米国政府の反応
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 04:17 UTC 版)
予想以上に深刻な被害が発生した原因は、当初アメリカ軍がこの爆弾の威力を4 - 8Mtと見積もり、危険区域を狭く設定したことにあった。爆弾の実際の威力はその予想を遥かに超える15Mtであったため、安全区域にいたはずの多くの人々が被曝することとなった。日本政府は683隻が被爆したとし、アメリカ政府はのちに危険水域を拡大した。 アメリカ政府は、第五福竜丸の被爆を矮小化するため、4月22日の時点で、アメリカ国家安全保障会議作戦調整委員会(OCB)が、「水爆や関連する開発への日本人の好ましくない態度を相殺するためのアメリカ合衆国連邦政府の行動リスト」を起草し、科学的対策として「日本人患者の発病の原因は、放射能よりもむしろサンゴの塵の化学的影響とする」と嘘の内容を明記し、「放射線の影響を受けた日本の漁師が死んだ場合、日米合同の病理解剖や死因についての共同声明の発表の準備も含め、非常事態対策案を練る」と決めていた。 調査分析 アメリカ政府は現在まで、久保山無線長の死は「放射線が直接の原因ではない」との見解を取り続けており、またこの件に対する明確な謝罪も行っていない。 その理由は、久保山無線長の直接の死因は重度の急性肝機能障害であること、日本医師団が診断した放射能症(放射線障害)のおもな症状は白血球や血小板といった血球の減少、小腸からの出血、脱毛などで、肝機能障害は放射線障害特有の特徴的症状ではないこと、被爆が原因で肝機能障害が起きたなら、同様に被爆したはずのマーシャルの被爆者にも多数の肝機能障害を起こした被爆患者がいるはずであるが、実際はマーシャルの被爆者に重度の肝機能障害の患者はまったく発生せず、第五福竜丸の被災者17名でのみ発生しており、治療中の死亡にいたっては久保山無線長のみだからである。 一方、日本人医師団は、久保山無線長の死因は放射線症であると公表したのち、後年の再分析により、死因は輸血の結果感染したC型肝炎であると結論しなおしている。 重度の肝機能障害を起こす肝炎、肝癌、肝硬変の原因因子はそのほとんどが肝炎ウイルスの感染であり、アルコールやNASHは肝癌、肝硬変の原因としては全体から見れば少数派である。放射線被爆での発症率はアルコールよりも低く、放射線被爆が原因での肝炎肝癌発症の症例はほぼ皆無である。また、事件当時は医療器具、特に注射針に関してはディスポ(使い捨て)はほとんど行われず、消毒して使い回しされることもしばしばであった。乗組員17名が重度の肝機能障害を引き起こした原因は、ウイルス感染した売血による輸血であるという指摘も存在する。 補償活動 日本の反核運動が反米運動へと転化することを恐れたアメリカ政府は、日本政府との間で被爆者補償の交渉を急いだ。一方の日本政府も、復興のためにアメリカ経済に依存せざるを得ない状況であり、かつ平和的利用のために原子力技術をアメリカから導入できる可能性も出てきた時期でもあったことから、アメリカを刺激したくないという思惑もあった。その結果、両者は「日本政府はアメリカ政府の責任を追及しない」確約のもと、事件の決着を図った。1955年に200万ドル(当時約7億2,000万円)が支払われた が、連合国による占領からの主権回復後間もなかったこともあり、賠償金でなく「好意による (ex gratia)」見舞金として支払われた。 第五福竜丸以外の太平洋上で漁をしている漁船でも汚染マグロはあったが、アメリカ政府からの見舞金は、第五福竜丸だけに支払われた。当時としては破格の金額(一人あたり200万円)だったためにほかの漁船からのやっかみがあり、また放射能が伝染すると間違った情報で、第五福竜丸乗組員は将来の病気の恐怖を抱えながら焼津と漁師の仕事を離れなければならなかった。
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