生態・生理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/17 05:26 UTC 版)
日本では、夏から秋(時に梅雨期)、アカマツ・クロマツ・リュウキュウマツ などの二針葉マツ類の樹下に発生し、これらの樹木の生きた細根に典型的な外生菌根(フォーク状に二叉分岐し、白色 または赤紫色を呈する)を形成して生活する。北海道では、植林されたヨーロッパアカマツの樹下に発生し、トウヒ類の林内でも見出されるという。 タイでは、三針葉マツ類の一種であるケシアマツ(Pinus kesiya Royle ex Gordon)の樹下に発生する。また、中国においては、同じく三針葉マツ類に属するウンナンマツ(Pinus yunnanensis Franch.)の樹下 や、二針葉マツの一種であるバビショウ(Pinus massoniana Lambert)の下に発生する。 どちらかといえば未熟な土壌を好む菌であり、有機物のほとんどない状態で発生する。クロマツ・アカマツなどの林内では、おもにH層(新鮮な落ち葉などの下に広がる、腐朽・断片化した有機物の層)からA層(動植物の遺体と土壌とが混じり合って互いの区別が困難になった、有機物に富んだ層)に生息するが、土壌への有機物供給が少ない環境下では、B層(風化が進行した鉱物質の層)や、C層(風化が十分に進行していない母岩層)などに見出されることもしばしばある。また、林齢が小さい若齢林に多いとされる。林内の地中では大形のコロニーを作らず,きのこ(子実体)は小面積に群生する性質がある。 アカマツの苗にハツタケの純粋培養菌株を接種して外生菌根を形成させた場合、対照(ハツタケ菌未接種)の苗と比較して、苗の全重量・主根の長さ・側根(径10mm以上)の本数などはそれぞれ50ないし60パーセント増加した。なお、アカマツにハツタケの菌株を接種した場合、乳酸・シュウ酸・リンゴ酸・コハク酸・クエン酸などの有機酸の塩(これらは、ハツタケの単独培養下でも見出される)の産生 が認められ、それらの総量は、ハツタケの外生菌根が形成されていないアカマツに比較して 1.9倍に達した。中でもシュウ酸の産生がもっとも多く、未感染苗と比較して 100倍にも達した一方、リンゴ酸・クエン酸・コハク酸などが、ハツタケに感染したマツ苗が産生する全有機酸量に占める割合は小さかった。これら有機酸のうち、シュウ酸・クエン酸・コハク酸には、ハツタケの菌糸生長を促す作用があることが見出され、ハツタケとアカマツとの間で外生菌根が形成された場合、両者の生長を促進する働きは、おもにシュウ酸の産生とその再利用とによって誘引されているものと考えられている。 スラッシュマツ(Pinus elliottii Engelm.)に対しても、樹勢を増強するとともに窒素・リン・カリウムなどの栄養素の吸収を促進する効果を示したが、その性質は、ハツタケの菌糸を単独でスラッシュマツに接種するよりも、ハツタケとホコリタケ属の一種(Lycoperdon sp.)とを同時に与えたほうが顕著に発現したという。 北海道産の種子から無菌的に栽培したカラマツ(あるいはカラマツとグイマツとの一代雑種)の苗に、純粋培養したハツタケの菌株を接種したところ、10日ほどを経て外生菌根が形成されたという報告 があるが、カラマツ属の純林でハツタケの子実体が自然発生した例は知られていないようである。 純粋培養条件下では、炭素源として果糖をもっとも好み、これに次いで麦芽糖・マンニット・ブドウ糖などをよく資化する。窒素源としてはグルタミン酸・硫酸アンモニウム・硝酸アンモニウムなどを好むが、尿素やクエン酸アンモニウム・リン酸アンモニウムなどはあまり積極的に利用しないとされている。 なお、対峙培養試験において、ハツタケの菌糸は、林木に病原性を示すエキビョウキンの多くの種の生育を抑制するいっぽう、同じく病原菌として著名なフハイカビ類については生育をさまたげる性質を示さなかったという。また、ハツタケの発生地点直下の土壌中における微生物相を調査したところでは、細菌・放線菌・真菌の検出数は非常に小さかったとの報告がある。
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