民族菌類学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/10/07 07:45 UTC 版)
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民族菌類学(Ethnomycology)は、菌類の歴史的な使用や社会学的な影響の研究であり、民族植物学や民族生物学の下位分野とみなされている。 理論上は火口や、薬としての薬用キノコや(酵母を含む)食物も含まれるが、マジックマッシュルームやベニテングタケ、麦角菌のような向精神性のキノコや菌類の研究が多い。
アメリカの銀行家のロバート・ゴードン・ワッソンは、1950年代にこの分野の研究の先駆者となり、彼は妻と共に、クランデロ(治療的シャーマン)のマリア・サビーナによるマサテコ族のキノコの儀式に参加し、西洋で最初にそのことで記録された者となった。生物学者のリチャード・エヴァンズ・シュルテスもまた民族菌類学者の先駆者とみなされている。後の研究者には、テレンス・マッケナ、アルバート・ホフマン、ラルフ・メツナー、カール・ラック、ブライス・ダニエル・ステープルズ、ジョルジョ・サモリーニ、Keewaydinoquay Peschel、ジョン・マルコ・アレグロ、クラーク・ハインリッヒ、ジョナサン・オット、ポール・スタムなどがいる。
菌類学的な同定に加え、民族菌類学は人類学と文献学の大きな文脈によるところが大きい。民族菌類学者における主な議論には、インド・アーリア人の古い文献『リグ・ヴェーダ』に登場するソーマは、ベニテングタケなのではというワッソンの仮説がある[1]。これに続いて、他の古代の文化における向精神性キノコの使用法を特定するための、信頼性について様々な似たような試みが行われてきた。 他によく言及されるのは、およそ紀元前1500年から西暦396年の間の古代ギリシアにおけるエレウシスの秘儀での秘跡であるキュケオンについてである[2]。
ワッソンは、歴史的なキノコの使用がそうした儀式と伝統でのシャーマニズムの促進役、あるいはスピリチュアルな体験の核だとみなしているが、マッケナはさらに進めて、シロシビンの摂取がおそらく言語と文化の形成につながったものだと位置づけ、幻覚性キノコを善悪の知識の木の原型だとみなしている[3]。
1990年代には、レイブ文化においてサイケデリック・リヴァイヴァルとの組み合わせで、マジックマッシュルームの娯楽的な使用が盛り上がりを見せ、簡単な培養方法へと改良され、キノコ自体とそうした情報はインターネットを介して広まった。 こうした「キノコの使用の舞い上がり」は、民族菌類学の大衆化を促し、ウェブサイトや掲示板などでのクリスマスやメルヘン物語の象徴的意味についての議論をもたらしている。
出典
- ^ 『聖なるキノコソーマ』せりか書房、1988年。ISBN 4796701575、Wasson, R. Gordon (1968). Soma: Divine Mushroom of Immortality. ISBN 0-15-683800-1.
- ^ Wasson RG, ((Albert Hofmann)), ((Ruck Carl A.P)) (1998). The Road to Eleusis: Unveiling the Secret of the Mysteries (second ed.). Hermes Press. p. 149. ISBN 0-915148-20-X.
- ^ 『神々の糧―太古の知恵の木を求めて―植物とドラッグ、そして人間進化の歴史再考』第三書館、2003年。ISBN 4-8074-0324-9。McKenna, Terence (1993). Food of the Gods: The Search for the Original Tree of Knowledge A Radical History of Plants, Drugs, and Human Evolution (reprint ed.). Bantam. ISBN 0-553-37130-4.
参考文献
- Oswaldo Fidalgo, The ethnomycology of the Sanama Indians, Mycological Society of America (1976), ASIN B00072T1TC
- E. Barrie Kavasch, Alberto C. Meloni, American Indian EarthSense: Herbaria of Ethnobotany and Ethnomycology, Birdstone Press, the Institute for American Indian Studies (1996). ISBN 0-936322-05-5.
- Aaron Michael Lampman, Tzeltal ethnomycology: Naming, classification and use of mushrooms in the highlands of Chiapas, Mexico, Dissertation, ProQuest Information and Learning (2004)
- Jagjit Singh (ed.), From Ethnomycology to Fungal Biotechnology: Exploiting Fungi from Natural Resources for Novel Products, Springer (1999), ISBN 0-306-46059-9.
- Keewaydinoquay Peschel. Puhpohwee for the people: A narrative account of some use of fungi among the Ahnishinaubeg (Ethnomycological studies) Botanical Museum of Harvard University (1978),ASIN: B0006E6KTU
外部リンク
- "Aboriginal use of fungi", Australian National Botanic Gardens Fungi Web Site.
- R.G. Wasson - Harvard University Herbaria
- Carl A.P. Ruck - Boston University Department of Classical Studies
- Albert Hofmann Foundation
- Terence McKenna - Official site
- John M. Allegro - Official site
- Jan Irvin and Andrew Rutajit - Official site
- Dan Merkur - Official site
- Michael Hoffman
- Visionary Mushrooms Studies in Ethnomycology with Contributions by Gaston Guzman and Albert Hofmann
民族菌類学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/24 08:53 UTC 版)
「ロバート・ゴードン・ワッソン」の記事における「民族菌類学」の解説
ワッソンは民族菌類学における研究は、1927年のキャッツキル山地への新婚旅行中にはじまり、その際に、花嫁のヴァレンティーナ・パヴロヴナ・ワッソン(1901年–1958年、小児科医)が天然の食用キノコを発見したのである。キノコに対するロシアとアメリカ合衆国での文化的な著しい相違に魅了されたこの夫婦は実地調査を開始し、1957年には『キノコ―ロシアの歴史』(未訳、Mushrooms, Russia and History)の出版に至った。調査の過程で、メキシコへと、先住民によるキノコの宗教的な使用の調査のための探検に乗り出し、マサテコ族の儀式に西洋人として初めて参加したと主張している。 クランデラ(英語版)(治療のシャーマン)のマリア・サビーナ(英語版)はワッソンが儀式に参加することを許可し、キノコの使用法と効果について教えたのであった。サビーナはワッソンが写真を撮ることを私用のために許可したが、ワッソンは彼女の名前とその地域まで公表してしまった。ワッソンの1956年の遠征の出資者は、CIAによるMKウルトラ副計画58であり、文書によって公開されており、それは情報自由法(英語版)のもとジョン・マークス(英語版)が入手した文書である。文書には、ワッソンは計画に「気づいていない」と記されている。ゲシュチクター医療研究基金(Geschickter Fund for Medical Research)の偽装名で出資されていた。 1957年5月には 『ライフ』誌にて「魔法のきのこを求めて」という記事が掲載され、向精神性キノコの存在についての知識を、幅広い読者に初めて提示した。トム・ロビンズ(英語版)は、この記事が彼を含むアメリカ人を「ターン・オン」(意識を変容させるというティモシ・リアリーの標語)させた影響について語っている。この記事は、ビートニクやヒッピーの間でマサテカの儀式の実践への大きな関心を呼び起こし、マサテカの共同体、特にマリア・サビーナに悲惨な結果をもたらした。共同体にはキノコが誘導する幻覚体験を求める西洋人が殺到し、メキシコの警察は外国人に薬物を売ったとみなしサビーナに目を向けた。マサテカ共同体の社会的な力動は完全に変化し、マサテカの習わしを終わらせるよう脅かした。共同体はサビーナを非難して村八分にし、彼女の家は燃やされた。サビーナはワッソンに教えたことを悔やんだが、ワッソンのただひとつの目的は人類知への貢献であった。 ワッソンは植物学者のロジェ・エイムと共に、モエギタケ科(Strophariaceae)とシビレタケ属(Psilocybe)の様々な種を収集し、また同定し、そうして収集されエイムによって人工栽培されたキノコを用いて、アルバート・ホフマンは有効成分を分離してシロシビンとシロシンと名付け、そして化学構造を研究し、似たような化合物を合成する研究を行った。またワッソンとホフマンはマサテカの幻覚剤であるサルビア・ディビノラムを採取した初の西洋人であるが、後に厳密な科学研究や分類学には適していないとみなされた。キノコの2つの種、Psilocybe wassonii (R.エイム) と Psilocybe wassoniorum (グスマンとS.H.ポロック) は、ワッソンに敬意を表して命名された。 ワッソンのさらなる貢献は古代ヴェーダ期(英語版)のソーマに関する研究で、ベニテングタケ (Amanita muscaria)が用いられたと考えた。この仮説は1967年に『聖なるキノコソーマ』として出版された。さらに古代ギリシャのエレウシスの秘儀に注目し、1978年に『エレウシスへの道』(未訳、The Road to Eleusis)がアルバート・ホフマンとカール・A・P・ラック(英語版)との共著で出版されており、そこで用いられたキュケオン(英語版)には、麦角菌に由来する向精神性のエルゴリンアルカロイドが含まれていたのではとされた。 ワッソンの最後の著書『驚くべきキノコ』(未訳、The Wondrous Mushroom)は、2014年にシティライツ出版(英語版)により再版された。
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