危険性と規制について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 22:06 UTC 版)
ヒトの受精卵等の生殖細胞に応用されかねない、デザイナーベビーへとつながるのではないかとの、倫理的な懸念がもたれていたが、着床させる操作が国際的な学会の合意により自主規制されることになった。但し、定期的に規制を見直すべきとも述べられている。 2015年12月に米国ワシントンD.C.で開かれた第1回ヒトゲノム編集に関する国際会議(International Summit on Human Genome Editing)では、同年4月に中国で行われたヒト胚の遺伝子操作を念頭に現時点で受精卵にゲノム編集をして子どもを誕生させることは無責任だとして行うべきではないという考えを表明していた。しかし、2018年11月に香港で開催の第2回会議で、中国の研究者が世界で初めてゲノムを編集した赤ちゃんを作り出したと主張して世界に衝撃を与え、さらにこの研究者はヒト免疫不全ウイルス(HIV)への耐性を与えることを目的としたこの遺伝子操作が脳機能と認知能力の強化をもたらしたとする動物実験に言及していたことから人間強化の一種である知能増幅を行った可能性も懸念され、日本医師会や日本医学会など日本や各国の学会もこの行為を非難する事態になった。同日、中国科学技術省は、遺伝子編集実験への関与者に活動の中止命令を出し、その後の中国当局の調査で臨床実験と赤ちゃんの実在が確認されて赤ちゃんは広東省政府の医学的監視下に置かれることとなった。また、アメリカの著名な科学者や中国政府にはこの実験に資金面や研究面で協力したとする疑惑も持ち上がった。これを受け、同年12月に世界保健機関(WHO)はゲノム編集の国際基準作成を目指してゲノム編集の問題点を検証する専門委員会を設置することを発表した。 2018年11月時点における各国のヒトの受精卵に対するゲノム編集への規制状況は以下の通りである。 ドイツ、フランス - 法律により禁止。 イギリス - 基礎研究は認め、母体に戻して子どもを誕生させることは制限。正常なヒト受精卵に対するゲノム編集が世界で初めて実施可能。 米国 - 研究に連邦政府の資金を投入することを禁止、寄付などの研究資金では可能。 中国 - 国の指針で子どもを誕生させることは禁止。 日本国内では、厚生労働省によるガイドラインで、生殖細胞と受精卵の遺伝子改変を着床の是非に関わらず全面的に禁止している。しかし、さらにもう一歩踏み込んで、法的規制が必要との声もある。2018年11月28日、生殖補助医療に役立つ基礎研究に限って容認する指針案が了承され、早ければ2019年4月にも解禁される。また、内閣府が実施する「戦略的イノベーション創造プログラム」(略称:SIP、呼称:エスアイピー)の一環で、ゲノム編集とそれに関連する情報が公開されている 実際に患者に対する臨床試験を行うにあたって、患者にオフターゲットによるがんなどのリスクを適切に説明して、インフォームド・コンセントを確立することができるかどうか、また、オフターゲットのリスクと患者の利益の関係の上で、適切な治療として成立しうるのかどうかが、課題とされている。更には、極めて高価な治療となることが予測されることも、課題である。 また、遺伝子組み換え作物 (GMO) としての取扱いについても、問題を生じている。従来のGMOと異なって、ゲノム編集作物の場合は1塩基単位に近い改変が可能である。そのことにより改変されているにも関わらず、改変の痕跡が残りにくい作物が生じる。このため、新しい規制モデルが提唱されている。改変の規模が大きいほど規制の程度を厳しくする案が各国で検討されている。 大学などの研究機関や企業に所属しない個人やグループが、ゲノム編集を含む手法により、自宅などにおいて、実験や自らの肉体を対象とした遺伝子治療、ペットの遺伝子改変などを行う「DIYバイオ」「バイオハッキング」が米国などで広がっている。ゲノム編集の技術がインターネットを通じて広まり、必要な薬品や器材もネット通販で入手しやすくなっていることが背景にあり、規制が後追いになっている。 バイオテロリズムへの応用を危ぶむ声もある。
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