ボツリヌス菌のC2毒素
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「二成分毒素」の記事における「ボツリヌス菌のC2毒素」の解説
ボツリヌス菌は土壌や河川、湖畔に存在するクロストリジウム属の細菌である。神経毒であるボツリヌス毒素で知られている。ボツリヌス毒素はコリン作動性末梢神経に作用し、アセチルコリンの遊離を阻害することにより麻痺を引き起こしボツリヌス症を起こす。ボツリヌス毒素の抗原性に基づいてA~Hの8型に分類されてる。ヒトのボツリヌス症の原因となるのはA、B、E、FでありアメリカではA型、ヨーロッパの大半ではB型、北ヨーロッパの一部と日本ではE型が多い。C型とD型は反芻動物(ウシやヒツジ)のボツリヌス症の原因となる。抗原には違いがあるがボツリヌス毒素は薬理学的には同一である。破傷風のテタノスパスミンと同様に菌体内で産出された毒素は死菌の自己融解によって培養液中に放出される。ボツリヌス毒素は分子量約150kDaであり種々のサイズの無毒成分と結合した複合体の形で産出される。複合体毒素は分子量の違いによってLL毒素(分子量90万)、L毒素(分子量50万)。M毒素(分子量30万)にわけられる。無毒成分は胃を通過するときに毒素を胃液から保護し、小腸からの吸収効率を高める働きをする。分子量約150kDaのボツリヌス毒素は蛋白質分解酵素によりN末端より約50kDaのところに切れ目が入ることにより活性化される。分子量約150kDaのボツリヌス毒素は1本鎖で合成された後、重鎖と軽鎖とがジスルフィド結合した2本鎖タンパクとして存在する。ボツリヌス毒素は主として重鎖のC末端側を使って神経細胞膜に結合し(binding)、細胞内へ取り込まれたあと重鎖のN末端側が軽鎖を細胞質内に移行させ(translocation)、細胞質内を移動した軽鎖が酵素として基質に作用する(catalysis)。これによって神経伝達物質放出を阻害する。運動神経終末においてはアセチルコリン放出が阻害されることで神経筋伝達が失われ筋の麻痺が生じる。 ボツリヌス毒素のC型毒素はC1、C2、C3型に分類され、他の毒素型のボツリヌス毒素と同じ作用機序を示すのはC1毒素だけである。そのためC2毒素やC3毒素はボツリヌス毒素ではない。C2毒素はボツリヌスC型およびD型が産出する毒素である。C2毒素ではC2ⅠがA成分でありC2ⅡがB成分である。ボツリヌス神経毒素とは構造および生物活性が全く異なる。C2毒素は水鳥の腸炎の原因として知られているが、それ以外の生物でも肺や消化管での血管透過性亢進などの毒性が知られている。ウェルシュ菌のι毒素は非筋肉のβ/γアクチンだけではなく骨格筋のアクチンも修飾するがC2毒素は骨格筋のアクチンは修飾しない。トリプシンによってC2Ⅱは活性型のC2Ⅱaとなりオリゴマーを形成する。細胞膜上の受容体に結合しC2Ⅰと複合体を形成しエンドサイトーシスの機序で細胞内に取り込まれる。エンドソーム内のpHが下がることでC2Ⅱaオリゴマーがpore形成をしてC2Ⅰが細胞質内に遊離しアクチンをADPリボシル化する。C2Ⅱはウェルシュ菌のι毒素のB成分であるIbと全体では39.0%相同性がある。Ibと同様に4つのドメイン構造からなる。ドメイン1(1-82)が酵素成分との結合、ドメイン2(82-308)が膜侵入領域、ドメイン3(308-410)がオリゴマー形成、ドメイン4(410-539)が細胞への結合へ関与している。ドメイン4はウェルシュ菌のι毒素と1次構造の相同性がない。そのため異なる受容体に作用すると考えられている。 C2Ⅱが結合する受容体はNアセチルガラクトサミンやNアセチルグリコサミン、Lフコース、ガラクトースやマンノースといった糖鎖の結合したグルコプロテインと考えられている。C2Ⅱは多くの種の多くの細胞にエンドサイトーシスされる。しかしRK14という糖転移酵素であるGlcNAc-TⅠが欠損した細胞には取り込まれないことが知られている。
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