エネルギーと農業
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/14 02:40 UTC 版)
1940年代以降、主にエネルギーを多用する機械化、肥料、農薬によって農業の生産性は急激に向上した。それらのエネルギー源のほとんどが化石燃料によるものである。1950年から1984年にかけての緑の革命で世界中の農業が大きく変化し、世界人口が倍増する間に穀物生産量は250%も増加した。現代の農業は石油化学製品と機械化に大きく依存しており、石油不足がコストを増大させて農業生産量を減少させ、食料危機を起こすのではないかという懸念が生じるようになった。 先進国3カ国で農業および食料システムが消費するエネルギーの割合(%)国年農業(直接&間接)食料システムイギリス 2005年 1.9 11 アメリカ合衆国 1996年 2.1 10 アメリカ合衆国 2002年 2.0 14 スウェーデン 2000年 2.5 13 現代の機械化された農業は2つの意味で化石燃料に依存している。1つは農場で燃料として直接使用しており、もう1つは農場で使用するものを製造する過程で間接的に使用している。直接消費としては、農業機械の燃料や潤滑油としての使用だけでなく、乾燥機、ポンプ、ヒーター、冷房などにガスや電力を使っている。2002年の時点でアメリカ合衆国の農家が直接消費したエネルギーは約1.2エクサジュールで、アメリカの全エネルギー消費の1%強程度である。 間接消費は主に肥料と農薬の製造に使われた石油と天然ガスであり、2002年には0.6エクサジュールだった。農業機械の製造に使われたエネルギーも間接消費の一種だが、アメリカ合衆国農務省の統計にはそれは含まれていない。合計すると、アメリカでの農業が直接・間接に消費するエネルギーは全体の約2%を占めている。アメリカでの農業の直接・間接のエネルギー消費量は1979年をピークとして、その後30年間は徐々に減少傾向にある。 食料システムと言った場合、農業生産だけでなく、その後の加工、梱包、輸送、販売、消費、廃棄といった食料にまつわる全てが含まれる。アメリカでは食料システム全体のエネルギー消費に対して農業が占める割合は5分の1以下である。 石油不足が生じた場合、食料供給に影響が生じる。現代的有機農法を採用している農家は、化学肥料や農薬を使わなくとも高い生産量を維持できると報告している。しかし、石油に基づいた技術で可能になった単作栽培で失われた土壌の栄養素の復元には時間がかかる。 2007年、バイオ燃料用作物の栽培が農家をひきつけ、他の要因(輸送コスト上昇、異常気象、中国やインドでの食料需要増、世界的な人口増加など)も加わってアジア、中欧、アフリカ、メキシコなどで食料供給が逼迫し、世界全体で食品価格が高騰した。2007年12月の時点で37カ国で食料危機が発生し、20カ国で何らかの食料価格の統制が行われている。この2007年-2008年の世界食料価格危機で暴動も起きている。 農業に関連して最も化石燃料を消費しているのは、ハーバー・ボッシュ法で化学肥料を作る際に原料の水素を得るのに天然ガスを使っていることである。天然ガスが使われているのは、水素の原料として今のところ最も安価だからである。石油が減少してくれば、天然ガスがその代替として一時的に使われるようになり、需要と供給の関係で天然ガスはさらに高価になる。他の水素の原料が見つからなければハーバー・ボッシュ法による化学肥料の製造は高くつくようになり、化学肥料の入手が困難になることが予想される。そうすると、食品価格が急激に高騰し、世界的な食料危機になる可能性もある。
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