議員からの質問と鈴木の答弁
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/14 07:16 UTC 版)
「天罰発言事件」の記事における「議員からの質問と鈴木の答弁」の解説
会議録によると、鈴木の演説から2日後の6月11日に開かれた衆議院戦時緊急措置法案(政府提出)委員会において、質問に立った小山亮が「質問に入ります前に極めて重大なことだと考えておりますので、真面目に厳粛な気持ちでお尋ね申し上げたいことが一つあります」と前置きして鈴木の発言を取り上げ、天皇の詔勅には常に「天佑を保有し」「皇祖皇宗の神霊上にあり」といった発言があり、天佑神助を受けると確信して戦争に臨んでいる国民は「どんなことがあっても天罰を受けようなどという考えは毛頭持っておらないだろうと思う」と述べ、戦争を仕掛けた国が天罰を受けるというのを間違えたのではないか、この発言を残すのでは国民に悪い影響を与えるから打ち消すだけのご釈明を一つ願いたい、と鈴木に求めた。鈴木は答弁に立ったが、後述のように後から発言を取り消したため、会議録は線が引かれているのみである。答弁に対して会議録には「『不敬だ』『御詔勅ではないか』『委員長委員長』と呼び、その他発言する者多く聴取することあたわず」とあり、議場が騒然としたことが記録されている。小山は「ただいまの総理大臣の御言葉は、そのまま聞き逃すことはできない」とし、不穏な言辞を一般国民が口にしたら刑罰を受けかねないのに、総理大臣が演説に引用してそれを問題ないと釈明するのでは国務を任せられない、国体を明徴にするため、総理の国家に対する信念を伺いたいと述べた。委員長の三好英之が質問や答弁を「相当重大なること」として、「責任ある答弁を政府に求める」ために休憩を宣言、約6時間後に再開した。休憩となって国会内の控室に戻った閣僚の多くは「不敬」呼ばわりされたことで意気消沈していたが、鈴木だけは泰然とした態度をしていたという。迫水はこの休憩中に護国同志会をはじめとする議会内各派との交渉や閣内の意見整合を図り、鈴木が発言を取り消して改めて答弁する方向での合意を得た上で再開できたと記している。 休憩後、鈴木は「こと皇室に関することでありまして、非常に大切なことでありますが、言葉が足りませなんだために、大変誤解を生じましたことは、まことに恐懼いたしております」と述べて、答弁につき「全部これを取り消し」、改めて「小山の言うように戦争挑発者(米国)が天罰を受けるという意味だ」「詔勅の『天佑を保有し』という言葉は通常の『天佑神助』と異なる崇高深遠なものだというのが真意で、天罰と並べて使われるようなものではない」と釈明し、そこで再び約30分の休憩となった。 再開した委員会で小山は改めて当日の自分と鈴木の発言をたどり、最初の自分の質問に対する答弁がなされない上、自分は「天佑」と「天罰」を並べて使っていないのに「並べて使ったからこういう答弁をしなければならない」と受け取れるような曖昧な答弁をするのは何事かと食い下がった。小山は鈴木が取り消した発言を再度取り上げ、国体に疑念を抱かせるような発言を取り消しで済むのは問題だと述べたが、委員長の三好から「取り消した発言に議論を重ねるのは議事進行上考慮願いたい」と要求を明確にするように諭されると、「天罰と天佑を並べたと自分がどこで言ったか、という質問への答弁」だと返答した。政府側が答弁しないと三好が伝えると、小山は、立法の一部を政府に委ねるような法案を出そうとしているときに国体問題すら満足に答弁できない内閣では委任できないと述べ、勝ったと言いながら敗勢濃厚になっているようなごまかしを国民は求めていない、答弁できない内閣に質問はしないとして議場を退席した。 小山が所属していた護国同志会は、鈴木の演説や答弁を非難する声明書を出し、その中で「(鈴木の)不忠不義を追及し、もってかくの如き敗戦醜陋の徒を掃滅し、一億国民あげて必勝の一路を驀進せんことを期す」と記した。閣僚内では、議会召集に最初から反対していた和平派の米内海相は内閣を反逆者扱いされたことに怒り、議会の閉会を主張した上、議会への反発から辞意を表明した。迫水によると、米内は護国同志会の罵倒のほかにも議会が法案への修正要求などによって内閣の動揺を誘っているのだから打ち切るべきだと主張し、会期延長による法案成立で閣議がまとまると「皆さん、そんならそうしなさい。私は私は私で善処する。しかし、皆さんには迷惑はかけません」と断言したことで、他の閣僚は辞意と受け止めたという。大日本帝国憲法では首相に閣僚の任免権はなく、海軍大臣が辞職して後任を海軍が指定しなければ総辞職せざるを得なくなる(軍部大臣現役武官制を参照)。このため、阿南惟幾陸軍大臣や鈴木が米内を説得して翻意させ、内閣総辞職は免れた。迫水の回想では阿南のほかに閣内の海軍出身者(左近司政三や豊田貞次郎、八角三郎ら)が説得に当たったが、阿南の慰留が「特に有効に作用した」という。 なお、言論統制と紙面の制約下にあった日本の新聞では、演説の紹介では「両国ともに天罰を受ける」という文章は省略され、小山の質問と鈴木の答弁で委員会が紛糾したことは具体的に報じられなかった(内容に触れずに「質問と答弁のみで休憩に入った」と記された)。
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