系統関係と体節の相同性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 14:13 UTC 版)
「鋏角類#体節と付属肢の対応関係」、「鋏角類#系統関係」、「大顎類」、「多足類#系統関係」、「汎甲殻類」、「甲殻類#系統関係」、および「六脚類#分類」も参照 現生の節足動物は、鋏角亜門(クモ、サソリ、カブトガニなど)・多足亜門(ムカデ、ヤスデなど)・甲殻亜門(カニとエビ、フジツボ、ミジンコなど)・六脚亜門(昆虫、トビムシなど)という4つの亜門に分類されている。化石種まで範囲を広げれば、三葉虫などを含んだArtiopoda亜門という過去の大グループや、確定的に現生の亜門に収まらない分類群も数多く知られている(後述参照)。 それそれの分類群で特に注目される特徴は、先頭複数体節の融合でできた合体節(頭部および前体)の付属肢である。その基本構成は各亜門によって異なり、次の通りである: 六脚類:触角1対・大顎1対・小顎1対・下唇1枚(1対の小顎から癒合した部分) 多足類:触角1対・大顎1対・小顎2対 甲殻類:触角2対・大顎1対・小顎2対 鋏角類(真鋏角類):鋏角1対・触肢1対・脚4対 鋏角類(ウミグモ類):鋏肢1対・触肢1対・担卵肢1対・脚1対 Artiopoda類:触角1対・脚3対以上 これらの付属肢の対応関係(相同性)は、節足動物の内部系統や他の汎節足動物との関係性を大きく左右する指標とされ、そこから繰り広げた議論は「Arthropod head problem」として知られている。これは文献記載により様々な解釈を与えられ、「終わりのない論争」(endless dispute)とも呼ばれていた。 2017年現在で広く認められる、様々な節足動物における前部の体節と付属肢の対応関係。先頭の合体節(頭部および前体)に含まれる体節は暗灰色で、前大脳性・中大脳性・後大脳性の体節と付属肢はそれぞれP(赤)・D(黄)T(青)で示される。 21世紀以前の古典的な分類学では、鋏角類の触角を欠くという特徴は二次的退化と考えられ、多足類と六脚類は近縁とされてきた。しかしこれらの知見は、後に発生学・神経解剖学・遺伝子発現・分子系統学など多方面の情報に否定され、代わりに鋏角類の鋏角は大顎類の第1触角に相同で、多足類と六脚類の直接の関連も支持されず、むしろ六脚類は側系統群の甲殻類から分岐したことが強く示唆される(汎甲殻類仮説)。また、通常では鋏角類とされるウミグモ類の系統位置がしばしば疑問視されるようになり、分子系統解析では鋏角類であることを支持するものが多いが、2000年代ではそれ以外の節足動物と対置すべき説もある。 三葉虫類をはじめとして、幾つかの絶滅した節足動物の分類群と現生分類群の類縁関係については、未だに定説がない。例えば三葉虫などを含むArtiopoda類は、鋏角類に類縁という伝統的な系統仮説はあったが、頭部の構成に基づいて触角をもつ現生群(多足類・甲殻類・六脚類)に近い、またはどの現生群よりも基盤的とも考えられる。メガケイラ類に関しては、付属肢と脳の構造に基づいて鋏角類に近い、もしくはどの現生群よりも基盤的との説がある。 こうした研究の発展に伴い、節足動物の高次系統に対して様々な系統仮説が与えられており、以下の例が挙げられる。 幹性類 Cormogonida ウミグモ類以外の節足動物、すなわち真鋏角類(=ウミグモ類以外の鋏角類)・多足類・甲殻類・六脚類からなる。 大顎類 Mandibulata 多足類・甲殻類・六脚類からなる。大顎を持つことが共有形質とされる。 汎甲殻類 Pancrustacea(=八分錘類 Tetraconata) 甲殻類と六脚類からなる。複眼の八分割される硝子体などが共有形質とされる。 多足鋏角類 Myriochelata(=矛盾足類 Paradoxopoda) 多足類と鋏角類からなる。 裂肢類 Schizoramia(='CCT' clade) 甲殻類・鋏角類・Artiopoda類などからなる。ニ叉型付属肢が共有形質とされる。 無角類 Atelocerata(=気門類 Tracheata、狭義の単肢類 Uniramia sensu stricto) 多足類と六脚類からなる。気門や頭部の付属肢構成などが共有形質とされる。 広義の単肢類 Uniramia sensu lato 有爪動物・多足類・六脚類からなる。単枝型付属肢が共有形質とされる。またこの系統仮説に従えば、有爪動物は節足動物に含まれ、もしくは節足動物が多系統群になる。 Arachnomorpha(=蛛形様類 Arachnata) Artiopoda類と鋏角類からなる。 Antennulata Artiopoda類・多足類・甲殻類・六脚類からなる。中大脳性(第1体節由来)の第1触角を持つことが共有形質とされる。 板肢類 Lamellipedia Artiopoda類とMarrellomorpha類からなる。 2010年代以降では、少なくとも節足動物は有爪動物を含まない単系統群であることや、大顎類説、汎甲殻類説、およびウミグモ類が鋏角類に含まれる説が広く認められる。 節足動物の内部系統関係 節足動物門 鋏角亜門 ウミグモ綱 ウミグモ 真鋏角類 節口綱(非単系統群) カブトガニ、† ウミサソリ、†カスマタスピス類など クモガタ綱 クモ、サソリ、ダニなど †Artiopoda Vicissicaudata 光楯類など 三葉形類 三葉虫など 大顎類 多足亜門 後性類 ムカデ綱 ムカデ 前性類 コムカデ綱 コムカデ 双顎類 エダヒゲムシ綱 エダヒゲムシ ヤスデ綱 ヤスデ 汎甲殻類 貧甲殻上綱 貝形虫綱 貝虫(カイミジンコ) ヒゲエビ亜綱 ヒゲエビ ウオヤドリエビ綱 鰓尾類、シタムシ Altocrustacea 多甲殻上綱 軟甲綱 カニ、エビ、オキアミ、ダンゴムシ、シャコなど 鞘甲亜綱 フジツボ、エボシガイ、フクロムシなど カイアシ亜綱 カイアシ(ケンミジンコ) 異エビ類 カシラエビ綱 カシラエビ Athalassocarida 鰓脚綱 ミジンコ、カイエビ、カブトエビ、ホウネンエビ、アルテミアなど Labiocarida ムカデエビ綱 ムカデエビ 六脚亜門 内顎綱(非単系統群) トビムシ、カマアシムシ、コムシ 昆虫綱 昆虫 節足動物の各亜門(太字)の類縁関係とその内部高次系統をまとめた分岐図。青い枠以内の分類群、すなわち六脚亜門以外の汎甲殻類は側系統の甲殻亜門に属する。系統位置が不確実なものは、二分岐ではなく多分岐として描いている。亜門が未定/不確実で、もしくはそのクラウングループに含まれていない化石群はここに示さない。 また、現生節足動物の胚発生において、眼と前大脳が由来する先頭の体節、いわゆる先節には付属肢を持たないのが従来の解釈であった。しかし、多くの節足動物の口の前にある蓋状の構造体、いわゆる上唇とハイポストーマは、著しく融合・退化した先節由来の1対の付属肢であることが2000年代以降から有力視されつつある。この構造体は、有爪動物の触角や基盤的な節足動物(ラディオドンタ類など)の前部付属肢との相同性まで議論をなされ、初期の節足動物、果ては汎節足動物全般における頭部の起源と進化を示唆する手掛かりの一つとして注目される。 詳細は「上唇_(節足動物)#由来」、「ラディオドンタ類#前部付属肢の対応関係」、および「汎節足動物#起源と進化」を参照 様々な節足動物と他の汎節足動物における前端の体節と付属肢の対応関係(「*」= 頭部および前体に含まれる体節と付属肢)体節(脳神経節) 分類群 先節(前大脳)1(中大脳)2(後大脳)3456六脚類上唇 * 触角 * (退化)* 大顎 * 小顎 * 下唇 * 脚 甲殻類上唇 * 第1触角 * 第2触角 * 大顎 * 第1小顎 * 第2小顎 * 脚 多足類上唇 * 触角 * (退化)* 大顎 * 第1小顎 * 第2小顎 * 脚 鋏角類(真鋏角類)上唇 * 鋏角 * 触肢/脚 * 脚 * 脚 * 脚 * 脚 * 鋏角類(ウミグモ類)? * 鋏肢 * 触肢 * 担卵肢 * 脚 * 脚 脚 Artiopoda類ハイポストーマ * 触角 * 脚 * 脚 * 脚 * 脚 脚 メガケイラ類ハイポストーマ * 大付属肢 * 脚 * 脚 * 脚 * 脚 脚 フーシェンフイア類ハイポストーマ * 触角 * SPAs * 脚 脚 脚 脚 ラディオドンタ類前部付属肢 * 鰭 鰭 鰭 鰭 鰭 鰭 緩歩動物歯針 * 葉足 葉足 葉足 葉足 - - 有爪動物触角 * 顎 * 粘液腺 葉足 葉足 葉足 葉足 葉足動物触角/前部付属肢 * 葉足 葉足 葉足 葉足 葉足 葉足 2017年現在で広く認められる、様々な汎節足動物における前部の体節と付属肢の対応関係。先節は「0」、頭部に含まれる部分は暗灰色、前大脳性・中大脳性・後大脳性の体節と付属肢はそれぞれP(赤)・D(黄)T(青)で示される。
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