ブックビルディング方式の導入
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/06 04:15 UTC 版)
「ブックビルディング」の記事における「ブックビルディング方式の導入」の解説
前述のとおり、ブックビルディング方式導入に至るまでの間、募集又は売出し、とりわけIPOに係る公開価格の決定においては様々な問題があり、その都度、新たな方式が検討、導入された。それは一部入札制度導入後も変わることなく、証券取引審議会において、前述の株価形成上の問題が指摘され、あわせて「株式等の発行市場について、公正・妥当な価格形成機能を維持させつつ、期待される資金供給力をより十全に発揮させていくとの観点から、株式新規公開等における発行条件の決定や募集・売出しの方法及び配分ルールのあり方についての見直しを検討すべき」として、新たな価格決定方法を模索することが行われた。その結果、この問題の解決策を探るべく、新しく設置が予定されていた「店頭特則市場」において、入札制度に代わる新たな方法が検討された。そこで、1992年7月の日本製粉第19回無担保転換社債の発行において初めて採用されてからは転換社債の価格決定方法として、また株式でも、POにおける価格決定方法については、売出しについては1993年7月にアメリカのクライスラーが保有していた三菱自動車株の売出しにおいて、募集についても1994年3月に日本ジャンボーの募集において採用されており、POにおける価格決定方式としては日本国内でも一般的な手法となりつつあったブックビルディング方式が注目された。結局のところ、IPOを予定する発行会社の事業内容、成長性等に即して行われる株式評価を踏まえた仮条件を参考指標としつつ、IPO銘柄に対する投資家の需要を的確に把握することが期待でき、そのようなわけでベンチャー企業等、従来の上場銘柄等に比べ、ハイリスク、ハイリターンな性格を有しており、市場参加する投資家層も自ずと限定されると予想される店頭特則銘柄には、当時欧米のIPOにおいては一般的に行われている手法でもあったブックビルディング方式がふさわしい価格決定方式ではないかと判断されたことから、本方式を導入することが、1999年9月29日に証券取引審議会において決定された。もっとも当時のIPOにおいては、ブックビルディング方式を導入することは初めてのことであり、導入に対して慎重な意見もあったことが、前述の日本証券業協会の報告書に記載されている。 このような経緯を踏まえ、1996年12月にはエーティーエルシステムズ及びアクモスが、特則市場への上場第一号案件でもあり、ブックビルディング方式によるIPOの際の価格決定第一号案件となった。また、これが日本国内でもブックビルディング方式が導入される端緒となった。 その後、1997年3月には、日本証券業協会において「株式公開制度の改善策-ブックビルディング方式の導入に関する要綱」を取りまとめ、さらに同年6月の証券取引審議会においても、「証券市場が企業の資金調達に当たって期待されている役割を適切かつ効率的に果たしていくためには、株式等の発行市場における諸規則・諸慣行について不断の見直しを行っていく必要がある」との考えに基づいて、店頭特則銘柄のみならず、取引所上場銘柄や店頭市場銘柄におけるIPOの際の価格決定方式としてブックビルディング方式を導入すべきであるとされた。これを受けて、東証や大証など各証券取引所及び日本証券業協会では規則改正を行い、新たにIPO時にも公開価格決定方式として、「国際的に整合性があり、市場機能による適正な価格形成が期待できる」ブックビルディング方式を1997年9月から導入した。 また、いわゆる配分上限ルールについて、「一顧客当たり5,000株という配分上限が存在したままでは、本来価格決定能力において相対的に高い能力があるとされる機関投資家等が配分を受ける可能性を事実上排除する制度となってしまっており、機関投資家等からの適正な需要申告が期待できない」との指摘を受けたため、このルールを廃止し、各証券会社で配分に関する基本方針や社内規則を設け、これらの内容を投資家に周知する。同時に、そのほか、価格決定の公正性や透明性の観点から、これにより、その価格決定の良悪を投資家や発行体が容易に判断できるようにするため、価格決定に至る過程を有価証券届出書において開示し、流通市場での公開後の状況を各証券取引所や日本証券業協会に公表させることが大蔵省より求められた。加えて、配分の公平性の観点においても、行政(金融庁や証券取引等監視委員会など。)や自主規制機関(各証券取引所や日本証券業協会など。)によるチェックを後で実施することを可能とするために、引受証券会社の販売方針を有価証券届出書において開示させるとともに、販売先リスト等の証拠書類を一定期間保存することを義務付けた。この結果、証券会社側では実際の配分に際しても社内規則に基づいて配分を行い、当該配分に関して記録を行い、それを保存するとともに、配分が自社で定めた社内規則に基づいて適正な配分を行っていたのか否かを、自社で定期的に検査することなどが義務化されるなど、投資家への配分に関する、証券会社への新たな規制も、このブックビルディング方式の導入に合わせて導入されている。 このような経緯を経て、我が国におけるIPOについては、ブックビルディング方式が導入されており、ブックビルディング方式による価格決定は市場慣行として定着している。
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