および原子核の電荷(+eZj)と位置(Rj)とで決定される。 μ = μ e + μ N = − e ∑ i r i + e ∑ j Z j R j {\displaystyle {\boldsymbol {\mu }}={\boldsymbol {\mu }}_{e}+{\boldsymbol {\mu }}_{N}=-e\sum \limits _{i}{{\boldsymbol {r}}_{i}}+e\sum \limits _{j}{Z_{j}{\boldsymbol {R}}_{j}}} これら2つの状態間の遷移の確率振幅は次のように与えられる P = ⟨ ψ ′ | μ | ψ ⟩ = ∫ ψ ′ ∗ μ ψ d τ {\displaystyle P=\left\langle \psi '\right|{\boldsymbol {\mu }}\left|\psi \right\rangle =\int {\psi '^{*}}{\boldsymbol {\mu }}\psi d\tau } ここで、 ψ {\displaystyle \psi \ } と ψ ′ {\displaystyle \psi '\ } は、それぞれ始状態および終状態の波動関数である。分子の状態を包括的に記述する波動関数は、振動状態(原子核の位置と運動量に依存)、電子軌道およびスピンに対する波動関数の積である。 ψ = ψ e ψ v ψ s {\displaystyle \psi \ =\psi _{e}\psi _{v}\psi _{s}} 電子状態と振動状態の波動関数の分離は、ボルン-オッペンハイマー近似に対応し、フランク=コンドンの原理を成り立たせている根本的な仮定である。これらの方程式を組み合わせることで、確率振幅は電子軌道、スピン、および振動状態のそれぞれの効果の結果として次のように書かれる: P = ⟨ ψ e ′ ψ v ′ ψ s ′ | μ | ψ e ψ v ψ s ⟩ = ∫ ψ e ′ ∗ ψ v ′ ∗ ψ s ′ ∗ ( μ e + μ N ) ψ e ψ v ψ s d τ {\displaystyle P=\left\langle \psi _{e}'\psi _{v}'\psi _{s}'\right|{\boldsymbol {\mu }}\left|\psi _{e}\psi _{v}\psi _{s}\right\rangle =\int {\psi _{e}'^{*}\psi _{v}'^{*}\psi _{s}'^{*}}({\boldsymbol {\mu }}_{e}+{\boldsymbol {\mu }}_{N})\psi _{e}\psi _{v}\psi _{s}\,d\tau } P = ∫ ψ e ′ ∗ ψ v ′ ∗ ψ s ′ ∗ μ e ψ e ψ v ψ s d τ + ∫ ψ e ′ ∗ ψ v ′ ∗ ψ s ′ ∗ μ N ψ e ψ v ψ s d τ {\displaystyle {\color {White}P}=\int {\psi _{e}'^{*}\psi _{v}'^{*}\psi _{s}'^{*}}{\boldsymbol {\mu }}_{e}\psi _{e}\psi _{v}\psi _{s}d\tau +\int {\psi _{e}'^{*}\psi _{v}'^{*}\psi _{s}'^{*}}{\boldsymbol {\mu }}_{N}\psi _{e}\psi _{v}\psi _{s}d\tau } P = ∫ ψ v ′ ∗ ψ v d τ n ∫ ψ e ′ ∗ μ e ψ e d τ e ∫ ψ s ′ ∗ ψ s d τ s + ∫ ψ e ′ ∗ ψ e d τ e ∫ ψ v ′ ∗ μ N ψ v d τ v ∫ ψ s ′ ∗ ψ s d τ s {\displaystyle {\color {White}P}=\int {\psi _{v}'^{*}}\psi _{v}d\tau _{n}\int {\psi _{e}'^{*}}{\boldsymbol {\mu }}_{e}\psi _{e}d\tau _{e}\int {\psi _{s}'^{*}}\psi _{s}d\tau _{s}\ \ +\int {\psi _{e}'^{*}}\psi _{e}d\tau _{e}\int {\psi _{v}'^{*}}{\boldsymbol {\mu }}_{N}\psi _{v}d\tau _{v}\int {\psi _{s}'^{*}}\psi _{s}d\tau _{s}} P = . . . . . . . . . . . . . . . . . ⏟ Franck–Condon factor . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ⏟ Orbital selection rules . . . . . . . . . . . . . . . . . ⏟ Spin selection rules . . . . . . . . . . . . . . . . ⏟ | | 0 {\displaystyle {\color {White}P=}{\begin{matrix}\underbrace {\color {White}.................} \\{}_{\text{Franck–Condon}}\\{}_{\text{factor}}\end{matrix}}{\begin{matrix}\underbrace {\color {White}....................} \\{}_{\text{Orbital}}\\{}_{\text{selection rules}}\end{matrix}}\ \ {\begin{matrix}\underbrace {\color {White}.................} \\{}_{\text{Spin}}\\{}_{\text{selection rules}}\end{matrix}}\ \ \ \ {\begin{matrix}\underbrace {\color {White}................} \\{}_{||}\\0\end{matrix}}} ひとつめの積分のうち、スピン独立な部分を2つの積分の積で近似している。 ∫ ∫ ψ v ′ ∗ ψ e ′ ∗ μ e ψ e ψ v d τ e d τ n ≈ ∫ ψ v ′ ∗ ψ v d τ n ∫ ψ e ′ ∗ μ e ψ e d τ e . {\displaystyle \int \int {\psi _{v}'^{*}}{\psi _{e}'^{*}}{\boldsymbol {\mu }}_{e}\psi _{e}\psi _{v}d\tau _{e}d\tau _{n}\approx \int {\psi _{v}'^{*}}\psi _{v}d\tau _{n}\int {\psi _{e}'^{*}}{\boldsymbol {\mu }}_{e}\psi _{e}d\tau _{e}.} この因数分解は、電子の空間位置に対する積分 ∫ ψ e ′ ∗ μ e ψ e d τ e {\displaystyle \int {\psi _{e}'^{*}}{\boldsymbol {\mu }}_{e}\psi _{e}d\tau _{e}} が原子核の位置に依存しない場合には厳密に正しい。しかしながら、ボルン=オッペンハイマー近似のもとでは、 ψ e {\displaystyle \psi _{e}\,} および ψ e ′ {\displaystyle \psi '_{e}\,} は原子核位置にパラメトリカルに依存し、そのため積分の値(transition dipole surfaceと呼ばれる)は原子核位置の関数となる。とはいえ、その依存性は多くの場合比較的ゆるやかなので、無視することがしばしば可能である。これはtransition dipole surfaceが原子核位置に依存しないということであり、コンドン近似とよばれる。 第二項(+符号の後ろ)のうち、ひとつめの積分の値は、電子の固有状態波動関数が互いに直交であることからゼロである。したがって、残るのは3つの積分の積で構成される第一項のみである。ひとつめの積分は振動状態の重なり積分であり、フランク=コンドン因子とよばれる。あとの2つの積分は、電子軌道とスピン選択則が遷移確率振幅に与える影響を決定する。 フランク=コンドンの原理は、2つの「異なる」電子状態間をまたいだ許容な振動遷移について述べたものであり、他の量子力学的な選択則により遷移確率が減少したり、全く禁制になってしまう事もあり得る。回転選択則は上記の導出では無視されている。回転運動の影響は気相試料のスペクトルでは観測されるが、液相や固相では強く抑制される。 フランク=コンドンの原理の量子力学的な定式による記述が、一連の近似の結果である事は明らかであり、その主たるものは電気双極子遷移の仮定とボルン-オッペンハイマー近似である。より弱い磁気双極子と、フランク=コンドン因子を含む因数分解が電気四重極電子遷移においては、全状態の波動関数を原子核、電子軌道およびスピンの効果に因数分解する手法が完全には適用できないため、フランク=コンドン因子を含む選択則を厳密に観測することができない。どのような遷移であれ、Pの値は選択則によって決定される。ただし、スピン選択則が最も大きな影響を及ぼし、次いで電子軌道の選択則の影響が大きい。フランク=コンドン因子は遷移確率に「弱い」変調をもたらすに過ぎない。すなわち、フランク=コンドン因子は、その桁がその他の選択律によって決定されるバンド強度に1のオーダーの係数で寄与する。以下の表は許容ならびに禁制のスピンおよび軌道選択律の可能な組合せに対する減衰係数の範囲を示している。 電子遷移の強度励起係数 (ε) の値 (mole−1 cm−1)の範囲電子スピンと電子軌道の両方で許容103から105 電子スピンは許容だが電子軌道で禁制100から103 電子スピンで禁制だが電子軌道は許容10−5から100
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