アイルランドにおける国民投票
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/21 16:41 UTC 版)
「リスボン条約」の記事における「アイルランドにおける国民投票」の解説
アイルランドでは2008年6月12日にリスボン条約批准に伴う憲法改正の是非を問う国民投票が実施され、翌日に開票された結果、投票率53.13%(1,621,037票、うち無効6,171票)で、賛成46.6%(752,451票)、反対53.4%(862,415票)となり憲法改正、条約批准に国民の同意が得られなかった。この国民投票は、ほかの加盟国政府が欧州憲法条約失敗の繰り返しを恐れて国民投票の実施を見送るなか、アイルランドでは欧州連合の基本条約を批准・改廃するときは憲法第29条の規定を改正する必要があるという最高裁判所判決が下されたという経緯があり、リスボン条約の批准にあたっても憲法改正が必要となったためである。 アイルランドでは国民投票実施の前月に首相に就任したばかりのブライアン・カウエンを筆頭に与野党を問わず主要政党がリスボン条約批准賛成を呼びかけていた。その一方で有権者の間でリスボン条約に対する理解が浸透せず、これに受けて議会で少数派のシン・フェイン党などが「わからないものには反対を」という運動を起こし、有権者も同調したことも反対が上回った原因に考えられている。 アイルランドでは2001年にもニース条約批准に有権者の同意が得られず、2度目の国民投票で批准にこぎつけたということがある。ニース条約のときは2002年末までに全加盟国が批准しなければ破棄されるという規定があったが、リスボン条約第6条第2項では2009年1月1日の発効が目標とされているものの、同日に発効されなければすべての加盟国での批准手続が完了した翌月の月初日に発効することが同時に規定されている。そのため2008年6月19-20日にブリュッセルで開かれた欧州理事会では、各国首脳が批准の議決を完了させていない加盟国での手続を進め、そのうえでアイルランドに受け入れられるような適用除外規定を附属議定書の形で加えることなどの対応が協議され、リスボン条約を発効させるための努力を続けることを確認した。しかしながら欧州連合に対して批判的な有力政治家からはアイルランドの No に勢いづき、2008年4月に議会での批准手続を完了させているポーランドの大統領レフ・カチンスキからは「アイルランドが批准しない限り批准法に署名しない」、チェコの大統領ヴァーツラフ・クラウスからは「リスボン条約は死んだ」といった発言がなされた。 2008年12月11-12日にブリュッセルで開かれた欧州理事会において、リスボン条約は欧州連合の拡大とより効率的、より民主的な運営のために必要なものであるということが再確認された。この首脳会議に先立ってアイルランド政府は2008年6月の国民投票について分析し、アイルランドから欧州委員会委員を出せなくなるという点が反対された大きな原因であると判断した。そこで各国首脳はリスボン条約が発効していても欧州委員会では各国から1人ずつ委員を出す従来の制度を維持することで合意した。またアイルランドの税制、国防における中立性や、妊娠中絶、安楽死、同性婚などのアイルランドの伝統的な考え方について特別な配慮をまとめた附属議定書を作成することになった。これらの対応を受けてアイルランドはバローゾ委員会の後任の欧州委員会が発足する2009年11月までに再び国民投票を実施することとなり、2009年6月18-19日に行なわれた欧州理事会で議定書案が合意された。2009年7月8日、カウエンは議会において2度目の国民投票を同年10月2日に実施することを発表した。 2009年10月2日に2度目の国民投票が実施され、翌日に開票された結果、投票率59%(1,816,098票、うち無効7,224票)で、賛成67.13%(1,214,268票)、反対32.87%(594,606票)となり、憲法改正、条約批准が国民に承認された。前回と結果が異なった背景として、1990年代後半からおよそ10年続いた「ケルトの虎」と呼ばれる好景気で外資や輸出に経済を依存してきたアイルランドは世界金融危機の影響によって一転し、失業率も2009年中に17%にまで達するという見込みがなされるなど深刻な不況に見舞われているなかで、有権者の間で欧州連合に対する評価が再確認されたことが挙げられる。 2回目の国民投票にあたって与野党を問わずほとんどの政党が賛成に投票するよう呼びかけたほか、元ポーランド大統領レフ・ヴァウェンサや欧州議会議長イェジ・ブゼクといった国外の政治家もアイルランドで条約批准への支持を有権者に求めた。また経済界からもアイルランド産業雇用者連合会長ダニー・マッコイやライアンエアー最高経営責任者マイケル・オリアリーなどが批准賛成を打ち出してキャンペーンを展開するなど、リスボン条約への支持が広まっていった。
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