会計と社会
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 23:08 UTC 版)
人員・組織 古代エジプトにおいては、帳簿を記録する書記は重要な役職だった。古代のギリシャやローマは地中海商業で繁栄したが、商業行為は低く見られており、帳簿をつけるのは奴隷の役目だった。委託・受託関係の会計として代理人会計があり、古代ギリシャやローマでは主人が奴隷に委託し、中世ヨーロッパでは領主が荘園の管理者に委託した。これらは株主に経営状態を明らかにする現在の損益計算書とは意味合いが異なる。 古代バビロニアや中世イタリアでは、契約を記録するために立会人や公証人が働いた。イタリアでは契約の増加によって公証人が不足すると、商人がみずから記録を残すようになり、帳簿の普及にもつながった。現在では、専門資格を持つ公認会計士の制度が確立されている。国家の経済体制や社会の価値観によって、会計を扱う職業の立場は変化してきた。たとえば16世紀ヨーロッパでは収税人や帳簿の不正を風刺する絵画が描かれた。社会主義政権時代のロシアでは会計士には人気がなかったが、市場経済化が進むにつれて人気の職業となった。 会計や簿記の複雑化には、商業組織の事業内容、形態、管理が関係した。複式簿記が掲載されたといわれるイタリアの都市国家では、貿易の共同企業から遠隔地に支店をもつ大規模な商会への発展が帳簿の発展をうながした。減価償却・損益計算書・連結決算の成立には19世紀の鉄道業が影響した。 信仰 古代エジプトでは知識の神トートが書記の守護者とされた。キリスト教やイスラームにおいては利子(ウスラ、リバー)が禁止され、中世キリスト教徒の商人の帳簿は神への告解という側面をもった。ヨーロッパでは、帳簿が真実であることを神に誓う証として、元帳に十字架を書く習慣があった。ギリシア神話やローマ神話の公正・正義を象徴する女神は、会計事務所や会計に関する施設にも置かれることがある。 政治 会計は組織の活動を理解する手段として有用であり、政府や自治体の公会計も、営利組織の会計(私会計)と同様に古来から記録されてきた。公会計の資源は徴税であるために、特に支出の統制が重要となった。中世イギリスの会計書は、(1) 公的、(2) 私的、(3) 教会、(4) 慈善組織の4種類があった。 複式簿記の手法を国の財政管理に導入することを提案したのは、17世紀の数学者シモン・ステヴィンの論考「王侯簿記」にはじまる。政府をバランスシートによって評価するという視点は、ブルボン朝の財務長官を務めたジャック・ネッケルの『国王への会計報告(英語版)』がきっかけだった。国家の収入と支出を調べて問題点を明らかにした『会計報告』はフランス革命の一因にもなり、各国の公会計に影響を与えた。私会計と公会計は影響を与え合う関係にあり、19世紀末から20世紀初頭のアメリカでは私会計をもとに公会計が改革され、さらにその成果が私会計に応用された。
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