アメリカにおける貧困家庭対策
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 23:58 UTC 版)
「貧困の悪循環」の記事における「アメリカにおける貧困家庭対策」の解説
アメリカの公的扶助の代表として挙げられるのは、「要扶養児童家庭扶助(AFDC)」、AFDCに代わって1996年の「個人責任と就業機会一致法(PRWORA)」の成立に伴って施行された「貧困家族一時扶助(TANF)」である。AFDC、TANFともに貧困児童のいる母子家庭・父子家庭を主な対象としており、障害者や高齢者については「補足的保障所得(SSI)」と呼ばれる制度によって貧困対策を行っている。要扶養児童のいる貧困家族を対象にしているのが貧困家族一時扶助(TANF)となっており、一人親か、二人親でも稼ぎ手が失業中という貧困家庭に期限付きの生活扶助を提供し、同時に就労支援を行うプログラムで、具体的には、60ヵ月の生涯受給制限を設けて就職・就労・職業訓練などを義務づけ、雇用支援、育児ケアなどのサービスを提供している。「要扶養児童家庭扶助」(AFDC)の受給者数がピークに達した1994年には、約500万世帯、全米で8分の1を超える児童がAFDCを受給しており、AFDC 受給児童の半数以上は婚外子であり、4分の3には、離れて暮らす健康体の親がいた。再受給、再々受給を総計すれば、約半数が、5年を超えてAFDCを受給していた。こうした状況に対して、費用を規制するためにAFDCの財源に上限を設ける意見や、単親家庭の貧困児童に恒久的な支援を行うことが、家庭崩壊を助長し、未婚の出産を可能にし、AFDC の長期受給につながったとする意見が出て、福祉改革となった。 AFDC 受給者の大部分は、母子家庭であったため、1975年の社会保障法の改正では、子どもの扶養義務を履行していない親を州政府が探し出し、養育費の取立てを行う「児童扶養強制」プログラムが規定された。同プログラムは、AFDC 受給者には自動的に適用された。その後、96年福祉改革法により、AFDC の TANF への再編が行われた。TANF の目的には就労準備、就労及び結婚の促進により、貧困な親達の政府の手当への依存を終わらせること、婚姻外の妊娠を予防し、減少させるとともに、そのための年間数値目標を確立すること、両親のいる家庭の形成と維持を奨励することがあった。受給者には就労等の義務があり、要請に応じない者には、給付の減額ないし停止という制裁措置がとられTANF 受給中に新たに子どもが生まれた場合、アリゾナ州他が採用しているfamily cap制度により、州政府は、その子どもに対する追加的給付を拒むことができるという特徴を持つ。TANFでは、自立・就労支援で受給者が激減している。制度改革により、州政府にとっては,1990年代前半のAFDC 受給者と比べてTANF 受給者は半減したにもかかわらず,連邦政府からの一括補助金はピーク時の金額が交付され,州政府の支出も継続することが義務づけられていることから,TANFに関連する州独自のプログラムや就業支援策を実施する財政的な裏づけを有することとなった。その結果,多くの州ではTANF から離れた人に対してもある程度の所得に達するまで支援を継続しているという効果を生んでいる。 連邦財源を用いるTANF の支給期間は生涯60カ月(5年)に限定されている。なお、日本においても離婚の増加にともなう母子世帯数の増加を背景にして,児童扶養手当や生活保護の受給世帯が増加していることから,福祉手当の支給に重点を置くのではなく就労による自立を支援するといったワークフェア型の改革が進められている。生活保護制度とTANFを比較分析研究では、TANFの方がより就労促進的な制度となっていることが示された。しかし、日本の稼働可能な世帯の稼働率とTANFの稼働率と比較すると日本の稼働率がより高かった。
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