後半生のキャリア
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「ニコラス・ヒリアード」の記事における「後半生のキャリア」の解説
ヒリアードはフランスからの帰国後、1579年にロンドンのチープサイド (en:Cheapside) 郊外にあるガター・レーンに居住し、制作を行った。1613年に息子で弟子でもあったローレンスが家業を継ぎ、数十年間にわたってガター・レーンで仕事をすることとなる。その後ヒリアードはより宮廷に近いセント・マーティンズ教会教区に移り住んだが、詳細な住所は分かっていない。そこで工房を開き、ヒリアードのミニアチュールを求める顧客は宮廷人から紳士階級まで広まり、さらに富裕な商人層をも取り込んだ。 父であるヒリアードの「貧弱な模倣」しか成しえなかった息子のローレンス以外に、ヒリアードの弟子からはさらに重要な人物が輩出している。ミニアチュール作家アイザック・オリヴァー (en:Isaac Oliver) や画家・金銀細工師ローランド・ロッキー (en:Rowland Lockey) などである。また、ヒリアードは彼らのような職業的芸術家だけでなく市井の人々にも絵を教えており、そういった無名の女性から1595年にヒリアードに宛てた書簡が残っている。 ヒリアードは金銀細工師としての活動も継続しており、豪華な飾り箱や宝石で飾られた首飾りなどを制作している。有名なものとして、エリザベス1世よりも芸術に理解を示したジェームズ1世から廷臣だったトーマス・ライトに1610年に下賜された「ライト・ジュエル (Lyte Jewel)」がある。他にもエリザベス1世からそれぞれ下賜された、トーマス・ヘニッジ卿 (en:Thomas Heneage) の「アルマダ・ジュエル(Armada Jewel)」や、フランシス・ドレイク卿の「ドレイク・ペンダント (Drake Pendant)」がよく知られている。生涯独身で「処女王」と呼ばれた女王への信仰ともいえるような忠誠心の顕れとして、廷臣たちには少なくとも宮廷内においては女王の肖像画を身につけることが奨励されるようなことさえあった。エリザベス1世もミニアチュールのコレクションを持っており、それは女王の寝室のキャビネットに施錠されて保管されていた。紙につつまれ一つ一つラベルが貼られており、レスター伯を描いたミニアチュールには「わが主人 (My Lord's picture)」と書かれたラベルが貼ってあった。 宮廷ミニアチュール作家としての職分には、ミニアチュールの本来の意味である文書への絵画装飾も含まれており、ヒリアードは重要な書類への装飾を命じられることもあった。1584年のケンブリッジ大学エマニュエル・コレッジの創立認可証(1584年)には、フランドルルネサンス風の精緻な装飾が施されている。他にも書物の表紙の装飾に使われる木版画のデザインも手がけており、中にはヒリアードのイニシャルが残されているものも存在する。 ヒリアードはエリザベス1世同様、ジェームズ1世にも高く評価され重用された。1617年5月5日には、その後12年間に及ぶエングレービングによる王族の肖像の独占作成権を与えられている。それまでヒリアードもエングレービングの作品を制作することはあったが、王族のエングレービングの作品はは帰化人のレノルド・エルストラックが担当することが通例だった。このようなジェームズ1世からの厚遇はヒリアードの作品に権威を与えるものとなった。第5代ラットランド伯爵ロジャーがデンマーク大使の任を勤めあげたときに16人の同僚はヒリアードが作成した王の肖像画つきの金鎖を、その他のものも王の肖像画を授与されている。ヒリアードを高く評価した同時代人に詩人ジョン・ダンがあげられる。ダンは1597年の書簡詩『嵐 (The Storm)』で、ヒリアードの作品を賞賛している。 ヒリアードは1619年1月3日ごろに死去し、1月7日にウェストミンスターのセント・マーティンズ教会に埋葬された。遺言には20シリングを教区の貧しい人々に、30シリングを二人の妹に、遺品数点を使用人に、そして残りの遺産全てを唯一の遺言執行人である息子のローレンス・ヒリアードに与えると書かれていた。 現存するヒリアードの作品はほとんどがイングランドに所蔵されている。所蔵数はロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館 (V&A) が群を抜いているが、ナショナル・ポートレート・ギャラリーにも何点か所蔵されている。ミニアチュールの保存状態は非常に良好で、絵の具の退色や酸化による銀細工部分の黒ずみは見られるものの、修復の必要は認められていない。
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