歌舞伎『松竹梅湯島掛額』
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「八百屋お七」の記事における「歌舞伎『松竹梅湯島掛額』」の解説
松竹梅湯島掛額は福森久助作「其往昔恋江戸染」の「吉祥院お土砂の場」と、河竹黙阿弥の「松竹梅雪曙」の「火の見櫓の場」を繋ぎ合わせた2幕物で松竹梅湯島掛額の1幕目の「吉祥院お土砂の場」は歌舞伎では珍しいドタバタ喜劇であり、アドリブも多い。八百屋お七物の全幕物のなかでは松竹梅雪曙とこれが現代(21世紀初頭)上演される数少ない全幕物の八百屋お七である。 松竹梅湯島掛額/松竹梅雪曙は通称「お土砂」と言われるが「お土砂」は大事な小道具で、お土砂は真言密教の秘密の加持を施した砂でこれを死体にかけると死体が柔らかくなると言われている。この物語では生きた人間にお土砂をかけるとかけられた人間は体が柔らかくなり力が抜けて「ぐんにゃり」となってしまうことになっている。また、主役がお七と吉三郎ではなく、紅長こと紅屋長兵衛とお七である。 (吉祥院お土砂の場のあらすじ)幕が通常とは逆に上手から開く。舞台は鎌倉時代の江戸の町。江戸に木曽義仲が攻めてくるともっぱらのうわさで人々は駒込・吉祥院に避難してくる。吉祥院は本堂の欄間の左甚五郎作とされる天女像で有名で天女は美しく、また八百屋の娘お七は天女そっくりの美人である。町の娘達の人気者の紅屋長兵衛(紅長・べんちょう)はお七ととても仲のよい紅売り(化粧品売り)である。吉祥院の寺小姓吉三郎に恋するお七は吉三郎と夫婦になりたいと母に願う。しかし、釜屋武兵衛から借金しているお七の家は、返済の代わりにお七と武兵衛の縁談を進めていると言われたお七は悲しみ、紅長が慰める。そこに吉三郎の家来の十内がやってきて、吉三郎の帰参がかなって国許に帰り家老の娘と結婚するのだと言い、お七はまた悲しみ、紅長が慰める。母は十内にお七と吉三郎の結婚を願うが、身分違いでとんでもないと断られる。そこに吉三郎がやってくるが、実は吉三郎は宝刀「天国の剣」を探さなければならない身でその期限もせまっている。吉三郎は十内に女にうつつを抜かしている場合ではないと怒られる。釜屋武兵衛に案内されて源範頼公の家来長沼六郎がお七を探しにやってくる。源範頼公がお七の美しさを聞いて愛妾にしたがっているのだという。長沼六郎にお七の居場所を問い詰められた寺の住職は困るが、紅長の発案で欄間の天女像を外してそこにお七を入れる。長沼六郎は欄間の天女像の美しさに感心するが実はそれがお七本人だとは気が付かない。その騒ぎを聞いて吉三郎がやってくるが、紅長のお七への入れ知恵によって、吉三郎はお七と夫婦になる約束をさせられる。さて、長沼六郎と釜屋武兵衛はお七を探して寺中を調べるが、お七は死んだと聞かされる。長沼六郎と釜屋武兵衛は疑い、やってきた棺桶の中を調べるが、棺桶から出てきたのは死者に扮した紅長。大の字で立ちはだかる紅長が釜屋武兵衛を張り倒し、釜屋武兵衛が紅長にかけようとした「お土砂」を奪って逆に釜屋武兵衛にかけると釜屋武兵衛は「ぐんにゃり」となる。紅長は長沼六郎たちにもお土砂をかけてぐんにゃりとさせて、お七と下女お杉を逃がす。調子に乗った紅長は舞台上の人々に楽しそうにお土砂をかけてお七とお杉以外の登場人物や舞台の裏方たちをぐんにゃりとさせる。そこにハプニングがおこり洋服の観客が舞台に乱入してくる。観客を引き止めに劇場の女性従業員も舞台に上がる。紅長は観客や女性従業員 にもお土砂をかけてぐんにゃりさせる。さらに紅長は下手から幕を引きに来た幕引きにもお土砂をかけてぐんにゃりさせる。幕引きまでぐんにゃりさせた紅長は楽しそうに自ら幕を引く。 (火の見櫓の段のあらすじ) (場面の前提。吉三郎は主君の宝刀を見つけられなかったことで明日にも切腹となることになり、それを聞いたお七は嘆き悲しむ。その宝刀を自分の家に来ている武兵衛がもっていることを知ったお七は吉三郎のもとに行きたいが、夜間の事ゆえ町の木戸は固く閉まっている。今夜の内に宝刀を取り戻さないと吉三郎の命は救えない。) お杉とお七は町の木戸を開けてくれるよう番人に頼むが、夜は火事のとき以外は開けられないと固く断られる。目の前に火の見櫓はあるが、火事でもないのに火事の知らせの太鼓(あるいは半鐘)を打つのは重罪であるとお杉は恐れる。やがてお杉は主人に呼ばれる。一人になったお七は決心し櫓に登って太鼓を打つ。太鼓を聞いて木戸が開く。そのときお杉が宝刀を取り返してくる。追ってくる武兵衛をお杉が阻止している間に宝刀を持ったお七は木戸を通って吉三郎のもとに走っていく。2幕目は通常のように下手から幕が開く。
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