『旅愁』検閲とは? わかりやすく解説

『旅愁』検閲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/17 02:00 UTC 版)

横光利一」の記事における「『旅愁』検閲」の解説

1946年1月、『旅愁一篇改造社から改造社名作選として刊行改造社にとっては戦後初の出版であった。この小説戦前大ヒット商品であったことや社長横光との親密な関係などが要因となり、その他に平行して進められていた石坂洋次郎の『若い人』や林芙美子の『放浪記』より前に改造社戦後出版第一号に選ばれた。同年2月に『旅愁』二篇、6月に『旅愁』三篇、7月に『旅愁』四篇を刊行した当時活字飢えていた日本人読者は『旅愁』や『改造』などに殺到し、『旅愁各巻10万部も売れた横光作品連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)の下、民間検閲局(CCD)による検閲表現規制によって改変されたもので、検閲によって削除され部分は反ヨーロッパ的な表現であった異同の例 例えば、戦前の版では 「日本がそのため絶え屈辱忍ばせられたヨーロッパ」 は、 「日本がその感謝絶え自分捧げて来たヨーロッパ」 へと、ヨーロッパに対して否定的な評価から肯定的な評価と書き換えさせられた。 戦前の版では 「何が詭弁だ。万国共通論理といふような立派なもので、ヨーロッパ人はいつでも僕らを誤摩化してきたぢやないか」 は、 「何が詭弁だ。万国共通論理といふ風な、立派なものがあるなら、僕だつて自分をひとつ、そ奴で縛つてみたいよ」 と、ヨーロッパへ名指し批判削除された。 ほかにも戦前の版では 「しかし、われわれがヨーロッパヨーロッパと騒ぐのは、これは結局はヨーロッパ植民地守護してやつているようなものだね植民地を沢山抱きかかへていて、平和平和と云つたつて、そんなことが通るもんぢやない。それを通さうとする常識が、こりや、やつと今ごろ腐りかかつて来たのだ。」 は、 「しかし、われわれがヨーロッパヨーロッパ騒いで来たのは、騒いだ理由たしかにあつたね。いつたい自分の国を善くしたいと思ふのは人情の常として、誰にでもあるものだが、騒ぎすぎると、次ぎには要らざる人情まで出て来るのが恐いよ。」 とヨーロッパの植民地主義についての言及削除され、「人情」が代わりに使用された。 戦前の版では 「日本だけは滅んでくれちや困るとひそかに思ふ」 は、GHQ版では 「たつた一つの心だけ失つちや困ると思ふ」 へと書き換えさせられた。 「アメリカ人」は「その男」と国籍不明に書き換えさせられた。 戦前の版では 「大神捧げまつらん馬曳きて峠を行けば月冴ゆるなり」 は、GHQ版では 「父母と語る長夜の爐(炉)の傍に牛の飼麦はよく煮えてをり」 に変更された。 このようにヨーロッパの植民地主義欧米批判していると読まれるおそれのある箇所はすべて改変され、「人情」「ヒューマニズム「心」といった普遍的な問題置き換えられ愛国心について発言など削除された。 これらの検閲について山本健吉は「カットされたが、たいしたことはなかった」と評価しているが、意味が逆になる書き換え行われ、百カ所以上がカットされた。戦前版と戦後版異同については『定本 横光利一全集第九巻編集ノート」に対照表掲載されている。なお、新潮文庫講談社文芸文庫の『旅愁』はこのGHQ/SCAPによる検閲受けた1950年改造社版を採用している。岩波文庫版定本全集版したがい、『戦前版』を本文としている。 『旅愁』の訂正横光はひどく神経使ったらしく、敗戦衝撃相まって横光は健康を崩した当時中央公論』の編集長だった木佐木勝日記に「横光氏もなかなか立ち直れないようである。梅雨期から真夏へかけて、気候悪条件の中で、くずれゆく肉体支え横光氏の精神力問題である。戦後の心の深手は当分いえそうもない問題の「旅愁」もいよいよ最終巻を迎えて作者の健康のさらに衰えたことを聞く。なにかいたいたしい気がしてならないと書いた。 『旅愁』は合計30売れたが、その印税封鎖預金支払われた。封鎖預金月額300円しか引き出せない仕組みになっており、いくら『旅愁』が売れても生活は窮迫した川端康成が、刊行予定書籍前払い名目で、当時重役をしていた鎌倉文庫から出してくれた3千円糊口をしのぐなどした。

※この「『旅愁』検閲」の解説は、「横光利一」の解説の一部です。
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