ショルメとホームズ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/22 04:06 UTC 版)
「ルパン対ホームズ」の記事における「ショルメとホームズ」の解説
ショルメはルパンシリーズにおいて、「遅かりしシャーロック・ホームズ」で初登場する。この作品では、『ジュ・セ・トゥ』誌での発表時、「シャーロック・ホームズ」本人として登場した。これはすぐさまホームズシリーズの原作者アーサー・コナン・ドイルから厳重な抗議を受けた、という話が流布しているが、実際にそのような抗議が行われたという証言はルブランもドイルも残していない。ただ、ルブランの研究家ジャック・ドゥルアールの「ルブラン伝」(Maurice Leblanc: Arsène Lupin malgré lui)によれば、『ジュ・セ・トゥ』誌の出版元であるラフィット社は、ドイルから自分のヒーローの名前の使用を拒否する手紙を受け取ったと記している(第6章「ルパン初登場 1905−1907」)。『シャーロック・ホームズ百科事典』の著者マシュー・バンソンは「ルブラン側からホームズの登場許可を得ようという働きかけがあったが失敗した」という説を唱え、フランス・ミステリ研究家の松村喜雄は「ドイルはルブランの作品を知りつつ、あえて黙殺した」と解釈している。 ともあれ作者ルブランは、このキャラクターを「ショルメ」と改名し、これ以降キャラクター付けや外見も明確にホームズとは違った別キャラクターとして構築し直した。「遅かりし - 」は単行本『怪盗紳士ルパン』収録時にはショルメと直され、キャラクター付けも修正されているし、その次の作品となる本作では元祖ホームズに遠慮しない、思い切った「ショルメ」というキャラクターとしての対決が描かれている。ホームズの盟友ワトスンにあたるキャラクターも、ウィルソンという別キャラクターである。 しかし、日本語訳では古くからショルメをシャーロック・ホームズと訳すことが慣習となってきた(ただし、ワトスンは訳書によってウィルソンのままのものとワトソンになおしているものとがある)。アナグラムになじみのない日本人向けの、パロディーへの分りやすさを優先させた処置だが、この処置は日本の読者に原作を誤解させる結果ともなっている。 本作のショルメをホームズと認めるかについては、上記の経緯に加えて、ショルメの容姿がホームズのそれと一致しないこと(たとえばショルメは口ひげをたくわえている)や、ワトスンことウィルソンへの態度が彼らしくない(友人というより下僕に近い扱いをしている)こと、そのウィルソンが早々に退場して結局はショルメの単独行になってしまう展開などから、難しいといわざるを得ない。 にもかかわらず、本作はもっとも有名なホームズものパスティーシュの一編である。ドイルの筆になる「聖典」に対する「外典」に位置づける「宗派」も存在する。 どちらの作品も、エルロック・ショルメの視点からの追跡劇が大半を占める。異郷フランスにおいて地の利と組織力において勝るルパン相手に、ショルメが孤立無援に近い状態で捜査を進めるという、不利なだけにかえって盛り上がる「アウェーゲーム」が展開される。 構成的には、作中の「私(ルパンの伝記作家)」があとでウィルソンから聞いた話だという体裁をとっている。 やはりどちらの作品でもショルメは真相にたどりつき、青ダイヤやユダヤのランプといった盗難品も取り戻すことに成功する。しかし、「真犯人」を世に公にすることは諸事情から憚るしかなかった。そのために、この2つの事件はショルメにとって「あまりパッとしない事件」ということになった。かくて、エルロック・ショルメとアルセーヌ・ルパンの対決は、引き分けとして知られることになる。他の多くのホームズものパスティーシュ作品と同じく、「なぜこの事件はワトスンの手で発表されなかったのか」の理由付けがなされていると見ることもできる。 エルロック・ショルメの住いは、ベーカー街221Bならぬ「パーカー街219」である。(邦訳ではこれも「ベーカー街221」などと「訂正」しているものもある) 本作を含むルパン作品の世界には、「エルロック・ショルメ」とは別に、小説中の人物としてれっきとした本物の「シャーロック・ホームズ」が存在する。エルロック・ショルメは、「まるでコナン・ドイルの小説の中から抜け出してきたような」と噂されて登場するのである(が、実際の彼が登場すると、シャーロック・ホームズのような容姿を期待していた周囲の人間は、そのイメージとのギャップに少なからず落胆を強いられる、という描写までハッキリとある)。 なお、作者ルブランはエルロック・ショルメに、鹿撃ち帽をかぶらせ、インバネスマントも着用させている。 ショルメの家族構成は不明だが、ホームズは4分の1フランス人である(「ギリシャ語通訳」) エルロック・ショルメは、その後のルパンものにもしばしば登場する。『奇巌城』において、ルパンの3度目の妻をはからずも射殺してしまったのもショルメである。ルパンはこのイギリス人探偵に完全な勝利を収めることだけはできず、ホームズとは別キャラクターにしたとはいえ、作者ルブランも一定の配慮をしている。その後も、ルパンとは直接対峙はしないものの『ルパンの三つの犯罪』にも登場し、遺稿の『ルパン最後の恋』にも名前のみだが登場する。(邦訳は曽根訳「奇巌城」を除きいずれもホームズとしている) 漫画家の森田崇は『アバンチュリエ 新訳アルセーヌルパン』(講談社)の第3巻所収の「遅かりしHerlockSholmes(ハーロック・ショームズ)」、第4巻-第5巻所収の「金髪婦人」および『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』(小学館クリエイティブ)の第2巻所収の「ユダヤのランプ」では、英人探偵とその助手の名前をハーロック・ショームズ(エルロック・ショルメの英語読み)とウィルソンとしている。
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