次世代の評価
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 22:50 UTC 版)
「オランダ黄金時代の絵画」の記事における「次世代の評価」の解説
17世紀オランダ絵画の大きな成功は次世代以降の絵画を圧倒するものだった。18世紀、19世紀のオランダ人画家で世界的な評価を受けている者はいない。17世紀終わりの時点ですら、画商は生きている画家よりも既に死去した画家の作品に興味を示すといわれるほどであった。 オランダ黄金時代の絵画は「巨匠・偉大な画家 (オールド・マスター)」の作品の大部分を占めているが、これは単に17世紀のオランダで大量の絵画が制作されたことによるものではない。「オールド・マスター」という言葉自体が、オランダ黄金時代の芸術家を意味する用語として18世紀につくられたものである。もとはオランダ王室コレクションが所有していたフィリップス・ウーウェルマンの作品だけでも、現在ドレスデンのアルテ・マイスター絵画館に60枚以上、エルミタージュ美術館に50枚以上が所蔵されている。しかし黄金時代のオランダ絵画の評価は時代によって様々で、とくにロマン派以降のレンブラントに対する賛美で顕著だった。一方財産価値と市場価格が大きく下がった画家もいる。黄金世紀終盤でもライデンの優れた画家たちへの評価は高かったが、19世紀半ば以降のさまざまなジャンルで描かれた写実主義の絵画はより賞賛され、高値で取引されることとなった。フェルメールは描いた絵画が19世紀になってから他の画家の作品であるという間違った特定をされ、絵画の歴史からその名前がほとんど抹消されるところだった。しかしながら、他の画家の作品だったと誤解されていたフェルメールの多くの絵画がすでに主要なコレクションに所蔵されていたという事実は、画家の名前に関係なく個々の絵画それ自体が優れていたということを意味している。フェルメールの他にも多くの無名画家の中から後世に有名画家の仲間入りをした画家として、アドリアーン・コールテ(1665年頃 - 1707年)、フランス・ポスト(1612年 - 1680年)らがあげられる。 風俗画は変わらず人気を保っていたが、ジャンルとしての風俗画は依然として低い位置におかれていた。18世紀のイギリス人画家ジョシュア・レノルズは、オランダ絵画について意義深いコメントを残している。レノルズはフェルメールの絵画『牛乳を注ぐ女』やハルスの生き生きとした肖像画などの質の高さに強い感銘を受け、自身の作品に正確に作品を仕上げるだけの忍耐が無かったことを自省している。そしてヤン・ステーンがイタリア生まれで盛期ルネサンスの洗礼を浴びていれば、ステーンの才能はより開花しただろうと残念がっている。レノルズが活動していた時代には、風俗画が内包していた道徳的側面は、黄金時代に道徳的寓意に満ちた風俗画が描かれていたオランダですら理解されないものとなっていた。ヘラルト・テル・ボルフの作品に通称『父の訓戒 (Conversación galante)』と呼ばれる絵画がある。この作品は、父親が娘を叱責しているところを繊細な表現で描いた絵画であるとして、ドイツの文豪ゲーテら多くの著名人に賞賛されていた。しかし現在の多くの美術史家はこの絵画は売春宿で客の男が娼婦を誘っているところを描いた作品であるとしている。この作品にはベルリンとアムステルダムに二枚のヴァージョンがあり、客の男が持っている「告げ口コイン (tell-tale coin)」は、片方のヴァージョンにしか描かれていない。片方の作品のみに描き足されたのか、あるいは両方の作品にもともと描かれていたのが片方の作品から除去されたのかははっきりしていない。 18世紀後半にイングランドでは、オランダ絵画の現実的写実主義は「ホイッグ党風」と呼ばれていた。フランスでは啓蒙時代の合理主義哲学と結びついて、政治改革への願望の象徴となった。19世紀になるとオランダ写実主義は世界的な評価を得た。「ジャンルのヒエラルキー」の順位付けは衰退し、当時の各国の画家たちはオランダの風俗画から、写実主義と絵画に物語を与えるためのモチーフの両方を自分たちの作品に取り入れ始めた。オランダ絵画と同じような主題の絵画を描き、静物画以外では黄金時代のオランダ絵画が大きなキャンバスに描かれるあらゆる絵画ジャンルの先駆者ともいえる存在になっていった。 18世紀では風景画はイタリア風絵画がもっとも影響力があり、高く評価されていた。しかしイタリア風風景画は人工的で不自然であるとするロマン派の一員だった19世紀イギリス人画家ジョン・コンスタブルのように、抑制された色調の古典的な作風の画家を好む芸術家もいた。19世紀の風景画においてはオランダ写実主義絵画とイタリア風絵画はどちらも影響力があり、大衆からの人気があったのは間違いない。
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