量子化と暗号化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/05 17:26 UTC 版)
ボコーダーからの12チャネルのアナログ信号は、暗号化のためにそれぞれ20ms周期でサンプリングされ6段階に量子化された。量子化(quantization)という言葉は当時一般的でなかったため、量子化回路はステッパー(stepper)という名称で呼ばれた。少ないステップ数で音質を良くするためボコーダー出力の量子化は非線形に行われた。人間の聴覚の対数的な特性に合わせ、信号の振幅が大きくなるほど量子化のステップ幅も大きくするもので、これは現在の電話などで使われているμ-lawアルゴリズムなどと同様の考え方である。 量子化にはサイラトロンが用いられた。これは真空管に似た外観と構造を持つ電子管で、ある種の電子的なスイッチとして働き、入力が一定電圧以上になるとオンになる。オンになる電圧を量子化レベルに合わせて変えた回路を並列に並べることで、アナログ信号を量子化することができる。1台のSIGSALYに"GL-2051"型サイラトロンが合計384個使われた。 続いて暗号化が行われた。暗号鍵となるターンテーブルサブシステムからの信号も、ボコーダーからの信号の量子化と並行して同じ20ms周期の0から5までの6段階に量子化された。 暗号化は信号と暗号鍵それぞれのサンプル値の加算により行った。ここで使われる加算はモジュラー計算を用いた「6を法とする加算」で、例えば5に3を加算した結果が2になるというように、6で割った余りが結果となる。当時この処理はリエントリー(reentry、再入)と呼ばれた。ここで信号値を M、暗号鍵を K、リエントリー値を R とすれば、暗号化結果であるリエントリー値は以下の式で計算できる。 R = { M + K , if M + K < 6 M + K − 6 , if M + K ≥ 6 {\displaystyle R={\begin{cases}M+K,&{\mbox{if }}M+K<6\\M+K-6,&{\mbox{if }}M+K\geq 6\end{cases}}} このような加算は当時の真空管を使ったアナログ回路で比較的容易に計算できた。 この処理により、暗号鍵が0から5までの一様な分布を持つランダムな数であれば、信号を加算した結果もランダムな0から5まで信号になった。 暗号の復号時には、同じ暗号鍵を使い「6を法とする減算」を行った。例えば2から3を減算した結果が5になるというように、元の信号値を復元できる。
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