祭礼の牛鬼
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 08:06 UTC 版)
愛媛県の南予地方、とくに宇和島市とその周辺の地域等においては、地方祭において牛鬼(うしおに)と呼ばれる山車が町を練り歩く。由来は前述のように牛鬼を神聖視する説のほか、伊予国の藤内図書と蔵喜兵ノ尉という人物が牛鬼を退治したという話、徳島県海部郡の牛鬼を伊予の人物が退治したという話、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に加藤清正が朝鮮の虎を脅すために亀甲車を作った話など、諸説ある。 形態 基本形は竹組みの亀甲型の本体に、頭(正式名称:「かぶ」)と尾(同:「剣」)を取り付けたものである。「かぶ」は、数メートルの竹の先に取り付けられ、反対側の先に取り付けられた丁字形の取っ手(同:「しゅもく」)で自由に動かすことができる。これを扱うのは名誉とされる。地域によっては、首が伸び縮みするしかけを持ったものもある。「剣」は、本体内部でロープで結ばれている。これを大勢がかついで練り歩く。時に、「かぶ」と「剣」を激しく揺らぶらせ、また回転して、気勢を上げる。ただし、ぶつけあう、いわゆる「けんか」は全く行われない。本体は大別して、棕櫚をかぶせたもの(これが原始系とされる)と、黒・赤などの布をかぶせたもの(発展系とされる)の2タイプがある。大きさは棕櫚の方が小さめである。発展系の中には金色に輝くものもある。 なお「子供が牛鬼に頭を噛んでもらうと、賢くなる」という言い伝えがあり、担ぎ手が休んでいるときなどは、近隣の者が子や孫を連れてきて、頭を噛んでもらっている。 祭りと牛鬼 牛鬼は宇和島地方の祭りの主役である。特に、7月22日〜24日に行われる和霊大祭では、宇和島市内のみならず、山間部や高知県側(西土佐村)からも牛鬼の出場がある。宇和島市の職員や、各地区で牛鬼保存会がつくられている。また、秋祭りにおいても牛鬼が出る(小規模な地方祭や、西予市明浜町など)。愛媛県を代表する祭りとして、新居浜市の太鼓台、西条市のだんじりとともに、各地のイベント等に出場することがある。 宇和島市とハワイ州ホノルル市や愛媛県とハワイ州の友好姉妹都市の関係で毎年6月第1金・土・日にホノルル行われるまつりインハワイでは、丸穂牛鬼保存会と宇和島市役所牛鬼保存会の有志が宇和島牛鬼保存会として参加している。 南予地方では神輿の先駆けと家の悪魔祓いの役をするという。 また、佐田岬地域、西予市三瓶町、喜多郡などでも、祭礼に牛鬼が登場する。 歴史 かつては、愛媛県の久万高原町の付近にも牛鬼はあったとの記録が残っているが、今日では残っていない。 その他 牛鬼の面(かぶ) JR予讃線・宇和島駅の構内に牛鬼の「かぶ」が飾られている。このほか、宇和島地方の郷土料理店などに牛鬼の「かぶ」を模したものが飾られることがある。松山市内の宇和島料理店でも「かぶ」を見かけることがある。 菊間の牛鬼 今治市菊間町の加茂神社の秋の祭礼には東予地方では唯一、牛鬼が出場する。黒い布をかぶせた丸胴でやや大ぶりのものである。 愛媛県以外でも、奄美大島では「ナマトヌカヌシ」という牛神信仰祭があり、八角八足八尾の星形のまだら模様を無数にもつ牛の妖怪神(農耕神)が海から上がり、チャルメラのような大声で叫んで篝火の間を徘徊し、島人は地に頭をつけて迎えるという。だが実際には作り物の神であり、本土人にそう言われるのを島人は忌み嫌うという。 長崎県南高来郡(現・雲仙市)では「トオシモン」、愛媛県宇和島では「ウショウニン」、鹿児島県日置郡市来町(現・いちき串木野市)では「ツクイモン」の名で同様の牛鬼、牛神祭が行われている。また同じく大隅半島の鹿児島湾沿いの村では「ウンムシ(海牛)」の名で、黒い牛の化け物が海から這い上がり徘徊するという。このウンムシの現れる時期は盆の後の27日と決まっているため、その日にはこの地方の人々は海に出ることを避けるという。 妖怪漫画家・水木しげるは、牛鬼の背後には牛に関する古代インド神として、大自在天の化身である伊舎那天や閻魔天が関係しており、また近隣に菅原道真(= 天満大自在天)を祀った天満宮があることが関係していると推測している。
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