国務大臣の罷免
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/22 05:19 UTC 版)
内閣総理大臣は、日本国憲法第68条の規定に基づき、国務大臣を任意に罷免することが可能である。罷免する理由としては、全会一致を要する閣議において、閣議決定・閣議了解の採択に反対する国務大臣が出た場合にその者を罷免し閣内意思の一致を図る例、あるいは内閣総理大臣がある大臣に国務大臣たるにふさわしくない行為があったと判断し辞任を促したものの当該大臣が非を認めず自主的辞任を拒んだため罷免する例などが挙げられる。 大日本帝国憲法の下では、国務大臣の任免は内閣総理大臣の権限事項ではなく天皇の専権事項(第10条)とされていたため、閣議案件に反対する大臣がいた場合、全会一致になるように説得させるか、内閣総辞職するかのいずれかを選択するしかなかった。特に軍部大臣現役武官制が存在していた時期には、軍部がその制度を通じて陸軍大臣・海軍大臣の選任に介入したため、軍部の意向に反する政権の維持は事実上不可能になっていた。 こうした反省から、新憲法では国務大臣の任免権は内閣総理大臣に帰属することとされた。日本国憲法第68条の「任意に」とは国務大臣の罷免には法的には何らの制約なく内閣総理大臣の自由な裁量によって決しうるという意味である。国務大臣の罷免についての政治上・道義上の当不当は本条の問題とは別の問題である。一般には国務大臣の罷免権は任命権と同じく内閣総理大臣の専権に属すると解されている。 なお、国務大臣の任免は天皇の国事行為であり、天皇によって認証される(日本国憲法第7条第5号)。したがって、内閣総理大臣の専権事項とされる罷免そのものの決定には閣議は不要とされるが、通説では天皇の国事行為である認証については内閣の助言と承認が必要であり閣議を要すると解している。ただし、事の性質上、この閣議において国務大臣の罷免を妨げることは許されず、罷免される国務大臣はこの内閣の助言と承認の決定に加わることができないと解されている。 辞令上、依願免(依願免官)の場合には「願に依り本官を免ずる」と表記されるのに対し、罷免の場合には「本官を免ずる」とだけ記され、「罷免」という単語が用いられることはない。 日本国憲法下における国務大臣の罷免例は、2021年(令和3年)現在、5例しかない。罷免の実例は少ないが、首相の罷免権を背景として形式上は自発的に辞任させられた更迭の事例は多く、このように罷免権は実質的に国務大臣に対して辞表を提出せしめる権限である。これは実際に罷免権を行使する場合には大臣が自ら辞任した場合以上に首相の任命責任を野党から問われかねないためである。内閣総理大臣による国務大臣に対する罷免権は、仮に全閣僚が首相の方針に反対したとしても、首相自らがすべての大臣を罷免・兼務してでも閣議決定・閣議了解を採択できる一人内閣を作れるほどの強い権限を持っており、「伝家の宝刀」としての機能を果たしているとされる。 国務大臣罷免例年月日内閣名前役職主な理由1947年(昭和22年)11月4日 片山内閣 平野力三 農林大臣 米価問題とGHQの意向 1953年(昭和28年)3月3日 第4次吉田内閣 広川弘禅 農林大臣 衆議院議員吉田茂(首相)懲罰動議採決欠席 1986年(昭和61年)9月9日 第3次中曽根内閣 藤尾正行 文部大臣 韓国併合に関する見解 2005年(平成17年)8月8日 第2次小泉内閣 島村宜伸 農林水産大臣 衆議院解散の閣議決定への署名拒否 2010年(平成22年)5月28日 鳩山由紀夫内閣 福島瑞穂 内閣府特命担当大臣 普天間基地移設問題に関する閣内不一致
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