内部系統関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 14:36 UTC 版)
単系統群の汎節足動物内の3動物門である有爪動物・緩歩動物・節足動物のお互いの系統関係に対しては、以下3つの対立仮説が挙げられる。 汎節足動物 有爪動物 Tactopoda 緩歩動物 節足動物 Tactopoda説 Tactopoda(緩歩動物+節足動物)説 緩歩動物と節足動物だけで単系統群 Tactopoda を成し、有爪動物はそれより早期に分岐する。 汎節足動物 緩歩動物 Antennopoda 有爪動物 節足動物 Antennopoda説 Antennopoda(有爪動物+節足動物)説 有爪動物と節足動物だけで単系統群 Antennopoda を成し、緩歩動物はそれより早期に分岐する。 汎節足動物 節足動物 Lobopodiasensu Smith & Goldstein 2017 緩歩動物 有爪動物 緩歩動物+有爪動物説 緩歩動物+有爪動物説 緩歩動物と有爪動物だけで単系統群 Lobopodia sensu Smith & Goldstein 2017 を成し、節足動物はそれより早期に分岐する。 有爪動物の前方の中枢神経系。中大脳(D)と特化した中大脳性付属肢(md: 顎)をもつ。 緩歩動物の中枢神経系。腹神経索は神経節(ga1-4)に構成される。 節足動物ムカデエビ類の前方の中枢神経系。第1触角神経(a1)に対応する中大脳(dc)と神経節でできた腹神経索(vnc)をあわせもつ。 Tactopoda(緩歩動物+節足動物)説の最大の根拠としては、有爪動物に見当たらない、明瞭な外部体節構造と神経節をもつことが挙げられる。後者に対しては、有爪動物の系統で二次的に退化した汎節足動物の祖先形質、もしくは収斂進化の結果ではないかという疑問もあるが、神経解剖学的解析に Tactopoda の共有派生形質として有力視される。それに加えて、古生物学的証拠(節足動物の初期系統に含まれる葉足動物は緩歩動物に似た特徴をもつ)とミトコンドリアDNA遺伝子配列の類似も、Tactopoda説に裏付けるとされる。 Antennopoda(有爪動物+節足動物)説は、緩歩動物に見当たらない、合体節な頭部に中大脳と特化した中大脳性付属肢(有爪動物の顎、節足動物の第1触角/鋏角など)をもつことが挙げられる。しかし有爪動物と節足動物のこれらの共通点は、古生物学、神経解剖学と発生学的見解に単一起源を否定され、収斂進化の結果だと示唆される(前述参照)。それ以外では、有爪動物と節足動物は緩歩動物に見当たらない血リンパ・原腎管・背面の心臓をもつが、これは小型化が進んだ緩歩動物の系統で二次的に退化した、汎節足動物の祖先形質に過ぎない可能性もある。 緩歩動物と有爪動物は葉足・柔軟な表皮・腹神経索左右の神経根など、節足動物に見当たらない共通点を少なからぬもつが、古生物学的証拠により、これらは側系統群の葉足動物から受け続いた汎節足動物の祖先形質に過ぎないことが示される(節足動物の初期系統もこれらの特徴をもつ)。 形態学と葉足動物を中心にした系統仮説と系統解析では、Tactopoda説が最も広い支持を受けられ、Antennopoda説がその次に多く、緩歩動物+有爪動物説を示唆する結果が最も少ない。しかし分子系統解析はそれに反して、むしろAntennopoda説と有爪動物+緩歩動物説のいずれかを示唆する結果がほとんどである。Tactopoda説を示唆する数少ない分子系統解析結果も、形態学に示される緩歩動物と節足動物の姉妹群関係ではなく、緩歩動物が節足動物に内包されるという、長枝誘引がもたらす誤推定として疑われる不確かなものである。Antennopoda説の方が2010年代以降の総合的な文献記載に採用される向きがあるが、2000-2010年代にかけてどの系統仮説も賛否両論で、未だに定説がない。
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