ヴィツェルの世界神話学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/26 15:25 UTC 版)
「比較神話学」の記事における「ヴィツェルの世界神話学」の解説
ハーヴァード大学教授マイケル・ヴィツェル(Michael Witzel)は、世界神話学(World Mythology)の理論を新たに提唱し、パン・ガイア(Pan-Gaean)神話、出アフリカ神話、ゴンドワナ(Gondwana) 神話、ローラシア(Laurasian)神話の類型を提出した 。 パン・ガイア神話 アフリカで誕生した現生人類が保持していたと考えられる最古の神話。 出アフリカ神話 アフリカを出て、アラビア半島からインドに到着した段階で現生人類が保持していたと考えられる神話。 ゴンドワナ神話 ユーラシアの沿岸を移動して パプア・ニューギニアやオーストラリアに到達した人類が、現在のサハラ以南のアフリカの神話と共通して示す特徴的な神話タイプ。ゴンドワナ神話の特徴としては、創造神話の欠如、女性呪術師の欠如がある。 ローラシア神話 インドから東に向かって東南アジア、中国、日本、シベリア、 北米、中米、南米に向かう流れや、インドからユーラシア内陸に向かう流れ、そしてインドから西に向かってレバント、ヨーロッパそして一部は北アフリカにも向かった流れに共通する神話群を指す 。ローラシア神話の特徴としては、宇宙と世界の起源、神々の系譜、半神的英雄の時代、人類の出現、王の系譜の起源、世界の暴力的な終末(または復活)などが共通しており、またこの神話グループにおいては、宇宙は人体に似た生物と捉えられており、原初の近親相姦から誕生し、成長し、滅亡するパターンが認められる。このローラシア神話に属するものは、ウラル、アルタイ、日本、インド・ヨーロッパ、オース トリック(東南アジアとポリネシア)、古代エジプト、メソポタミア、中国、アメリカ先住民(アタバスカン、ナバホ、アルゴンキン、アステカ、マヤ、インカ、アマゾン、ティエラデルフエゴ)の神話がある。 ヴィツェルの世界神話学では、個別モチーフの比較も重要だが、それ以上に神話モチーフの連続の比較が系統性を明らかにするとし、たとえば、言語の比較においても、単語や格変化よりも文法全体を比較する方が有効であるとしている。また、ヴィツェルは、神話体系は歴史的に知られている個別語派が成立する以前にすでに存在していたのだから、デュメジル のインド・ヨーロッパ語族神話研究のような語派を超えようとしない比較は、むしろ比較研究の可能性を自ら狭めているとみなす。同語族間の比較は精度が高いが、しかし、類型論(typology)にとどまらない、系統論としての語派を超えた比較研究も行われるべきであるとしている。なお、日本の比較神話学者松村一男は、このような研究について、個別の神話から例外を持ち出してくる反論が必ずなされるが、研究の大きな方向性を個別例によって全面的に否定しようとするような態度は非学問的だとコメントしている。2012年出版のヴィッツェルの新書「世界神話の起源」(The Origins of the World's Mythologies, NY Oxford University Press)の中でヴィッツェルはこれらの言語学者に対してこう論じている:ヴィッツェルは歴史的比較神話学という全く新しいメソッドを駆使して、神話の連続(ストーリーライン)で可能な有史以前の太古の神話の再構築を成し遂げた。この再構築は1)ローラシア神話の神話連続。2)ローラシア神話が考古学と遺伝学でみられる進化及びその結果と平行対応している。という二点で裏打ち、証明されている。
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