大阪大学微生物病研究所附属病院
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「綿ふき病」の記事における「大阪大学微生物病研究所附属病院」の解説
解決の糸口がつかめないまま時間が経過していった。田尻は他の医療機関での検査入院をN農婦と家族に根気強く説得しつづけ、ようやく1966年(昭和41年)になって本人と家族の承諾が得られそうになった。承諾が得られそうだと田尻より連絡を受けたISIRの二国は大阪大学微生物病研究所(通称、微研)所長の天野恒久の許可をもらい、微生物病研究所の附属病院院長の芝茂へ事情を説明し、N農婦を入院させて診察し、原因を究明し治療を行って治癒するのが理想だが、せめて体内で本当に綿が生産されているのかだけでも突き止めて欲しいと懇願した。二国の真剣な願い出に賛同した芝は微研附属病院外科医局員を全員集め、そこで改めて二国から経緯の説明と検査入院の要望を行い、外科医局員らにより承諾された。 1966年(昭和41年)4月12日、N農婦は岡山の田尻医院から車で6時間をかけて、大阪市大淀区(現北区)堂島にある大阪大学微生物病研究所附属病院(今日のNTTテレパーク堂島付近)へ運ばれた。微生物病附属病院では特別に用意された合成繊維で作られた衣料にすべて着替えさせ、病室内装備も綿の混入が起こる疑いが起こらないよう、あらゆる可能性を排除遮断した状態にしたうえで検診と創口の観察が行われた。 監視は微研附属病院の医局員が交代により昼夜不眠の24時間体制で続けられ、最初の5日間は発熱と衰弱があって創口からは多量の綿が排出し続けた。6日目から排出量が少なくなったものの、創口の奥をまさぐると少量の綿が確認された。排出量が減少するのと同時に発熱も治まり元気になっていったという。検査入院を知った大阪大学医学部附属病院の内科、耳鼻科、婦人科、泌尿器科、神経内科の各主任教授がN農婦の診察に訪れ、かねてより田尻が報告した通り、尿中や胃液の中からも少量の綿が確認された。 このように検診と監視が数日間続き、入院11日目となる同年4月22日に大きな出来事が起こる。検査の一環として行った全身のレントゲン撮影で、腰部と大腿部に太い木綿針 のようなものが、折れたものを含め8本入っていることが確認されたのである。当然ではあるがN農婦本人は針の挿入を否定し、事故などで針が入った覚えもないと言った。 検査入院の仲介役を担った二国は木綿針確認の知らせに驚くとともに、すぐに岡山の田尻に大阪へ来てもらうよう連絡し、田尻、二国、附属病院医局の一同が集まり今後の相談を行った。木綿針が体内で見つかったことは何らかのトリックである疑いを強く示唆するものの、これまでの田尻医院での9年間、そしてここ微研附属病院での24時間体制の10日間の観察を通じて、N農婦が自ら綿の挿入を行った現場、その瞬間は誰一人見ていないのである。 しかし、同大附属病院の精神医学科教授の金子仁郎によって、N農婦の綿ふき現象はヒステリー(身体化障害)による自傷症と診断されてしまった。大阪大学の附属病院としては、自分たちの大学病院の専門家、それも教授からヒステリーの診断を下された以上「窓枠のない病室におくわけにはいかない」ということになってしまい、4月25日にN農婦は岡山の田尻医院へ返されてしまった。 結局、微研附属病院の検査では病気の原因は不明のままで、病院長である芝茂によって作成された詳細な臨床報告書や観察結果のデータ類はすべて、同じ阪大関係の教授とはいえ医師ではない農学者の二国に渡され、発表も二国に一任されてしまった。つまり微研附属病院側はこの件から完全に手を引いてしまったということになる。 この木綿針をめぐる一連の慌ただしい動きを、小林忠義は後年、その時の関係者の心境は「これでほっとした」ということであろうか、と推察し、増田陸郎に至っては「厳重な24時間監視体制で医局員が疲労困憊して、本務に差し支えるまでになったための便宜的判定と考えたほうがよさそうである」と批判し、詐病であるなら詐病でもよいので、主治医である田尻やN農婦本人が「カブトを脱ぐ」ようなハッキリした証拠をつきつけ「以後は綿の生産を中止せよ、はい参りました。」と何故解決できないのだ、と怒りを露わにした。 金子教授によりヒステリーの診断を下され、不穏になりつつあった学会内における綿ふき病の扱いは、更なる影響を与えられた。検査入院前は「これで事態が進展するはず」と期待した田尻や二国らは完全に梯子を外されてしまい、結果的に「詐病」の烙印を押された形になってしまった。
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