主要なコンセプト
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「学」としての建築 / 修士論文『建築におけるアカデミズム』1981が相当。1970年代、アメリカの建築界は1860年代から1920年代までのいわゆる「アメリカン・ボザール」を史実としてレビューしていた。ミドルトンらのいくつかの重要な文献がでている。この趨勢をとらえ、建築史はかならずしも前衛からみつのではなく、保守・後衛からみなければ全貌はわからないという革新のもと、ル・コルビュジエらが批判したボザール、さらにはその前身である王政記の王立建築アカデミーを研究対象とすることを考えた。そこで建築をひとつの学問体系としてとらえ、その変遷を追うことを考えたのであった。 「保守からの建築」 / 博士論文『建築におけるアカデミズム』1990が相当。ソルボンヌ大学に提出して受理されていたDEA論文を母体として、王立建築アカデミーにおける建築オーダー比例理論の検討プロセスを明らかにした。アカデミーの1673年から1893年までの議事録を分析し、あるテーマがそれぞれの年に何回の会合で検討されたかという、データの数量的編年をベースにして、それぞれのテーマが集中している時期をあきらかにした。そしておおまかには3期にわけられること、それぞれの時期の建築理論パラダイム、を明らかにした。そののち『アカデミーと建築オーダー』(2005)としてまとめた。 言語論的転回と建築 / 『言葉と建築』が相当。現代思想にはアンテナをはっているつもりであったので、現代思想における言語論的転回には関心があった。また1980年代のフランス留学のとき、さきの研究方法論「学としての建築」からも、17世紀は「建築事典」がいくつか編纂されていることの重要性に気がついた。すなわち「学」の知的基盤として辞典・事典はきわめて重要であり、それを制度的に整備したのがフランス17世紀であった。また19世紀は「様式」の、20世紀は「空間」の時代であったことはだれでも気がつく。『言葉と建築』(1997)は現代思想の傾向からはおおきく遅れてはいるが、エイドリアン・フォーティの『言葉と建物』(原著2000、邦訳2005、原タイトル"Words and Building"を『言葉と建築』と訳すのは無理がある)にはかなり先行している。『建築キーワード』ではたんなる技術的な辞典とはせず、批評性をこめた知的な悪魔辞典をめざした。 時間と建築 / 『建築と時間』は、磯崎論を書いて欲しいという建築雑誌編集者の要請におうじて書いたもの。木村敏『時間と自己』などから着想をえている。建築は「空間」を指標として語られるべきであるという近代建築史の常套をくつがえして、「時間」を指標として語り直そうというもの。 知覚と建築 / 17世紀に書かれたクロード・ペロー「五種類の円柱」は、20世紀後半になっても重要な論考が書かれ続ける重要な文献である。すなわちペローの建築理論を分析することは、17世紀理解にとどまらず、17世紀から21世紀までの建築全般を理解するために必須である。『知覚と建築』は、ペロー「五種の円柱」の邦訳、ペロー理論についての近年の代表的な論考の解題、そして著者によるペローの解題、ペローの解題の解題、という、テキストが重層的に書かれてゆく西洋の言語空間そのものを摘出しようとした。 「聖なるもの」と建築 / 最近20年ほどの宗教学の発展に留意しつつ、近代建築のなかにも全般的に宗教的なインスピレーションが強いことを指摘している。そのなかで「歴史からの脱出」などポレミカルなテーマを扱った。また19世紀フランスにおける、社会の世俗化、歴史的建造物の保全、近代建築理論が相互に密接な関係をたもちつつ展開したことを述べている。 「近代」の時代確定と「産官学」 / 日本の学界・業界では、近代とは20世紀初頭の近代建築運動以降であるとか、英語圏ではModern Architectureというにもかかわらず「モダニズム建築」などという用語に固執する。しかし事実に着目すれば事態はシンプルである。すなわち、「産」=一括建設請負業はいつからか、また建築家の職能団体はいつからか、「官」=本格的な建築行政はいつからか、「学」=大学制度に準拠した建築の高等教育はいつからか、を指標にすれば、イギリスやフランスにおける1830年代が時代の分水嶺であったことは明らかである。したがって近代建築はここ200年というのが、この建築史家の立脚点である。また世界建築史を考える場合、すべての国がこの産官学体制を満たせるわけではないことにも留意しなければならない。
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