神経生理学の研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 08:42 UTC 版)
脳の構造上の欠陥に関する研究は、一貫して反社会的行動をとる人々は、脳に構造的な障害があることを示唆する。その異常は一般的な性質のものであることもあれば、感情や攻撃性を制御する脳の特定の領域に影響を及ぼすこともあり、倫理的な判断の要因となることもある。 前頭前野のニューロン数が少ない 2000年の研究によると、反社会的行動をしたことがある人は前頭前皮質における灰白質量が11%減少しているが、白質量は正常であることが明らかになった。同様に、犯罪者集団で実施された12の解剖学的脳画像研究の結果をまとめた2009年のメタ分析研究は、脳の前頭前皮質が実際に犯罪者において構造的に損なわれていることが発見された。 扁桃体の発達不全 2件の研究で、左と特に右の扁桃体の両方が精神病で障害を受けていることがわかった。精神病患者は、右扁桃体の体積が平均18%減少していた。 透明中隔嚢胞の発育不全 2010年の研究では、透明中隔嚢胞を有する人々は精神病質、反社会的人格障害を生じやすく、刑事犯罪の起訴および有罪判決が多いことが示唆された。この脳の発達異常は、特に生涯にわたる反社会的行動、すなわち自己と他者に対する無謀な無視、反省の欠如、攻撃性と関連していた。 右海馬がより大きい 2004年の研究では精神病質者において、感情を部分的に制御し、攻撃性を制御する右海馬が、左海馬よりも有意に大きいことが示唆された。この非対称性は健常者でも同様であったが、精神病質者ではより顕著であった。 線条体の体積の増加 2010年の研究では、精神病患者において線条体の体積が10%増加していることがわかった。 異物による損傷 異物による脳の構造的損傷に関する多くの研究が説得力ある形で明らかにしたのは、前頭前野を損傷する頭部外傷を負った成人が社会規範に合わない衝動的かつ反社会的行動を示すことである。このことを示す有名な事例はいくつもある。たとえば、尊敬され、よく好かれており、責任感のある紳士であったフィネアス・ゲージは、1848年に工事中の事故で左下頬に爆薬の金属棒が入り、頭の中上部から飛び出すという脳に深刻な損傷を受けた。その怪我からゲージはすぐに治ったものの、事故の後に人格が変わり、彼は気まぐれで、無礼で、下品になった。つまり、ゲージは充分な自制心があり、尊敬されている人物から、精神病質の特徴をもつ人物へと変わってしまったのである。 腫瘍による損傷 腫瘍による脳の損傷が、異物による損傷と同様の変化をもたらすことを示す米国の有名な刑事事件もいくつか存在する。例えばチャールズ・ホイットマンはテキサス大学で建築工学を学んだ若者で、ホイットマンには暴力や犯罪の前科はなかった。子供の頃、彼はスタンフォード・ビネ式知能検査で138点を獲得し、この得点は当時の99パーセンタイルに位置づけられる。また、彼はイーグルスカウトで、スカウトマスターとして志願し、やがて海兵隊に勤務した。しかし、1966年にこれまでのことから考えられなかったことだが、ホイットマンは母親と妻を殺害し、テキサス大学オースティン校の鐘楼を登り、階下の学生に向かって銃を発砲した。15人を殺害し、さらに31人を負傷させた後、彼は警察官に射殺された。ホイットマンの最後のメモの中で彼は自分の思考を制御できないことを訴え、解剖を依頼した。その結果、彼の脳の視床下部領域に脳腫瘍が発見された。これは、ある仮説によると、扁桃体に圧力をかける腫瘍であった。 マイケル・オフトはバージニア州の教師で、以前に精神医学的にも逸脱した行動の経歴はなかった。40歳の時、その行動は突然変わる。彼はマッサージ店を頻繁に利用し、児童ポルノを集め、義理の娘を虐待し始め、すぐに児童性的虐待で有罪判決を受けた。オフトは小児性愛者のための治療プログラムを選択したが、それでもリハビリセンターのスタッフや他の患者に性的好意を求め続けていた。ある神経科医が脳スキャンを勧めたところ、眼窩前頭皮質の基底部に腫瘍が増殖して、脳の右前頭前野を圧迫していたことがわかった。この腫瘍が切除された後、オフトの感情、行動、性行動は正常なものに戻った。しかし、正常な行動は数ヶ月間までしか続かず、オフトは再び児童ポルノの収集を始めた。神経科医は彼の脳を再びスキャンし、腫瘍がまた成長していたことを発見した。2回目の腫瘍摘出手術をした後、オフトの行動は完全に通常のものになった。
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