基油別分類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/04 23:30 UTC 版)
グリースの多くは基油を鉱油としている。合成油は鉱油と比べて高価であるが、硫黄といった不純物を含まない。合成油は特殊な用途の場合に採用される。 鉱油系グリース 一般的な石鹸型グリースには、鉱油が使われている。鉱油はパラフィン系とナフテン系がある。鉱油は合成油と比べると安価である。欠点として、精製で取り除ききれない不純物のため、熱安定性が低いこと、流動点が高いことである。低くとも-20℃で凝固する。このため、合成油と比べると使用温度範囲は狭い。 PAO系グリース 基油がポリ-α-オレフィン(PAO)のグリース。PAOは潤滑性、粘度温度特性、低温流動性、耐熱性、および酸化安定性に優れる。増稠剤は主にウレア化合物かリチウムヒドロキシステアレートである。 PAOグリースの使用温度限界はウレア化合物で200℃、リチウムヒドロキシステアレートで150℃である。200℃の使用環境ではウレア系増稠剤と有機酸エステルの組み合わせはより高い潤滑性と酸化安定性を示すが、エステル系グリースは耐油性と耐水性に劣り、また高粘度のエステル油が多く存在しない。このため、高温環境ではPAO系のウレアグリースがより多く使用される。 PAOは比較的樹脂への影響が小さいが、70℃でもPC樹脂やPC/ABSアロイ樹脂を侵す。 エステル系グリース 基油が有機酸エステル(ジエステルまたはポリオールエステル)のグリース。有機酸エステルは一般に流動点が低く、粘度指数と引火点が高い。このため、エステル系グリースは低トルク性と低摩擦性に優れる。高引火点のため、難燃性を要する分野に利用される。熱安定性が高く、長期間の使用に耐え得る。有機酸エステルのエステル基は金属と結合して分子レベルの潤滑膜を形成するため、エステル系グリースは潤滑性に特に優れる。一般にジエステルよりもポリオールエステルの潤滑性が高い。有機酸エステルは一般に広い使用温度範囲を持つが、ジエステルは低温性が、ポリオールエステルは高温性がより強い。エステル系グリースはシリコーングリースよりも低価格で潤滑性に優れるため、シリコーングリースの代替品として利用されることがある。欠点として、耐油性と耐水性が低い。また、有機酸エステルはゴムを膨潤させる傾向がある。 フッ素グリース 基油がパーフルオロアルキルエーテル(PFAE)であるグリース。増稠剤にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用する。フッ素グリースは耐熱性、耐水性、機械的安定性ともに非常に高い。特に200℃以上の使用環境で多く使用される。PFAEは酸化劣化や揮発しにくく、長期使用に有効である。フッ素グリースは温度変化による性質の変化が小さく、低温から高温まで幅広く使用できる。基油は蒸気圧が小さいのでフッ素グリースは真空やクリーンルームで使用できる。不燃性であり、強酸や強塩基といった薬品や溶剤に対して強い。プラスチックやゴムを侵さず、それら部品の潤滑に適合する。欠点として、PFAEは多種の合成油や鉱物油に溶けない。このため、フッ素グリースを防錆剤や他のグリースが残っている場所に使用するとグリースがなじまずに摩擦や摩耗が生じる場合がある。また、高温(300℃程度)で熱分解すると有害なガスが発生する恐れがある。 シリコーングリース 基油がシリコーンオイルであるグリース。シリコーンオイルは耐熱性・耐寒性・化学的安定性などに優れており、シリコーングリースもこれらの性質を有する。シリコーンオイルはゴムやプラスチックを侵さないため、ゴム部品やプラスチック部品の潤滑に利用される。増稠剤は金属石鹸などである。en:Silicone greaseも参照。 フェニルエーテル系グリース 基油がフェニルエーテル系の合成潤滑油(二環以上のフェニルエーテルの、ポリフェニルエーテルの、あるいはフェニルチオエーテルのアルキル化合物)であるグリース。フェニルエーテル系合成油の利点は、常温で液体の有機化合物の中で最高の耐熱性と耐酸化性である。欠点は粘度指数の低さ、流動点の高さ、非常に高い価格などである。フェニルエーテル系グリースは、非常に高温な現場で使用される。 特に、種々のアルキルジフェニルエーテルは耐熱性と耐酸化性に加えて潤滑性が高く、耐熱グリースの基油として多く用いられる。例えば、C16, C18のアルキル基を付加したモノアルキルジフェニルエーテル(MADE)と、C12, C14を付加した重質アルキルジフェニルエーテル(HADE)は鉱油と同程度の潤滑性や耐荷重性を示す。 一般的に、高温や高荷重などの過酷な条件で転がり軸受にグリースを用いた場合、軸受の金属組成が変化して金属表面が剥離する。この剥離現象は、グリースの分解により生じた遊離水素が金属を攻撃するためだと考えられている。フェニルエーテル系合成油は通常のエステル系やα‐オレフィン系合成油、および鉱油よりも熱、酸化、放射線などへの安定性が高く、遊離水素を生じさせにくい。このため、フェニルエーテル系グリースはエステル系グリースやPAO系グリースよりも、金属を剥離させるまでの期間が長い。放射線による劣化速度が遅い。
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