リンネの性分類体系
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「リンネ式階層分類体系」の記事における「リンネの性分類体系」の解説
リンネの『自然の体系 初版』(1735年)に掲載した「性分類体系の鍵 Clavis Systematis Sexualis」 性分類体系の24綱のゲオルク・エーレットによる模式図。 リンネは1753年、 Species Plantarum『植物種誌』において、約5900種の植物を記した。リンネは生殖こそが植物にとって元も重要であり、生殖形質に基づく分類こそが自然分類であると考えた。リンネは植物の体系化において、綱と目という上位の分類階級に対し、そして、植物を雌蕊と雄蕊の数と配置を重視した「性分類体系(羅: Systematis Sexualis、性体系)」を構築した。綱の区分で標識とした形質は雄蕊の数により13綱が区別され、雄蕊の配置の差異や雌蕊との合着および隠花性によって全24群を認識し、それを最上位の「綱 class」とした。そのため「24綱分類」と呼ばれることもある。そこから、雌蕊や花柱の数などを標識に下位の概念である「目 order」に区分した。 萼、花冠、雄蕊、雌蕊、果皮、種子、花床(および花序)などを"fructificatio vegetabilium"と呼んで、主な標識としてすべての植物を分類し、属に分けた。 リンネの体系化は雌雄蕊の属性を鍵として定めたものであり、自然の産物である種と属とは違い、綱と目については人為の所作であることを認めていた。この性分類体系は人為分類を代表するものとされ、18世紀後半のフランスの植物学者たち(例えば、ドゥ・カンドールなど)によって自然分類とは言えないと批判された。彼らからはこの性分類体系のように、教条的な第一原理から人為分類を構築することは「体系的」であると批判され、観察に基づく論証を通じて自然分類を構築することは「方法的」であると称賛された(リンネの時代では「方法」と「体系」はほぼ同義であった)。 また、リンネは植物の上位の分類階級として「科」を用いたが、綱、目、属などの分類階級とは異なる別の分類概念として用いた。リンネは『植物学論』(1751年)において、植物 (Vegetabilia)は菌類 (Fungi)、藻類 (Algae)、蘚苔類 (Musci)、シダ類 (Filices)、禾本類 (Gramina)、ヤシ類 (Palmae)、植物類 (Plantae) の7つの「科 Familiae」からなるとした。性分類体系では最初の4科は隠花植物綱とされ、禾本類の多くが第3綱に、植物類は各綱に分けられた。ヤシ類ではリンネにとって位置づけが難しい分類群で、24綱とは別に扱われていた。 数や量で表現できる標識は、それが困難なものに比べ、明晰で認知が容易であり、数に差がある雄蕊を標識とすることは合理的だと受け止められた。そのようなことから、リンネの分類はそれ以前の体系とは違い、パラダイムとしての力を持っていたとされる。 綱の番号綱の和名綱の学名雄蕊の形質含まれる植物の例生殖器官の図第1綱 一雄蕊綱 Monandria 1本 カンナ属 Canna、アッケシソウ属 Salicornia 第2綱 二雄蕊綱 Diandria 2本 オリーブ属 Olea、クワガタソウ属 Veronica 第3綱 三雄蕊綱 Triandria 3本 多くの禾本 Poaceae 第4綱 四雄蕊綱 Tetrandria 4本 プロテア属 Protea、ヤエムグラ属 Galium 第5綱 五雄蕊綱 Pentandria 5本 サツマイモ属 Ipomoea、ホタルブクロ属 Campanula 第6綱 六雄蕊綱 Hexandria 6本 スイセン属 Narcissus、ユリ属 Lilium 第7綱 七雄蕊綱 Heptandria 7本 ツマトリソウ属 Trientalis、トチノキ属 Aesculus 第8綱 八雄蕊綱 Octandria 8本 スノキ属 Vaccinium、Dirca(ジンチョウゲ科) 第9綱 九雄蕊綱 Enneandria 9本 ゲッケイジュ属 Laurus、ハナイ属 Butomus(ハナイ科) 第10綱 十雄蕊綱 Decandria 10本 ツツジ属 Rhododendron、カタバミ属 Oxalis 第11綱 十二雄蕊綱 Dodecandria 12本(11-19本) カンアオイ属 Asarum、トウダイグサ属 Euphorbia 第12綱 二十雄蕊綱 Icosandria 萼上に20本 サボテン Cactus、Mesembryanthemum(ハマミズナ科) 第13綱 多雄蕊綱 Polyandria 花軸上に 20-100 本 シナノキ属 Tilia、キンポウゲ属 Ranunculus 第14綱 二強雄蕊綱 Didynamia 二強雄蕊(4雄蕊中) シソ科 Lamiaceae の多く 第15綱 四強雄蕊綱 Tetradynamia 四強雄蕊(6雄蕊中) アブラナ科 Brassicaceae 第16綱 一束雄蕊綱 Monadelphia 一束雄蕊 アオイ科 Malvaceae ほか 第17綱 二束雄蕊綱 Diadelphia 二束雄蕊 マメ科 Fabaceae ほか 第18綱 多束雄蕊綱 Polyadelphia 多束雄蕊 カカオ属 Theobroma、オトギリソウ属 Hypericum 第19綱 集葯雄蕊葯 Syngenesia 集葯雄蕊 多くのキク科 Asteraceae 第20綱 雌雄合蕊綱 Gynandria 雄蕊と雌蕊は合着 ラン科 Orchidaceae など 第21綱 雌雄同株綱 Monoeciaia 雌雄花同株 スゲ属 Carex、クワ属 Morus 第22綱 雌雄異株綱 Dioecia 雌雄花異株 ヤナギ属 Salix、ビャクシン属 Juniperus 第23綱 雌雄雑性綱 Polygamia 雌雄花同株または異株同時に完全花をもつ カエデ属 Acer、ヌマミズキ属 Nyssa(ヌマミズキ科) 第24綱 隠花植物綱 Cryptogamia 0本 イノモトソウ属 Pteris、ハラタケ属 Agaricus、地衣類 Lichen
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