並行時間パトロールの登場
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 18:40 UTC 版)
「歴史改変SF」の記事における「並行時間パトロールの登場」の解説
1940年代末から1950年代には、H・ビーム・パイパー、サム・マーウィン・ジュニア、アンドレ・ノートンといった作家がパラレルワールドを舞台としたスリラー小説を書いている。様々な歴史の世界が並存し、それらの間を何らかの技術で行き来する。彼らによって、時空を行き来する技術を持たない世界を秘密裏に利用したり保護したりする帝国が存在するという設定が作られ、それらの世界にジェームズ・ボンド的な秘密諜報員が派遣されているという設定ができた。これをパイパーは並行時間(para-time)パトロールと呼んだ。 このコンセプトは1つの小説に複数の歴史をごった煮のように詰め込むことができ、主人公は悪人に追われて世界から世界へ逃げたり(逆に悪人を追う場合もある)、並行時間警察に追われたりといったストーリーが展開する。 並行時間テーマで警察が出てこない場合もある。ポール・アンダースンは、時空の狭間にある Old Phoenix という居酒屋を創造した。その居酒屋には、アンダースンの様々な作品の登場人物がやってくる。この場合、歴史の共通部分やそれぞれの分岐点は不明確であり、作者がそれについて十分な情報を提供することはない。 並行時間スリラーは後年になって量子力学のエヴェレットの多世界解釈(1957年)で世界の差異を説明することが多くなった。ある作者は世界の分岐は人間の自由意志と意思決定によるとし、別の作者はカオス理論のバタフライ効果を援用して原子などのランダムな差異が増幅されてマクロ的な発散となって歴史の差異が生じるとした。どちらにしてもSF作家は一般に特定の歴史上の出来事から発散が生じるとすることが多い(この時点を POD、Point of Divergence と呼ぶ)。エヴェレット以前、SF作家が並行時間旅行を説明する際には、ピョートル・ウスペンスキーの思想や高次元を持ち出していた。 歴史改変がパラレルワールドで説明される一方で、多世界理論は無限に連なる並行世界へと発展していく。量子力学では、あらゆる量子事象で世界が分岐するとされ、作家が人間の意思決定が分岐を生むと設定したとしても、あらゆる意思決定で異なる時間線に分岐を生じることになる。作家の考えた空想上のパラレルワールドでは想像の範囲外の選択は考慮しないことがある。テリー・プラチェットの Night Watch では、主人公に対して、起きうることは全て起きたが、主人公が妻を殺した世界だけは存在しないと告げる人物が登場する。あらゆる選択肢について世界が分岐するとしたら、主人公は単に幸運な分岐を選んで描かれているだけということになり、勇敢さも知恵も意味が無くなる。この考え方を採用した作家もいるが、ラリー・ニーヴンの「時は分かれて果てもなく」では、そのような無限の分岐が現実となっている世界で自殺や殺人が横行する様を描いている。 たとえ全ての選択で世界が分岐するとしても、勇敢さや知恵がそれらの世界の分布に影響を与えるという議論は可能である(それぞれの種類の世界が無数にあるとしても、無限集合の度合いを測ることはできる)。物理学者デイヴィッド・ドイッチュは量子力学の多世界解釈を強力に支持しているが、これについて「正しい選択をすることで我々は妥当な生活を送っている宇宙のスタックを集中させることができる。あなたが成功すると、あなたと同じ選択をした全てのコピーも成功する。あなたがよい選択をすれば、多元宇宙でよい選択がなされる部分が増大する」と述べている。この見方はSF小説で描くにはあまりにも抽象的すぎるが、それを試みた作家もいる。例としてグレッグ・イーガンの短編「無限の暗殺者」がある。 多くの作家はこのような議論を避けている。H・ビーム・パイパーの『異世界の帝王』では、火薬の製法を知っているペンシルベニアの警官が火薬の製法が秘密にされている世界に転送され、隣国に征服されようとしている国を救う。並行時間パトロールはその征服は成功することになっていると警告するが、この本ではその国が救われた時間線だけを描き、征服によって虐殺が起きた時間線を描くことはしない。 並行時間テーマは1960年代になってキース・ローマーの『多元宇宙の帝国』から始まるシリーズで発展した。パイパーの方向性は政治的により洗練した形でマイケル・カートランド(Michael Kurkland)やジャック・L・チョーカーに受け継がれた(1980年代)。また、パイパーのような並行時間帝国の設定を用いた作品を10代の読者向けに書いたのがハリイ・タートルダヴである。 並行時間における世界戦争(並行時間帝国同士の戦争)というコンセプトは、フリッツ・ライバーがヒューゴー賞を受賞した『ビッグ・タイム』(1958年)から始まるシリーズ(Change War)から発展した。その後1970年代には Richard C. Meredith の Timeliner 三部作、1980年代には マイクル・マッコーラムの『時空監視官出動!』、1990年代には John Barnes の Timeline Wars 三部作が登場した。 並行時間ものの中には、世界によって物理法則が異なるという設定のものもあり、ファンタジーによく見られる。アーロン・オールストンの Doc Sidhe と Sidhe Devil が例として挙げられる。この場合は異世界にもテクノロジーが存在するが、異世界がよりファンタジー的であるほど、その作品もファンタジーに分類される傾向がある。 SFにもファンタジーにも、そのパラレルワールドが歴史の分岐したものなのか不明確な作品がある。分岐点の存在をほのめかすだけの作品もあれば、全く説明なくパラレルワールドを登場させる作品もある。
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