無性愛のモデル化と人口
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 05:21 UTC 版)
無性愛は人間のセクシュアリティの新しい形態ではないが、公の議論に表れたのは比較的最近のことである。 アルフレッド・キンゼイは、異性愛者から同性愛者への性的指向について、0から6の段階で評価した(キンゼイ指標)が、「社会的な性的接触や反応がない」人々について「X」という分類も設けた。現代では、これは無性愛を表すものと分類されている。キンゼイは成人男性の1.5%をXと分類した。また彼の2冊目の著書『人間の女性の性的な行為』では、Xに分類される人の内訳について、未婚女性の14~19%、既婚女性の1~3%、結婚経験のある女性の5~8%、未婚男性の3~4%、既婚男性の0%、結婚経験のある男性の1~2%と報告している。 ただし学者のジャスティン・J・レーミラーは、「キンゼイのXの分類は性的な行為の欠如を強調していたが、現代の無性愛の定義は性的な惹かれの欠如に重きを置いている。とすれば、キンゼイ指標は無性愛の正確な分類には不十分かもしれない」と述べている。 1979年、1980年に掲載された2つの論文では、カンザス大学のミシェル・D・ストームズがキンゼイ指標の再モデル化について概説している。キンゼイは実際の性的な行為と性的妄想(sexual fantasizing)や性欲(ertoicism)に基づいて性的指向を測定したが、ストームズは妄想や性欲のみを使用し、また単一スケールの2つの端ではなく2軸上に異性愛と同性愛を置いた。これは、両性愛(異性・同性両方への性欲を異性愛者・同性愛者と同程度に示す)と無性愛(異性への性欲を同性愛者程度に、同性に対する性欲を異性愛者程度に示す、つまり性欲がほとんどない人)の区別を可能にする。このタイプのスケールは初めて無性愛を説明したものであった。ストームズは、「キンゼイのモデルでは無性愛と両性愛両方が性的パートナーについてのジェンダー選好の欠如によって定義されていたので、このモデルに従う多くの研究者が、無性愛の被験者を誤って両性愛者に分類する可能性がある」と懸念した。 ポーラ・ヌリウスによる1983年の調査では、妄想と性欲の2次元スケールを用いて性的指向を測定した。回答者には結果に基づいて、異性愛・同性愛について0〜100のスコアが与えられ、両者とも10点未満の得点を挙げた者は「無性愛」と分類された。この群には男性の5%と女性の10%が該当した。調査では無性愛者が、複数のパートナーとの交際、肛門性交、様々な場所での性的接触、自己性愛的活動などの様々な性的な行為の頻度がはるかに低く、その欲求が起こる頻度も低いという結果を示した。 無性愛者の人口統計に関するより経験的なデータが1994年に発表されている。これは英国の研究チームが英国人18,876人を対象に行った包括的な調査で、エイズ流行に伴って性に関する情報収集の必要に駆られたものであった。この調査には性的な惹かれに関する質問が含まれており、1.05%の回答者が「誰に対しても性的に惹かれたことはない」と回答した。 この現象についての研究は、カナダのセクシュアリティ研究者アンソニー・ボガートによって引き継がれ、彼は2004年に一連の研究で無性愛者の統計的人口を調査した。ボガートの研究では、英国の人口の1%が性的な惹かれを経験していないことが示唆されたが、先の調査のために接触した人々の30%が調査に参加しない選択をしたことを指摘した上で、「この1%という数字は、無性愛者と自認する可能性のある人口を正確に反映したものではなく、その割合はおそらくずっと大きい」という確信を述べた。性的経験が少ない人はセクシュアリティに関する研究への参加を拒否する可能性が高く、無性愛者は性愛者よりも性的な経験が少ない傾向にあるため、回答した参加者には反映されていない可能性が高いからである。同じ調査によると、同性愛者と両性愛者の人数の合計は、人口の約1.1%であり、他の調査よりもはるかに小さいことが分かった。 ボガートの1%という数字とは対照的に、2013年に出版されたアイケンらの調査によれば、2000〜2001年のNatsal-2のデータに基づくと、英国における無性愛者の割合は16〜44歳の年齢層でわずか0.4%である。この割合は、10年前の同じ年齢層で収集されたNatsal-1のデータから決定された0.9%という数字からの減少を示す。ボガートによる2015年の分析でも、Natsal-1とNatsal-2のデータの間に同様の低下が指摘された。 アイケン、マーサー、キャッセルは、いくつかの証拠から、性的魅力を感じたことのない回答者に民族的差異があることを見出だした。インドとパキスタンに出自がある男性と女性の両方が、性的な惹かれがないと報告する傾向が強かった。また、ムスリムの被験者のほうがキリスト教徒よりも高い割合で、いかなる形でも性的に惹かれを経験したことがないと答えている。信仰の有無と無性愛との間には何らはっきりとした統計的相関は見つかっておらず、無性愛は信仰を持つ人・持たない人のいずれにも同じように見られる。にもかかわらず、無性愛は禁欲を誓う聖職者の間にはよく見られる。これは、無性愛でない人々のほうが禁欲の誓いを守れない可能性が高いからである。
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