フェイズド・アレイ・レーダーとは? わかりやすく解説

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フェーズドアレイ‐レーダー【phased array radar】


【フェイズドアレイレーダー】(ふぇいずどあれいれーだー)

固定式板状アンテナに無数の位相変換素子配置されているレーダー

アンテナ回転させず、電気的な動作位相変換走査)のみで、任意の方向レーダー波を照射したり、任意の方向から来たレーダー波を受信することができる。
そのため、全天の素早い探索可能になり、一方で駆動部分が無いため保守点検工数削減できるという利点もある。

艦船などに搭載され場合は、従来のように頭頂部にレーダー搭載する必要が無くレーダー反射面積縮小できる
より大型指向性が高い(長距離探知高解像度アンテナ搭載することが出来利点もある。


従来レーダーは、自らの正面のみでしかレーダー波の送受信出来ない
そのため、機械的な首振り動作を必要とし、一周全天探索するのに数秒以上を要する
その数秒間長距離移動できる高速物体航空機ミサイルなど)や、複数目標正確な位置情報を得る用途には不向きである。

フェイズドアレイレーダーは、前述のように、位相変換素子レーダー面上並んでいる。
これにより、それぞれの位相変換素子送受信されるレーダー波の位相任意に変化させる
変換されレーダー波を重ね合わせる任意の方向のみのレーダー波が強調され、他の方向レーダー波は打ち消される
このようにそれぞれの位相変換素子位相変換量を個別変えていくことにより、レーダー波の送受信方向変換を行う。
この走査機械的な部分存在しないため、高速レーダー波の送受信方向変換、すなわち全天高速捜索を可能とする。
レーダービーム幅(指向性)に大きな影響与えアンテナ径はフェイズドアレイアンテナそのままである。

この位変換素子それぞれ電波送受信機付属しているものをアクティブ方式別の場所に送受信機持ち導波管を介してアンテナ位相変換素子から電波送受信されるものをパッシブ方式という。

パッシブ方式送受信別の素子で行わなければならないため、アクティブ方式比べやや大型である。そのため、パトリオットシステムやイージス艦など、地上施設艦船用いられる
他方アクティブ方式は高い技術力要求されるが、小型化できる利点があるためF-2やF/A-22など最新鋭戦闘機などに多く用いられる
例外として世界で最初にフェイズドアレイレーダーを搭載した戦闘機であるMiG-31は、戦闘機として唯一パッシブ方式採用している。

mim104.jpg
Photo:MASDF

MIM-104パトリオットレーダー車


フェーズドアレイレーダー

(フェイズド・アレイ・レーダー から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/02 13:16 UTC 版)

アラスカ州にあるフェーズドアレイレーダー(PAVE PAWS英語版)写真左下の車両との大きさに注目されたい。艦船・航空機用はこれより小さい。

フェーズドアレイレーダー英語: Phased Array Radar, PAR、位相配列レーダー)は、フェーズドアレイ型のアンテナを採用したレーダーのこと。フェーズドアレイ・アンテナは、アレイアンテナのうち、ビームの制御をアンテナ素子の励振係数の相対位相によって行うもののことを指す。電子走査アレイ: Electronically Scanned array, ESA)アンテナとほぼ共通の概念であるが、一部に、それぞれ片方の概念しか当てはまらないものもある[1]

動作原理

AN/SPS-39のような従来の3次元レーダーでは、ビーム走査方式として周波数走査(frequency scanning, FRESCAN)方式を採用していた。これは周波数を変化させることで各アンテナ素子の位相を擬似的に変化させてビームを走査するものであり、ビームの指向については比較的自由度が低かったため、多くの場合、垂直方向の走査のみをFRESCANとして、水平方向の走査はアンテナを直接指向する機械式としていた[2]

これに対し、フェーズドアレイ・アンテナにおいては、その名の通り、位相そのものの制御による位相走査(phase scanning)方式が採用されている。これは、各アンテナ素子(放射素子)に移相器を接続し、移相量を制御することでビーム走査を行う方式である。移相器によって移相量を任意に設定できることから、FRESCAN方式と比して自由度が極めて大きくなっている[1]

原理的にはかなり早期から提唱されていたが、移相器に代表される微細加工技術・半導体技術と、信号処理・高速電子計算機技術の進歩によって、1970年代より急速に3次元レーダーの主流として台頭した[3]

アンテナ方式

フェーズドアレイ・アンテナでは、アンテナ素子・移相器と送信機・受信機の関係に応じて、パッシブ式とアクティブ式に大別できる[4]。また広義には、移相器を用いないロットマンレンズ方式も含められる場合もある[3]

パッシブ式

パッシブ式(パッシブ・フェーズドアレイ式、あるいはパッシブ電子走査アレイ(passive electronically scanned array, PESA)式)は、アンテナ素子の部分には移相器のみを内蔵する方式であり、発振器や増幅器のようなアクティブな回路を含まないことからこの名前がある[3]

送信機と受信機はアンテナ全体で1組しか備えられず、この送信機によるレーダー出力が、導波管によってそれぞれのアンテナ素子・移相器に分配されてゆく[4]。このため、大出力の送信マイクロ波が移相器中を直接に伝播することになることから、耐電力性の観点から、フェライト移相器が用いられる事が多い[3]。この移相器や給電分配回路の損失の影響を受けて、送信出力の減少や受信信号の減少が生じるという制約がある[3]。またアンテナ全体を賄うために送信機はかなりの大出力となっており、この送信機に故障が生じるとレーダーとしての機能の喪失に直結する[4]

アクティブ式

アクティブ式(アクティブ・フェーズドアレイ式、あるいはアクティブ電子走査アレイ(Active electronically scanned array, AESA)式)は、アンテナ素子ごとに分散した送信機・受信機・位相器を備える方式である[4]。それぞれのアンテナ素子からの送信電力は小さくても済むことから、半導体化されていることが多い[4]

この場合、アンテナ素子が多数であるので、素子ごとか数個単位で、送信パス・受信パスそれぞれの位相を任意に調整できる位相器を含む送受信モジュール(T/Rモジュール)を配列する[5]。これによってビームの指向制御を行うとともに、空間的に電力合成することによって等価的に大きな送信出力を得ることができる[5]

AESA式の場合、幾つかのT/Rモジュールが故障しても、レーダ全体への影響は軽微である。また半導体化によって個々のT/Rモジュールの信頼性も向上している[4][5]

ロットマンレンズ式

上記のパッシブ式とアクティブ式は、いずれも移相器の移相量を制御してビーム走査を行うのに対して、ロットマンレンズ式では誘電体レンズ (Rotman lens内の電波の行路差を利用して位相を制御するのが特色である[3]電子戦装置のように広帯域特性が要求される場合に有利な方式であり[3]アメリカ海軍AN/SLQ-32でも採用されている[6]

ビーム走査方式

一般的なビーム形成方式はABF(Analog beam forming)と称される[7]。これは送・受信ともにアナログ信号のままでビームを形成する方式であり、1度に1方向にしかビームを形成できない[7]

これに対し、1990年代以降は、DBF(Digital beam formingによるマルチビーム走査の時代に入ってきた[3]。これは所定方位・仰角範囲について同時に多数の受信ビームを形成することで、データレートの向上や超低サイドローブ化によるクラッタ抑圧性能の向上や多機能性の向上などが期待できるものである[3]。一方、複数の受信マルチビームが覆う領域に送信波が届くように送信ビームは広く形成する必要があり、このため送信電力密度は小さくなる[7]

特徴

上記のような技術を用いることで、設計の複雑性や高価格化というデメリットを負う反面、下記のように多くのメリットを得ることができる[3]

多機能同時処理の実現
ビーム走査は全て電子計算機を用いて行うため、ABF方式でも、従来のレーダーと比べるとはるかに高速かつ多様な動作を実現できる[3]。例えば捜索範囲内に複数の目標を探知した場合も、対空捜索と追尾を時分割で切り替えることで、複数目標に対する同時捜索・追尾(Multiple target track, MTT)を実現できる[3]。また従来のレーダーでは追尾目標の有無に関わらず一定速度でビーム走査を行っているのに対し、フェーズドアレイレーダーでは、高速ビーム制御を利用して追尾目標へ重点的に送信電力を放射して、最適配分を実現できる[3]
可動部分や電子管の排除
フェーズドアレイレーダーでは、移相器を制御して電波ビームを二次元に走査可能であるため、捜索・探知・追尾の基本機能を達成するための機械的回転機構が不要となり、信頼性の向上や小型軽量化を期待できる[3]。また回転する部分がなくなることは、アンテナ部分のレーダー反射断面積の低減にもつながる[3]。一方、運用要求や費用対効果等の観点から、機械的回転機構を有するように設計することもできる[3]
また特にAESA式アンテナの場合、送信部に半導体増幅器を使用することによって、システムから電子管を排除して半導体集積回路のみで構成でき、更なる信頼性の向上や小型軽量化を期待できる[3]
電波ビーム形状変更の容易性
優れたビーム形成能力を生かして、捜索・探知・追尾の各機能ごとに適した形状のビームを形成することができる[3]。例えば捜索モードでは垂直方向は広く水平方向は狭いファンビームを用いつつ、追尾モードではビーム幅を絞ったペンシルビームへと瞬時に切り替えることができる[3]。また移相器の制御によってサイドローブのパターンも自由に変えることができるので、送信時と受信時のサイドローブのパターンを変えることで大幅に抑圧することができる[3]
データ取得率の向上
高速ビーム走査制御によって、まず高PRF送信による速度探知モードで遠距離目標を捜索・探知した後にFMレンジングによって距離探知を行うことで、S/N比の確保と探知距離の延伸を両立させることができる[3]。また上記の時分割処理によるMTT機能のほか、送信ビームを高速・任意に走査できる特性を生かして、対空目標捜索と対地・水上目標捜索を同時に行うこともできる[3]
リアクション・タイムの短縮
艦載レーダーの場合、船体の動揺によってビームの指向方向が変化し、精度の低下などにつながることから、従来は機械的にアンテナをスタビライズする必要があったが、フェーズドアレイレーダーでは電子的にビームの空間安定化が可能であるため、極めて短時間にビームを所定の方向に指向でき、リアクション・タイムの短縮が可能となる[3]
電子防護能力の向上
上記のように、フェーズドアレイレーダーではサイドローブのパターンを自由に変えることができるという特性を生かして、妨害の影響を排除するように制御することができるほか、メインローブ方向からの妨害波に対してはビームを集中して探知能力を改善することもできる[3]
また特にAESAでは、アンテナ素子ごとに発射される電波の周波数を変えて、出力の弱い[注 1]様々な周波数帯の電波を様々な走査方向やパターンで発射することが可能であり、目標から反射して戻ってくるこれらをすべて受信して集めてコンピュータで処理することで目標を探知する。また、様々な周波数帯の電波を発射する[注 2]というスペクトラム拡散の機能は、周波数も広範囲に広がり、電波出力が小さいため、被探知の可能性を少なくすることができる[8]
抗堪性の向上
通常のフェーズドアレイレーダーは少なくとも数百、多くは千以上のアンテナ・モジュールで構成されているため、モジュールのうち一部が損傷を受けても、その損傷率が10%程度以下であれば性能劣化は軽微で、ほぼ正常の運用が可能である[3]

機種一覧

艦船用

航空機用

地上用

ミサイルシーカー

日本

ロシア

気象用

脚注

注釈

  1. ^ 直接スペクトラム拡散。ひとつの電波を広い帯域に拡散し、それを集めるため非常に少ない出力でレーダー探知を行える。
  2. ^ 周波数ホッピング方式スペクトラム拡散
  3. ^ 方位角方向の走査は位相走査式であったが、俯仰角方向の走査は周波数走査式で行っていた[2]

出典

参考文献

関連項目


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