六段目:釣船三婦内(通称:三婦内)
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「夏祭浪花鑑」の記事における「六段目:釣船三婦内(通称:三婦内)」の解説
七月の暑い盛り、高津神社の宵宮の晩のこと。磯之丞は、団七の紹介で内本町の道具屋の手代となったが、義平次らに金を騙し取られそうになり、共犯の仲買の弥市を殺し、琴浦とともに三婦の家に匿われている。そこへ、徳兵衛女房お辰が尋ねてくる。夫婦そろって国許に帰るための暇乞いである。三婦の女房おつぎは、早速磯之丞を一緒につれて帰ってほしいと頼む。二つ返事で快諾するお辰だが、三婦が承知しない、「こんたの顔に色気があるのじゃ」というのが理由で、万が一お辰と磯之丞との間に関係ができてしまうのを恐れているのだ。「それでは、妾の顔が立たぬぞえ、立ててくだんせ、もし、三婦さん」と憤るお辰だが、三婦はうんといわない。思い余ったお辰は傍にあった焼き鏝を己の頬にあて、「これでも思案のほかという字の色気がありんすか」と自身の美貌を醜くしてまでの心意気を示す。感心した三婦は承諾する。 そこへ、権と八がきて琴浦を拉致しようとする。信心のため喧嘩を止めていた三婦は我慢ならず、おつぎと、「こりゃ!嬶、どうでも、切らなあかんなあ」「ほんなら、こちの人、切らしゃんすのかい」「おお、切らいでどうする」と相談する。権と八は老人と思って舐めてかかり「おお、おもろいなあ、切るんかい」「切ってもらおうかい」「さあ切れ!」「ええ、キリキリと切りさらせ!」とすごむ。三婦は、耳につけていた数珠を引きちぎり「じゃかましいわい、わいが切るのはこの数珠じゃ、切ったからには元の釣船、うぬらに遠慮がいるものかい」とあべこべに権と八をけり倒して「お前らそこで待ってけつかれ」と、着替えたあと、長ドスをひっさげ佐賀右衛門を斬りに行く。お辰はおつぎに見送られ、磯之丞とともに家を去る。 入れ違いに義平次が駕籠を連れて門口に現れ、「年取って子供に使われてます、団七に頼まれて琴浦を引き取りにきましたのでな」とおつぎに訳を話し、そそくさと琴浦を駕籠に乗せて連れて行く。そのあと、三婦、徳兵衛とともにやってきた団七はお辰から事情を聞かれるが自身が言った覚えがない。どうやら佐賀右衛門が欲深い義平次を使って琴浦を攫う算段のようだ。団七は急いで駕籠のあとを追う。 見どころ この場面では東京は「聖天」。上方は「だんじり」の下座が使用される。幕開けに祭礼の音楽が聞こえ、獅子舞が家の中を踊り、女房おつぎが祭りの時に食べる鯵を焼いているという、真夏時の大阪の下町が見事に活写されている。なお、獅子舞は家の様子を探りに来た權と八であることが示され、後半部への伏線が貼られている。 この場は三婦が主役である。人生の辛酸を知り尽くした老侠客の心意気が求められ、硬軟取り混ぜた見せ方が難しい。十三代目片岡仁左衛門がその意味で最高の三婦を見せたといわれている。ほかには、三代目市川左團次、八代目市川團蔵、七代目嵐吉三郎、四代目尾上菊次郎など腕達者な脇役が印象的だった。近年は四代目市川段四郎、坂東彌十郎、四代目市川左團次が得意としている。また、数珠を切り刀を引っさげての入りでは雲竜の墨絵模様の帷子を着るが、これは団七の刺青を引き立てるための演出である。 お辰は三婦役の役者に対抗できるだけの芸力が求められる。今日では四代目澤村源之助のやり方が主流である。とくに引っ込みの際、おつぎに声をかけられたあと、「こちの人が好くのはここやない」と顔を指し「ここでござんす。ごめんやす」と胸をたたく爽快な演出は源之助の考案したもの。十七目中村勘三郎と十八代目中村勘三郎父子は、それぞれ団七との早替わり二役をつとめている。また、衣装も黒帷子に黒繻子の帯、浅黄の綿帽子、それに日傘を差して出る美しい夏のいでたちとなっている。顔のやけどを盆に移し見て、その盆を畳について三婦を見上げる型もある。 三婦女房おつぎは、ごく普通の市井の一女房だが、反面、老侠客の連れ合いの味を出すことも求められ、脇を固める重要な役柄である。十三代目片岡我童のおつぎは上方風の色気を漂わせて絶品だった。三婦が権と八を追い立てて花道を去るときは「ようよう○○屋!」と三婦役の役者の屋号を呼びたて、客席を沸かせる演出となっている。 前半部のおつぎと三婦のやりとりを中心とする重苦しさから、後半部の三婦の数珠の件からは一転して人物の出入りがめまぐるしい快速の運びとなる。幕切れ近く団七が一散に花道に入る時は、東京では「聖天」の囃子で花道の七三にかかり、見得をして引っ込むが、上方では「だんじり囃子」をクレシェンドでもりあげ、団七の焦る心中を上手く表している。そして、韋駄天走りという独自の引っ込みの型をとる。
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