感染における役割
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/01/25 17:35 UTC 版)
溶血素は病原細菌の宿主体内での鉄分の獲得に関わる。鉄分は、様々な病原性細菌の増殖における制限要因である。遊離鉄は有害なフリーラジカルを生成することがあるので、体内では通常低濃度に維持されている。赤血球は鉄を含有するヘムに富む。赤血球の溶解はその周囲にヘムを放出させ、細菌が遊離鉄を取り込むことを可能にする。 溶血の結果は主に溶血性貧血、つまり赤血球が破壊され、通常時に予想されるよりも早く血流から除去される状態である。この状態になると骨髄での赤血球の生産が間に合わなくなり、酸素は身体組織に適切に行き渡らなくなる。その結果、疲労、痛み、不整脈、心臓肥大または心不全などの多くの症状が現れる。 溶血による症状と疾患は溶血素の種類及びそれを産生する微生物のタイプに応じて異なる。 尿路病原性大腸菌 (Escherichia coli) 由来のα溶血素は腸外感染により膀胱炎、腎盂腎炎および敗血症を、黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureus) 由来のα溶血素は肺炎などの重篤な疾患を引き起こす虞がある。 Aeromonas sobriaのエロリジンは腸管に感染し、また、敗血症や髄膜炎を引き起こす可能性もある。 (上記2種類の溶血素は組織表面に感染した細菌が細胞外から分泌する) Listeria monocytogenes(宿主細胞、主にマクロファージおよび単球内で繁殖する通性細胞内寄生性細菌)由来のリステリオリシンOはファゴソーム膜の分解を引き起こし、リステリア症病原菌である本細菌の細胞内での生存と増殖を助ける。 溶血素は重要な人体器官への黄色ブドウ球菌の感染についての因子であることが判明している。黄色ブドウ球菌は肺炎などの重大な感染症の病原菌である 。肺炎の場合、炎症過程およびピロトーシス(英語版)の原因であるNLRP3(英語版)インフラマソーム(英語版)による壊死性肺損傷の誘発にα溶血素が関与する。現時点では、アピゲニンおよびβ-シクロデキストリンは黄色ブドウ球菌による肺炎を軽減すると考えられているが、抗α溶血素抗体は防御をもたらすと考えられている。 別の研究では、黄色ブドウ球菌主要病原性因子の膜孔形成毒素α溶血素(Hla)は代替的なオートファジー経路の活性化に関与する分泌物質であることを示している。このオートファジー応答は、人為的にcAMPの細胞内レベルを上昇させることで阻害されることが実証されている。この阻害は交換因子RAPGEF3とRAP2Bによっても媒介される。 白血球の約80%が生存する用量のα溶血素で前処理した白血球は、細菌および粒子を貪食する能力および走化性を低減させる。白血球の早期活性化、並びにα溶血素による貪食と走化性の阻害がin vivoで起きた時、大腸菌の攻撃からの生存率を大きく向上させる。 多くの溶血素、例えばリステリオリシンOは、宿主食細胞に貪食された感染細菌がファゴソームから脱出すること、それによって宿主の免疫系を回避することを可能にする。
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