治水構造物・事業の主要例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 08:03 UTC 版)
#治水対策の3方針で上述したように、治水対策は構造物の建設(治水容量の増大)のみならず、被害ポテンシャルの軽減も不可欠である。以下、治水対策として実施される主な構造物・事業を概観するが、以下に示すものだけが治水対策の全てでないことに注意しておく必要がある。 河川改修 河川改修は広い意味範囲を持つ用語である。堤防の建設などのほか、河床に堆積した土砂を除去することや河道の拡張も河川改修に含まれる。河川改修は必ず下流から上流に向かって実施される。上流部の流下能力が下流部のそれを上回ると、河川全域で洪水が発生する危険性が増すからである。 ダム ダムは、洪水調節を行う上で非常に効果的な構造物である。ダムに貯水しうる流量(容量)は大きいので、多量の洪水調節量を負担させることができる。建設にかかる経済的・時間的コストがかなり大きいこと、ダム下流の水量が低下すること、自然環境へ与える影響が小さくないこと、などの問題点も抱えている。詳細は「ダム」、「多目的ダム」、および「治水ダム」を参照 堤防 河川の流水が人間の生活・活動範囲へ流出するのを最前線で防御しているのが堤防である。堤防も、洪水流による越水や洗掘で破壊されたり、堤防地下を流れる浸透流によって漏水破壊されることがしばしばある。堤防の破壊を防ぐため、堤防護岸・裏法面の補強のほか、水制を設けて洪水流による堤防浸食を防止したり、大河川では数百メートルの幅を持ち洪水時にも破堤することのない高規格堤防(スーパー堤防)を築くなどの方策がとられている。詳細は「堤防」を参照 放水路 既存の河道では、氾濫を起こさずに洪水流を流下させることが困難・不可能な場合、放水路が設置されることとなる。放水路は洪水流のバイパスと呼ぶべきもので、一般的には、広い河床を持つ直線的な流路として建設される。詳細は「放水路」を参照 捷水路(しょうすいろ) 河川の屈曲部では河水が円滑に流下せず滞留しがちとなり、洪水の一因となることがある。屈曲部を短絡し、なるべく直線的に設けられた新河道を捷水路という。捷水路は、河道の流下能力を増加させる機能を持つ。詳細は「捷水路」を参照 遊水池 遊水池の持つ機能は、ダムと同じく洪水調整量を負担することである。多くの場合、遊水池に面する河川堤防は他より低く建設され、洪水時には堤防を越えた河水が遊水池に流入する。下流の洪水流が十分流下しきった時点で、遊水池に貯留した河水が河川に戻されることとなる。遊水池の中には、平時は水田や公園等として使用されるが、洪水時には遊水池となるよう設定されたものもある。これを特に遊水地と呼ぶこともある。詳細は「遊水池」を参照 氾濫原の復元 かつて氾濫原だったが、農地や住宅地などとして人間生活・活動に使用されている土地を再び氾濫原へ復元する事業は、主にヨーロッパ・アメリカ合衆国で盛んに実施されている。氾濫原は、ダムや遊水池と同様に洪水流を収容する能力を持っている。また氾濫原は、豊かな自然環境を保つことのできる場所でもあり、環境保全の観点から見ても、氾濫原の復元は望ましいことと言える。沖積平野の多い東アジアでは、氾濫原の復元を行うことは様々な自然条件的な困難を伴うため、あまり導入は進んでいない。 砂防・治山 治水を効果的に進めていくには、河川の上流域における土砂の動きを適切に管理する必要がある。主に土砂災害を防ぐために行われるのが砂防事業であり、森林保全を通じて土砂管理しようとするのが治山事業である。治水・砂防・治山は相互に影響を及ぼし合うので、互いに密接な連携を持ちながら遂行されていかなければならない。詳細は「砂防」および「治山」を参照 水防 住民が自主的に洪水被害を軽減するために行う活動を水防という。具体的には、洪水警報が発令されたときに地域へ呼びかける、破堤しそうな箇所がないか警戒にあたる、破堤しそうな箇所があれば水防工法を用いて応急処置を行う、などの活動を実施する。水害を防ぐ上で非常に重要な活動であるが、例えば日本では、住民意識の変化に伴い行政を頼る傾向が強くなり、自ら守ることに立脚する水防意識が次第に弱まっていることが治水研究者などから指摘されている。 治水地図 治水を目的とした地図には、治水地形分類図やハザードマップなどがある。治水地形分類図は、日本において1976年 - 1978年に治水対策を進める上の基礎資料として作成された。ハザードマップは、水害時の被害予想をわかりやすく図示した災害地図をいう。被害ポテンシャルを軽減する効果が高い。住民への情報周知とあわせて、住民の水防意識を高める上で有効な手段である。詳細は治水地形分類図、ハザードマップを参照。この他、治水大国といえる日本では、近世期に作成された治水図と呼ばれる歴史的な地図が多数作られている。 洪水保険 洪水による人命・財産のリスクを軽減させる方策の一つが洪水保険である。洪水保険が特に発達しているのがアメリカ合衆国で、連邦政府が運営する全米洪水保険制度が存在している。アメリカを含め、各国で民間の洪水保険があるが、掛け金が著しく高額なため加入率は低率にとどまっている。
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