初期のRISC
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最初のRISCは開発時点ではRISCであるとは認識されていなかった。それは1964年にSeymour CrayとJim Thorntonが設計したCDC 6600スーパーコンピュータである。ThortonとCrayは数値計算のためにわずか74種類の命令をもつCPUと周辺プロセッサ(OSの大部分はこちらで実行される)と呼ばれる12種の単純なコンピュータを設計した。CDC 6600にはたったふたつのアドレッシングモードしかなかった。CPUは演算用の11本のパイプラインとロード用の5本のパイプラインとストア用の2本のパイプラインを持つ。メモリは複数のバンクに分かれていて、ロード/ストアは並行して実行することが出来た。命令実行サイクルはメモリアクセスにかかる時間の10倍の速さであった。 もうひとつの初期のロード/ストアマシンとしては1968年に設計されたデータ・ゼネラルのNovaがある。 最も一般に知られているRISCはDARPAのVLSI計画の一環で行われた大学での研究である。VLSI計画は今日ではあまり知られていないが、チップの設計、製造、コンピュータグラフィックスなど様々な特筆すべき成果を生み出している。 カリフォルニア大学バークレー校のRISCプロジェクトはデイビッド・パターソンの指揮の下1980年に開始された。基本的な考え方はパイプラインと今日レジスタ・ウィンドウとして知られている大胆なレジスタの用法であった。同時期のCPUが内蔵するレジスタ本数は少数に限られていて、プログラムはその範囲でレジスタを使いまわした。レジスタ・ウィンドウを持つCPUでは、アーキテクチャ上128本のレジスタを持つが、プログラムからはある瞬間に、特定のレジスタ・ウィンドウに属する8本のレジスタのみが見える。CPUはプロシージャ(ルーチン、関数)ごとに別のウィンドウを割り当て、プロシージャごとに相互に異なる8本のレジスタを使用する。そのためプロシージャコールや復帰が極めて高速に実施される。 当時、パターソンらは、RISCはCPUを1チップに収めるための制約の下に単純なアーキテクチャを設計・実装したもので、性能が低下すると考えていた。レジスタ・ウィンドウは、その性能低下を補うために導入されたのである。1981年に発表された論文では、VAX11/780に対して実行サイクル数比で4倍との性能が示されたが、RISCの効果が正しく評価されず、レジスタ・ウィンドウによる効果だと説明されていた。 このRISCプロジェクトは1982年にRISC-Iを完成させた。同時期のCISCプロセッサが10万個のトランジスタからなっていたのに対して、わずか44,420個のトランジスタからなるRISC-Iは32種類の命令しか持たなかったが、極めて高性能だった。次いで1983年にRISC-Iの3倍の性能のRISC-IIが登場した。RISC-IIは40,760個のトランジスタからなり、39種類の命令を持っていた。 同じころ、ジョン・L・ヘネシーは1981年、スタンフォード大学でMIPSプロジェクトを開始した。MIPSでは命令パイプラインを可能な限りフルに動作させることを目標としていた。命令パイプラインはすでに他でも使われていたが、いくつかの工夫によりMIPSのパイプラインは非常に高速に動作した。最も重要な点は全ての命令を1クロックサイクルで実行されるようにしたことである。これによりパイプラインは最大限に効果を発揮しプロセッサの高速化を実現した。但し、乗算や除算といった有用な命令は省略されていた。 チップ上にRISCのCPUを作るという最初の試みは、1975年にIBMが行ったもので、上述の大学の研究よりも早い。プロジェクトが開始された建物の番号をとってIBM 801と名づけられたプロセッサファミリはIBMのマシンに広く応用された。1981年に製造されたシングルチップのROMPはResearch (Office Products Division) Mini Processorの略であり、名前が小型の市場を意識していることを示している。これを使って1986年にIBM RT-PCをリリースしたが、性能的には問題があった。とはいうものの、801はいくつかのプロジェクトを生み出し、後にここからPOWERが生まれることになった。 初期のRISCは、単純で小型ながら高い性能を発揮する効果は知られていたものの研究室レベルで留まっていた。バークレーの成果はよく知られるようになったため、RISCという言葉が一般化することになった。多くのコンピュータ業界関係者は、実際の商用アプリケーションを高速に実行できなければ意味がないと批評し、それを使おうとしなかった。しかし1986年、各研究プロジェクトの成果が製品となっていった。実際、ほとんどのRISCプロセッサはRISC-IIの設計をコピーするところからはじまっている。
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