神経炎症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 09:57 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動神経炎症(neuroinflammation)とは多発性硬化症をはじめとする免疫性の慢性炎症と神経変性疾患などでみられるグリア細胞の活性化によるグリア炎症を示す。狭義には神経変性疾患のグリア炎症のみを示す。
神経変性疾患と神経炎症
神経変性疾患で共通にみられる病理所見として病変部位に活性化されたミクログリアやアストロサイトの集積がみられ、さらには種々のT細胞やB細胞の浸潤がみられる。パーキンソン病やアルツハイマー病などで変性神経細胞の周囲にはTNF-αやIL-1Bやインターフェロンγ陽性のミクログリアが認められており、グリア細胞由来の炎症性サイトカインが神経変性の本態に関与している可能性が示唆されている。これらグリア細胞の活性化は発症以前や発症早期から認められており、神経変性の結果というより積極的に本態に関わっている可能性がある[1][2]。
脳内に直接リポ多糖を注入してグリア細胞を活性化すると、周囲の神経細胞が死滅すること、α-シヌクレイン凝集体やAβがミクログリアを活性化し、炎症性サイトカインを誘導し、神経細胞を傷害することから神経変性疾患におけるグリア細胞の集簇を瘢痕形成としての静的なグリオーシスとしてとらえるのではなく、より活発な神経炎症としてとらえる見方がある。
神経炎症とミクログリア
ミクログリアは様々な受容体を発現しており、脳の感染や外傷などの際には第一の防御機構として働く。この際には、細菌の外膜成分であるリポ多糖、ペプチドグリカンやウイルスの糖蛋白などがToll様受容体に結合しミクログリアを活性化する。DAMPsなども同様にToll様受容体を介してミクログリアを活性化させる。その他、ミクログリアはRAGEも発現しており、Aβや様々な凝集蛋白も同様にミクログリアを活性化させる。
ミクログリアは諸刃の剣と呼ばれ、活性化に伴い炎症性サイトカイン、一酸化炭素、活性酸素、興奮性アミノ酸、ATPなどの神経障害因子を産出し、同時に様々な抗炎症性サイトカイン、神経栄養因子、神経保護因子をも産出する。マクロファージには炎症性に働くM1と抗炎症性に働くM2が知られることからミクログリアにも同様のサブポピュレーションが想定されるが明らかになっていない。
脚注
- ^ Brain. 2007 Jul;130(Pt 7):1759-66. PMID 17400599
- ^ Lancet Neurol. 2009 Apr;8(4):382-97. PMID 19296921
参考文献
- 医学のあゆみ 248巻12号 炎症と神経変性
- 免疫性神経疾患―病態と治療のすべて ISBN 9784521743318
神経炎症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/09 14:04 UTC 版)
ミクログリアの活性化は炎症性サイトカインを放出し細胞傷害を惹起する。それは脳内の炎症であり、神経変性や中枢神経系の炎症応答を引き起こす。重症の慢性疲労症候群(CFS)では、脳内ミクログリアの活性化による神経炎症が起こっていた。神経因性疼痛の病態としてミクログリアの活性化が引き起こされる。 トレーサーとしてTSPO(英語版)の放射性リガンドである[11C]DAA-1106(英語版)を用いたPET検査の結果、喫煙者は非喫煙者よりも[11C]DAA-1106結合が全体的に少なく、ミクログリアの活性化が少ないことが示された。それは、非喫煙者と比較して喫煙者は炎症機能が損なわれていることを示す先行研究と一致していた。TSPOの放射性リガンドである[11C]PBR28を用いたPET検査の結果、アルコール依存症の個体は脳内のミクログリア活性が低く、対照と比較して鈍い炎症応答を示した。
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